矢田部千利(やたべ せんり)に18回電話をかけたが、彼は一度も出なかった。VIP入口の外では人々が熱狂し、歓声が次々と湧き上がっているのに、私の耳に届くのは冷たい機械音声だけだった。本当は、もう薄々わかっていた。千利は、また私を裏切ったのだ。それでも、どうしても答えが欲しくて、私は何度も何度も電話をかけ続けた。聞き慣れた呼び出し音が繰り返されるたび、心が少しずつ沈んでいく。フェスはちょうど最高潮を迎えているらしく、会場内からは耳をつんざくような歓声が響いてきた。重低音がフェンス越しにも伝わり、地面が震えているのがわかる。その熱気はチケットを持たない外の観客たちにも伝染し、皆がペンライトを振りながら叫んでいた。その中で、私だけがスマホを握りしめたまま、場違いに立ち尽くしていた。画面に表示された27件の不在着信を見て、ふと、彼が来るかどうかなんて、もうどうでもいい気がしてきた。一か月の冷戦が終わるかもしれないという、あのわずかな期待は、この27回の電話で完全にすり減ってしまった。たとえ今千利が駆けつけてきたとしても、もうやり直そうという気持ちは残っていない。深く息を吸い、気持ちを整えると、私は一人で入場しようとバッグを開いた。千利に気分を台無しにされたとはいえ、この音楽フェスティバルは、私が十年以上も好きで追い続けてきたバンドのトリのステージだ。子どもの頃からずっと来たいと思っていた場所。せっかく手に入れたVIPリストバンドだ、一人でも絶対に入る。そう思って仕切りを開いた瞬間、頭の中で何かが弾けた。――何もない。数日前、大事にしまっておいたはずの二本のリストバンドが、消えていた。どこかに入れ替えたのかと必死に記憶を辿っていると、スマホが通知音を鳴らした。開いてみると、小熊凪希(おぐま なぎ)がSNSを更新した。そこには、ピンクの綿あめを手に、どこかぎこちない表情で立つ千利の姿。普段の冷静沈着で全てを掌握するエリート像とは、まるで噛み合っていない。添えられた文は――【ついにドミ・ドラ様に会えました~!いつでもお願いを聞いてくれるあの人に感謝】どうしても繋がらなかった電話と、消えたリストバンド。そのすべてが、一瞬で繋がった。千利の昔なじみのグループチャットでは、共
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