婚姻届を出して帰る途中、吉田陸(よしだ りく)がふいに口を開いた。「俺、浮気したんだ」彼は私の座る助手席を指さし、残酷な笑みを浮かべた。「昨日はあいつがここに座って、俺にキスしてきた。ずいぶん色っぽい格好をしててさ、我慢できなくなって、そのままヤった」二度目の裏切りだった。私はその場で固まり、苦しさのあまり、ひと言も声が出なかった。けれど陸は、なおもその余韻に浸るように言った。「今なら拓海の気持ちがわかるよ。遥はたしかに、お前より女としての色気がある」成瀬拓海(なるせ たくみ)は私の元夫で、清水遥(しみず はるか)はかつての親友だった。五年前、私は二人がベッドを共にしているところを目撃した。何もかもが嫌になっていたあのとき、私を救ってくれたのは陸だった。なのに今、その同じ相手のために、彼も私を裏切った。喉を見えない手で締め上げられているようだった。どれほど経ったのか、ようやく声を取り戻した私は、震える声で尋ねた。「どうして?」どうして浮気したのに、それでも私と結婚したの?どうして私の人生でいちばん幸せなときに、こんな残酷な形で真実を突きつけるの?陸は一瞬、きょとんとした。そして突然、大声で笑い出した。「お前の勝ちだ」呆然としたまま、私は彼を見た。次の瞬間、カーステレオから聞き覚えのある声が流れてきた。「じゃあ今夜は、私の好きないちご味を使ってね~」私は愕然として目を見開いた。全身の血が、一瞬で凍りついた気がした。「お前が俺の浮気を知ったらどんな反応をするか、遥と賭けてたんだ。俺は、俺に平手打ちするって言った。こいつは、お前は俺にどうしてって聞くって言った。俺が勝ったら、遥は黒ストを穿く。遥が勝ったら……」陸は眉をひょいと上げた。「もう聞こえただろ」その言葉が落ちると同時に、スピーカーから再び遥の声が響いた。「彩葉、五年ぶりね。やっぱりあんた、私が思った通り、相変わらず気が弱いんだ。でも男を見る目だけは昔からずっといいわね。この人、私もかなり気に入ったわ」嘲るような笑い声が、四肢を痺れさせた。意識が遠のくなか、私は五年前に引き戻された気がした。私は出張を切り上げて、元夫の拓海の誕生日を祝おうと思っていた。けれど家に入った瞬間、目にしたのは
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