「梨華、ごめん。本当は、お前に嘘をついてたんだ。お前の本当の婚約者は俺だ。俊輔じゃない」その言葉が落ちた瞬間、私の手を握っていた俊輔の指先に、ぐっと力がこもる。私は何も言わなかった。ただ静かに顔を上げ、涙を浮かべた優斗を、まっすぐ見つめる。しばらくの沈黙のあと、私は、ほんのわずかに口元を緩めた。「そう?」私はそのまま俊輔の手を握り返し、指をしっかり絡めた。「今の私は記憶がないの。昔のことなんて何も覚えてない。だから、どうしてあなたの言葉を、信じなきゃいけないの」優斗は、まさか私にこんなふうに拒まれるとは思っていなかったのだろう。彼は一瞬、言葉を失い、その場に立ち尽くしたまま、どうすればいいのか分からない様子だった。「俺が言ってることは、全部本当なんだ」どこかぎこちない言葉だった。「もしそれが本当だって言うなら、どうして婚約者である私を、他の人に押しつけたの」私は一歩、また一歩と、彼との距離を詰めていく。「それって、最初から私のこと、好きじゃなかったってこと?それとも、私には、あなたの婚約者でいる資格がないって思ったの」優斗は、それに合わせるように一歩ずつ後ずさり、やがて背中が裏庭のブランコにぶつかった。それでも、何も言えない。唇を開きかけては閉じ、結局、「ごめん」と、一言しか絞り出せなかった。しばらくの沈黙のあと、彼はようやく顔を上げる。「俺、お前を愛してるんだ」彼は私の手をつかみ、すすり泣きながら言った。「ただの一時の気の迷いだったんだ。自分が本当にお前を愛しているのか、確かめたくて、あんなやり方を選んでしまった」言葉は焦りに満ちているのに、その瞳の奥にははっきりと後ろめたさが滲んでいる。「ごめん」私は、懇願するような彼の視線を受けながら、そっと手を引き抜いた。「それでも愛だって言うなら、そんなの、気持ち悪い」呆然と立ち尽くす優斗をその場に残し、私は俊輔の手を取り、そのまま背を向けて歩き出した。だが、予想に反して、俊輔の表情に喜びの色はなかった。私たちはそのまま、彼の家へと戻る。「記憶、もう戻ってるんだろ?」俊輔のその一言に、私は思わず足を止めた。「どうしてそう思うの?」視線が重なった瞬間、先に目を逸らしたのは、私のほうだった。「私に、記
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