「胡桃の言う通りだ。翠、そろそろ自分の振る舞いを反省した方がいい」その声を聞いた瞬間、翠は本能的に体が震えた。顔を上げると、黒いスポーツウェアを着た麟太郎が病室の入り口に立っていた。180センチの長身で、長年身体を鍛えているだけあって、年齢を感じさせない引き締まった体つきをしている。充の顔立ちは麟太郎によく似ていて、並んで立てば一目で親子だと分かるほどだった。ここ数年、青木グループの経営はほとんど充に任せ、麟太郎自身は本社のある東都で資産管理や関連事業を見ながら、半ば一線を退いた生活を送っていた。それでも、青木家で最も発言力を持つ人間であることに変わりはないし、グループの中枢もまだ彼の手中にあり、すべてを充へ譲ったわけではなかった。翠は昔から夫である麟太郎に頭が上がらない。何事にも完璧を求める厳しい性格の麟太郎に対し、翠は長年ずっと、言いようのない重圧を感じてきた。「あなたまで、そんな……私を責めるの?」翠は視線を落とし、小さな声でつぶやいた。麟太郎が両手を背中で組んだまま、ゆっくりと病室の中へ歩いてくる。深津市に戻ってきてから数日、麟太郎はこの街で起きた騒動のあらましは一通り聞いていた。女同士の細かな揉め事には興味はないが、何が問題だったのかくらいは十分理解できる。奈緒のやり方は、たしかに強引で、周囲を巻き込み、多くの人間を振り回したことも事実だ。だが、妻と息子が、出産という人生の大事な節目で奈緒にしてきた仕打ちは、それ以上に看過できないものだった。麟太郎は冷ややかに言い放った。「理由はどうあれ、奈緒が我々青木家の跡継ぎを産んだんだ。性別なんて関係ない。嫁が子どもを産んだ以上、姑としてやるべきことを果たすのは当然だろ?」麟太郎の言葉には苛立ちが滲んでいる。「昔、お前が3人続けて娘を産んだ時、俺の母さんはお前を責めたか?産後の世話もきちんとし、子どもの面倒も手配し、お祝いもきちんと開いてくれたよな?なのに、お前はどうだ?自分の孫をいないもののように扱うなんて」翠の目に涙があふれた。「でも、だって……奈緒の私への態度は……」胡桃がすかさず言葉を挟んだ。「でも、お母さん。奈緒さんが態度を変えたのは、出産してしばらく経ってからだよ。それも、美紀の子どものお祝いだけ盛大にやって、黎ち
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