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第2話

作者: 匿名
千利が帰宅したのは、すでに深夜だった。

私はとっくに身支度を整えて、ベッドに横になっていた。

以前の私は、彼に「家の温もり」を感じてほしくて、帰りが遅い日はいつも灯りを一つ残し、狭いソファに体を丸めて彼の帰りを待っていた。

たとえ彼に冷たく言われても、やめようとは思わなかった。

あれはただの照れ隠しで、本当は優しい人なんだと、勝手に思い込んでいた。

――でも、今思えば、あれは本音だったのかもしれない。

そして今夜、風呂上がりに広いベッドでゆったりと横になってみると、千利の言っていたことは間違っていないと、妙に納得してしまった。

2メートルもあるベッドを使わずに、わざわざソファに縮こまるなんて、確かに自分から苦労を背負い込んでいただけだ。

――もう二度と、あんな馬鹿なことはしない。

背後から温かい体がぴたりと寄り添ってくる。

同時に、甘ったるい香水の匂いが鼻先をかすめた。

その香りには覚えがある。

凪希がいつも使っている香水だ。

かつては千利の腕に包まれるのが好きだった。

嵐の中でようやく港に辿り着いた船のように、心から安心できた。

なのに今、頭に浮かぶのは――凪希が彼の胸に顔を埋めていたあの姿。

込み上げてくるのは、安らぎではなく、嫌悪感だった。

私は思わず彼の手を振り払い、枕を抱えてゲストルームへ向かう。

こんな反応は予想していなかったのだろう。

以前なら、彼が横になるだけで、私はすぐにその腕の中へ潜り込んでいたのだから。

「楓花(ふうか)、お前、どこへ行くんだよ。俺、一日中働いてやっと帰ってきたのに」

――一日中働いて、ね。

その空虚な言い訳に、思わず笑いがこみ上げる。

凪希と一晩中遊んで、さぞお疲れなのだろう。

私は静かに彼を見つめた。

「今日が何の日か、覚えてる?」

千利は眉をひそめ、露骨に苛立った顔をする。

「何の日だよ。付き合って何日記念とか、何回目のデート記念とか?お前ら女って、そういうどうでもいい日をやたら大事にするよな。本当に理解できないよ」

もうこの5年の関係に終止符を打つと決めている。

それでも、その言葉は胸の奥を鋭く刺した。

結婚一周年のときのことを思い出す。

私は家でキャンドルディナーを用意し、彼の好きなレストランの料理を一生懸命作って、テーブルや花まで自分で飾りつけた。

ドアを開けた彼が喜ぶ顔を想像していた。

けれど、実際に返ってきたのは、容赦ない叱責だった。

仕事で疲れているのに、こんなことに付き合う余裕はないと、言われた。

あのときの私は本当にわからなかった。

本来なら、仕事で疲れて帰ってきても、好きな人の顔を見れば元気になれるものじゃないのか、と。

どうして千利にとって、私は「癒し」ではなく「負担」になってしまうのか。

あの日、私は何も言わず、静かに片付けをしてゲストルームへ移った。

それでも翌日、彼から花を渡され、軽く謝られただけで、簡単に許してしまった自分がいる。

仕事で疲れていて言葉が荒くなっただけだと。

自分は感情を表に出すのが苦手なタイプで、こういう形式的なことは好きじゃないのだと。

二人で一緒にいられれば、それでいいのだと。

――あのときの私は、それを信じた。

今思えば、本当に愚かだった。

音楽フェスなんて興味がないと言っていた男が、凪希とはフェスに行き、ピンクの綿あめまで持っている。

――ほら見ろ。

感情を表に出すのを避けているんじゃない。

ただ私を避けていただけだ。

「今日は、私たちの結婚五周年の記念日よ。三日前、あなたはフェスのVIPリストバンドを二本渡して、今日一緒に行こうって言った。そして今日、私は入口で2時間待って、27回電話した。それでも千利は来なかった」

千利の表情が一瞬で固まる。

「仕事が忙しくて忘れてただけだ。次はちゃんと約束を守るよ」

そう言いながら、いつものように私の腰に手を回そうとする。

これが彼の「仲直り」のやり方だ。

以前なら、そのまま流されていたかもしれない。

けれど今回は、一歩後ろに下がってその手を避け、真っ直ぐに彼の目を見た。

「本当は一人で行こうと思ってた。でも、リストバンドもカバンから消えたの」

彼の目に、一瞬だけ動揺が走る。

私が一人で行くはずがないと高を括っていたのだろう。

リストバンドがなくなったことに気づくとは思っていなかった。

それでも表情はすぐに開き直ったものに戻る。

「どこかに落としたんじゃないのか?それか、置き場所を勘違いしてるとか。

どうせ今回は一緒に行けなかったんだし、一人で行っても楽しくないだろ。次はチケット買って一緒に行けばいいじゃないか」

次から次へと重ねられる嘘に、心がゆっくりと沈んでいく。

嘘を隠すには、さらに嘘を重ねるしかない。

ここで問い詰めれば、彼はきっと、まだ言い逃れを続けるのだろう。

――でも、もうどうでもいい。

私はSNSのトレンド画面を開き、一番上に上がっている動画を彼の目の前に差し出した。

「そう。で、本当は仕事で忙しかった?それとも小熊さんと過ごすので忙しかったの?

そもそもリストバンド、私がなくしたんじゃないわよね。家に『泥棒』がいたんじゃないの?」

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