今日は私――白川沙織(しらかわ さおり)の結婚式の日だ。「ごめん。でも、凛沙の命のほうが大事なんだ。今日はどうしても行かなきゃならない!」こんなやり取りは、もう何度も繰り返してきた。それでも、篠原恭弥(しのはら きょうや)がうつむいたまま私に謝った、その瞬間だけは今でも胸が締めつけられる。これが、私と恭弥にとって56回目の結婚式だった。これまで式を挙げようとするたびに、決まって何かが起きた。一回目は、彼の部下の水瀬凛沙(みなせ りさ)が任務中にけがをして、恭弥は式の途中で駆けつけていった。二回目は、凛沙の昇進が決まった日だった。恭弥は嬉しさのあまり涙ぐみながら、式場の入口に私を残したまま飛び出していった。三回目は、私が選んだ挙式日が偶然にも凛沙の母親の命日と重なってしまい、「配慮が足りない」と恭弥に責められ、そのまま式にも来てくれなかった。……そんなことを、私はもう55回も繰り返してきた。それなのに今日の式だけは――なぜか、すべてが驚くほど順調に進んでいるように見えた。けれど――式の最中に、不意に恭弥のスマホが鳴った。受話口の向こうから聞こえてきたのは、女の甘えるような泣き声だった。穏やかだった恭弥の表情が、一瞬で強張る。……ああ、まただ。胸の奥が冷たく沈んでいくのを感じながら、私は思わず口を開いていた。「恭弥、あと10分だけ待って。指輪を交換したら、すぐ行っていいから。お願い……凛沙が命に関わるような状態じゃないって、あなたも分かってるでしょう?」これまで私は、恭弥に何かを頼んだことなんて一度もなかった。それでもこのときだけは――情けないと思いながらも、私は彼の袖を必死に掴んでいた。恭弥がゆっくり顔を上げる。その目に浮かんでいたのは、隠そうともしない苛立ちだった。「いい加減にしろ。軍人の妻になるなら、それくらいの覚悟は最初からしていたはずだろ。俺は遊びで動いてるんじゃない。今この瞬間だって、人の命がかかってるんだ。凛沙は今、屋上で俺を待ってる。一分でも遅れたらどうなるか分かってるのか?もし何かあったら――お前が責任取れるのか?」そう言うと恭弥は、本来なら私に渡すはずだったブーケを無造作に放り出し、そのまま振り返りもせず式場を出ていった。ざわめきが広が
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