Semua Bab イヤホン『アコ』の恋: Bab 21 - Bab 30

47 Bab

2章 5

 多少時間はかかったが何とかイヤホン屋に辿り着いた俺たちは、前回とは違ってDAP置き場のブースへ足を運んだ。 「なるほど、これがDAPか」   棚の上に並べられているそれはどれも直方体で、一部例外を除いてはデザイン的にはどれも似たようなものであった。 「そうです! これがDAPです」 「小さいスマホみたいだね」   強いて違いを上げるとすれば、スマホより遙かに分厚く、ゴツく、ボリュームボタンがダイヤルだったり筐体側面に再生ボタンなどが設置されている機種が結構多いことである。勿論それらがないものや、ボリュームがボタン式なものもあるのだが、スマホっぽくはあってもスマホではないのがわかる。   中にはタッチパネルではなく昔ながらのボタン式のプレイヤーもちらほら見受けられた。その分画面が小さく、音楽以外の用途はハナから考えられていないのがわかる。   タッチパネルのDAPは独自UIのも多数あったがアンドロイドを使っている機種も多かった。   ……アンドロイド? 「個人的には物理キーがあるやつの方が好きなんですけど、最近はこうしたスマホっぽいやつが主流ですねえ」 「ならスマホでよくね?」   俺は心からの疑問を口にした。   だってスマホみたいなデザインで、UIがアンドロイドだぞ? それこそスマホでいいじゃないか。 「ダメですよ!」 「わあ!」   いきなり激昂するな! 迷惑だろが!   しかしそんな突っ込みをするよりも早くアコが猛獣のように噛みついてきた。 「音質が全然違うんですから! 天と地以上ですよ!?」 「マジかよ」 「低音の深いところが出ているか、低音が締まっているか、中音は前に出ているか、ボーカルは生々しいか、アコースティックな楽器はしっかり実在感があるか、金管楽器の伸びは十分か、高音がキラキラしているか、超高音が切れていないか、音場が広いか、解像度が高い、分離はいいか、定位はしっかりしているか、空気感はあるか、オーディオってのはそこまで違うんです!」 「難しいんだね、オーディオって」   正直全然わからんのだが。よく見るとイヤホンジャックが複数あるD
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-05-10
Baca selengkapnya

2章 6

 翌日、土曜日ということもあって俺たちは昼前に改めてイヤホン屋に向かった。出禁にならなくて本当によかった。   わざわざ今日のために一番安いmicroSDを買ってそこに音楽データを入れてはせ参じた。言うまでもなくアコの要望である。   で、今時のDAPはどれもmicroSDスロットが当たり前らしく、なるほど視聴機の全てに搭載されていた。   DAPにmicroSDを差し込み、アコの指を俺の耳穴に突っ込む。   そしてDAPを操作して音楽を再生させてみると―― 「こ、これが今まで俺が聴いていた曲と同じものなのか!?」   思わず声を上げ、目を見開いてしまうほどに次元の違うサウンドが流れてきたではないか。   今までもスマホを通して何度かアコの音は聴いてきた。しかしこれは違う。全然違う。   アコは凄く誇らしげに胸を張った。 「そうです、それがDAPの違いです」   勿論アコの指は俺の耳に刺さったままであり、そこから神秘的な音楽が流れ続けている。 「す、凄い! これは凄い! なんてきめ細やかなサウンド……色んな音が聞こえてくる。それだけじゃない、音が柔らかい……なのにどこまでも伸びていくような高音はどうだ。低音も今までボワボワしてたのがギュッと締まりだした。これが……本当のサウンド」   我ながらまるで詩人のような感想。   いつから俺はオーオタになってしまったのだろう。   人というものは感動すると詩人になってしまうのだろうか。わからない。わからないがただ一つ間違いないことは、DAPというのは凄いということだった。   体がビリビリと痺れる。   とはいえ、だ。 「そうです。さあ、買いましょう」 「無理」   俺は息をつき、ゆっくりとアコの指を抜いた。 「何故ですか! こんなに凄いサウンドなのに!」   アコが怒りながら再び俺の耳に指を突っ込んできた。   俺はもう一度彼女の指を抜き、ちょいちょいと値札を指さす。 「だってさ、これ、値段……」   そう、俺はこのDAPを手に取る前に値段を見ていた。あまりにもトチ狂った価格に目を
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-05-11
Baca selengkapnya

2章 7

 結論を言うのであれば、アコの勘は正しかった。   週明けの放課後、アコの懸念を確かめるようにこう訊ねてみたのだ。 「紐育、今日は一緒に遊べるか?」   すると紐育はぎょっとした様子で目を見開き、何故か異様にうろたえだす。 「え!? えーと、あー、その。今日はまずいんだよ。ごめん」 「最近いつもだな」 「そうかな? たまたまだよたまたま」   そうは言うが金曜土曜、そして月曜も断わられるなんて過去一度だってなかったことだ。   それに今まではむしろ紐育の方から遊ぼうと誘ってきたのである。俺の性格的問題でこっちから誘うというケースは極めて稀だったからな。   アコの言う通りかも知れない。 「紐育の手伝いって週三回だったような」 「最近忙しくてさ、じゃね!」   紐育はそう言うとまるで脱兎のように走って教室を出て行った。   その背中をぼんやりと見つめながら、俺はズボンのポケットに手を入れる。 「……なるほど、確かにおかしい」 「尾行しましょう」 「わあ! だから学校に来んなよ!」   てか教室に入ってくんな! 私服で! 部外者が! ほら、クラスメイトが見てますよ!  俺いじめられちゃうんじゃないかしら。   しかしアコは大変強引で、彼らの視線など気にも留めず、ぐいぐいと俺の腕を引っ張る。 「まあまあ、行きましょう」 「……ったく」   いじめられないことを神に祈るしかない。   ――はっとなる。 「……ちょっと待て、今尾行って言ったか?」 「はい!」 「…………」   俺は二の句が継げなかった。   そして、アコは強引だった。   というか、俺が弱すぎるのかもしれない。ミスターヘタレの称号を得るのは時間の問題だろうね、うん。 「気分は探偵ですね!」 「……ただついて行ってるだけだが」   住宅街は電柱が多い。俺とアコはまるでゴキブリのように電柱の影に隠れながら帰宅する紐育の背中をじっと見つめていた。   不審者ってこういうのを言うんだろう
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-05-12
Baca selengkapnya

2章 8

 尾行であるが、翌日も続いた。 「今日もですね」 「今日もだな」   相変わらず紐育は遊びの誘いを断わり、することと言えばとぼとぼと帰宅し、家電量販店に向かい、何をするでもなくイヤホンコーナーやスピーカーコーナーをぶらつくのだ。   そこに変化はない。一体どういうことだろう。 「取り敢えず紐育さんが音楽が好き、ということはわかりましたね」 「まあ、元々興味あったって言うし」   確かメタルを聴くんだったよな。 「それにバイトじゃないですね。毎日電機屋うろついてます。なんでイヤホン専門店に行かないんでしょう? あっちの方が品揃えも豊富なのに」   確かにアコの言い分にも一理ある。家電量販店は所詮は量販店。取り扱っているのは大手の商品の、それも一部だけだ。イヤホン専門店にあったような商品はほとんどない。 「それに、イヤホンに興味があるなら私たちと一緒に行けばいいのに……私が手取り足取り教えてあげますのに」 「一人でじっくり聴きたいとかじゃないの?」 「彼女、見てはいますが視聴はしてません、今日も、昨日も」 「そうなんだよなあ」   アコの言う通り、紐育は何をするでもないのだ。ただ見ているだけなのだ。   それも寂しそうに、あるいは悔しそうに。 「どういうことでしょう?」 「うーむ?」   さっぱりわからなかった。   俺は腕を組もうとして――肘が商品にぶつかって棚から落としてしまう。 「あ、しまった!」   硬質な音ではないが、プラスチックケースが落ちた際に出た音はそれなりに響いてしまい、紐育に気づかれてしまった! 「きゃ! って……アコちゃん!? 八島も……」   当然、紐育にも聞こえてしまったわけだ。 「あ、バレた……」   ど、どうしたらいいものか。ダメだ、咄嗟にいい文句が浮かばない。サキなら出来たろうが、俺には無理だ。   紐育はずんずんとやけに迫力ある足取りでこちらにやってきながら、非常に怒気を孕んだ鋭い目つきで俺たちをねめつけながら、 「尾いてきたってわけ?」   そう、ドスの
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-05-13
Baca selengkapnya

2章 9

 帰り道。紐育はそのまま家に買ったので、俺たちも家へと向かう。   ちょうど帰宅ラッシュとかちあったようで大通りにはひっきりなしに車が行き交い、ぶうぶうとうるさい音を立てている。  交差点で足を止め、ぼんやりと信号が青になるのを街ながら、俺は息をつく。 「ふう、疲れた。一時はどうなるかと思ったぞ」   すると、アコが何故か脇でじっとを俺を見つめてくる。 「八島くん、ふふ」 「どうしたアコ? えらく複雑な顔をして」   それは嬉しそうで、それでいて悲しそうな不思議な顔つきであった。   何故彼女がこんな顔をするのか。俺にはわからない。   そこに意味があるのかもしれないけれど、それを問おうとは思わなかった。   車が止まる。信号が変わったのだ。   そろそろ夜が来る。   明日になれば元通りの日々が送れるだろう。紐育もつれて、三人でイヤホンを見るのも悪くない。   少なくとも今日この時点においては、そう思ったのだ。   だが――仲直りはできなかった。 「お、おいどうした紐育」   翌日のことだった。学校につくと紐育の様子が明らかにおかしく、彼女は机に突っ伏したまま嗚咽を鳴らしていたのだ。   ただごとではない。そう思った俺は優しく声をかけたが、 「……八島ぁ」   顔を上げた彼女の顔は、見るも無惨に涙まみれ、鼻水まみれであった。   高校生らしさというものを完全に喪失させ、そこにあるのは生まれたての赤ん坊のようなしわくちゃさ。   そんな彼女が机を弾き飛ばさんばかりの勢いで、俺の胸に飛び込んできた。 「わああああんっ! 八島、八島ぁ!」   なんとか倒れ込むのだけは防いだが、この反応は全くもって予想外。   最近の紐育はどうもおかしい。 「ど、どうしたんだよ紐育!? そんな泣いて、え、ええと」「あああん! わあああんっ!」   紐育はひたすらに滂沱を。   周囲からの視線は針のように突き刺さり、取り敢えず俺は彼女を落ち着かせるために一端廊下へと連れ出すことにした。   それから
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-05-15
Baca selengkapnya

2章 10

 放課後、俺たちは家電量販店へと向かった。脇目もふらずめざすはイヤホンコーナー。   イヤホン専門店に比べると品揃えは乏しいし、視聴機に至っては輪をかけて少ない。   だが時間がない以上、これで妥協して貰うしかない。紐育が心から満足できるイヤホンは多分手に入らないだろう。今日は仕方ない。後日改めて彼女が本当に欲しいと思えるイヤホンを見つけられるよう専門店に連れて行こう。   だが、いくら妥協するとは言っても最低限の条件はある。 「アコ、メタルに合うイヤホンってどんなんだ?」   俺が訊ねると、アコは口元に人差し指を添え、うーんと天井を見上げる。 「やっぱり解像度が高くて、高音が伸びやかで、分離がいいやつでしょうねえ。ボーカルを際立たせるより各楽器の響きが重要かと」 「低音は?」 「低音はそこまでは重視しないんですよ、本当のメタルって」 「なるほど……だったら……」   俺は大急ぎで片っ端から視聴する。出来れば日が暮れる前に紐育の家に行きたい。夜に出向いたら心象を悪くするからな。夕飯時に非常識だと思われると話すら聞いて貰えない可能性すらある。   アコのアドバイスに合致するイヤホンを探す。高音が強く、解像度が高いやつ。ボーカルはあまり重視していないからドンシャリでいい。低音もさほど重視していないのならクリアなやつがわかりやすくてよかろう。   そして、一つそれに合致するものを見つけた。 「これかな」   値段は六千円。安くはないが、高校生の小遣いならポンと出せる金額だ。 「紐育。これ、視聴してみてよ」 「これ? ……うん、いい音だと思う。でも、これが?」   紐育が視聴しながら不思議そうに首を傾げた。   そうか、まだ理由を言っていなかったな。おそらく想像も出来ていないのだろう。  だからこそ、俺は息を大きく吸い込んで。 「俺が今から、お前の親に直談判する」 「「ええええええええっ!?」」   何とか日暮れ前に紐育の家に辿り着くことが出来た。時間は五時。まだ夕飯の準備には早い。   これなら大丈夫だろう。 「久しぶりに来たな」
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-05-16
Baca selengkapnya

2章 11

 倉戸京子という女性は、何というか見るからに頑なと言った感じであった。   神職の袴に身を包み、黒髪をまとめ、丈長というウィッグをつけたままの姿はいいとして、問題はその顔だ。   紐育によく似ている。母親似だったわけか。ただ決定的に違うのが目だ。   倉戸京子の双眸はまるで猛禽類のようで、非常に鋭い。正直目を合せているだけで射すくめられそうなほど鋭利であった。   全身からはピリピリと電気でも走ったかのような緊張感溢れるオーラに包まれており、ぴんと背筋を伸ばした正座姿は美しいというより怖い。   正直社務所の一室に案内された時から心臓がはち切れんばかりで、テーブルに向かい合うよいうに座るこの姿はまるで裁判のようですらあった。   お茶に手をつける余裕などない。ただただ時間の経過と共に冷めていくのを見守るだけだった。   そんな彼女に俺は何とか説得を試みた。紐育の趣味を認めてやってくれと。うるさくはしないから許して欲しいと。   あまりに怖いから口調はたどたどしくなってしまったが何とか言うだけ言って、じっと倉戸京子の返事を待つ。やはり、お茶に手はつけられない。   果たして、彼女返事は―― 「なるほど、話はよくわかりました」 「あ、じゃあ」 「ダメです」   にべもないお言葉。思わずずっこけそうになる。座っているのに。   この倉戸京子という人物は、正直かなり苦手な部類である。 「な、なんでですか?」   何とか気力を振り絞って訊ねた。 「まず私が聴覚過敏であることは置いといて、紐育はまだ子供です。それに高校生。年頃でもあります。そんな娘を夜な夜ないかがわしい所に出歩かせるわけにはいきません。親としての責任があります。そんなこともわからないのですが、十七歳にもなって」 「な……っ!」   それは、あまりにも辛辣な言葉であった。   俺は何とか言い返そうとするが、それより早く倉戸京子の言葉が大砲のように炸裂。 「まだあります。そもそも紐育の趣味自体が悪いとは思いません。我が子の意志を尊重しないほど私も狭量ではありません。ですがここは神社です。神域であり、聖な
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-05-17
Baca selengkapnya

2章 12

「おばさんの言うことはよくわかりました。正しいとも思います。でも紐育の趣味を認めつつ、おばさんも納得できる方法があるんです。これを見てください」   紐育からビニール袋を受け取り、先ほど買ったイヤホンをテーブルに叩き――つけると心象を悪くするからそっと置き、彼女の前に突き出した。 「これはイヤホンです。自分の耳に入れてその範囲で聴くものですから、外にはほとんど音が漏れません。参拝客やおばさんに迷惑をかけることはないです。ほら、どうですか?」   そう言って俺はスマホに繋ぎ、音を鳴らす。出来ることなら彼女に聞かせてやりたいが、聴覚過敏である以上死んでも首を縦には振るまい。   それに大切なのは音漏れの問題だ。イヤホンからはかすかに音が漏れていて耳に入れずとも音楽が聴こえてくる。だが、それだけだ。俺たちがこうして話すよりずっとボリュームが小さい。これに反応するというのなら、それは反応する方が悪いんだ。 「ほら、ほんのちょっとしか聴こえないじゃないですか。これなら紐育は夜に出歩くことなく、また家に迷惑をかけることなく好きに音楽を楽しめますよ。これは俺の考えではなく、紐育の発想ですよ。わかってください」   紐育だってわかっているのだ。迷惑をかけないように考えていたのだ。そして俺はその道を示す手伝いをした。本当はスピーカーで鳴らしたいだろう。俺のような無趣味な人間ではなく元々音楽に興味のある人間だ。今まで家の外で音楽をこっそり聴いてきた人間だ。   でもそれをしない。しないでなお音楽を楽しむ。   倉戸京子は家で音楽を鳴らされるのを病的に嫌う。でもそれを尊重する。   それら全ての問題点を解決する究極のアイテムとして俺はイヤホンを提示した!   これに文句があるなら言って見ろ。 「イヤホンですか。ですがこれで満足できるのですか? 人間というのはエスカレートする生き物です。最初はこれでいいかもしれませんが、次第に満足できなくなって結局はまた外出したりするようになるのではないですか?」   おお、本当に言ってきたし。   だが、その程度なら俺は負けない。 「大丈夫です。紐育は賢い子です。おばさんが嫌がることはしませんし、それ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-05-18
Baca selengkapnya

3章 1

 翌日、アコが転校してきた。 「貫井アコです。よろしくおねがいしまーす」 「……馬鹿な」  俺は頬杖ついていた肘をずるりとすべらせ、まるで電車の中で船を漕いだときのようにカックンと頭が前に垂れた。  窓から差し込む初夏の光が、閉じられた部屋の中にじりじりと熱い空気を作り上げ、変な汗が頬を伝ってしまう。  教壇の脇にはセーラー服をまとったアコの姿がある。彼女はにこにこと朗らかな笑みを浮かべており、長い黒髪を優しく棚引かせていた。 「……そんな、馬鹿な」  俺はもう一度そうこぼした。  自身の目元がひくひくしているのがわかる。  するといつの間にか席を立っていた紐育が俺の元まで歩み寄ってきて、ちょいちょいと肩をつつきながら、 「ねえ八島、どういうこと?」  と訊ねてきた。  だが、訊ねられたところで困る。俺は肩をすくめ、ただただ呆れたように息をつく。 「いや、俺にもわからん……」  休み時間、俺はさっそくアコを外へと連れ出した。  転校生の常として他の生徒たちが彼女を囲むことは早々に予想できたので、誰よりも早く、かつ問答無用で彼女の腕を取り、そのまま校庭へ駆け出したのだ。 「アコ!」  体育倉庫の裏側まで駆け出すと、俺は声を荒げ、どんっと壁に手をつく。  何を勘違いしたのかアコは頬を紅潮させ、もじもじと体をくねらせる。 「きゃん。どうしたんですか八島くん」 「どうしたじゃねーよ! 何さらっと転校してきてんだよ! てかお前家どこだよ!」  俺の叫びに対し、何故かアコは冷静さを失うことなく、自身の人差し指同士を重ね、ぐりぐりと回しながら視線を泳がせた。 「そんな大声でまくしたてなくても。言ったじゃないですか、私は人間だって」 「じゃあなんでお前が俺の耳に指突っ込むと音が出るんだよ?」 「ああ、あれは手品ですよ」 「手品ぁ!?」  一体何を言っているのかこの子は。  アコは何故か自信満々に胸を張り、こう答える。 「はい、実はイヤホンを隠し持っていたんです! えっへん
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-05-19
Baca selengkapnya

3章 2

 放課後、一端俺は家へと帰り、着替えを終えてからまた学校に集合することになった。 「わざわざ着替えんでもいいとは思うが……まあ、一応デートだしな」   一応。ちなみに提案者は俺ではない。紐育だ。   本当に変なことに気を利かせるやつである。   でも、その気遣いが……。 「はは……」   不意に、自分の口から笑いがこぼれた。 「って、何喜んでるんだ俺!」   自分で自分に突っ込む俺。一体何やってるんだろうね。 「でも、アコが人間で、よかった……」   俺がずっと抱いてきた懸念がこれなのだ。   アコは所詮イヤホンだった。確か悪霊とか言っていたか。それがずっと俺にとってある種の抵抗感を与えていた。   それがなくなったということ。それはやっぱり、恋心なのかもしれない。   俺を慕ってくれる女の子がいるということ。それに応えたいという気持ちが芽生えるのは自然なことかもしれない。   だからこそ、彼女がイヤホンであるということが障害となっていて、それが取り払われたことがたまらなく嬉しいのだろう。   だろう、というのは俺にもよくわかっていないのだ。   ただそうじゃないかなという推察にすぎない。   でも、それでいいのだ。物事の全てを確定させる必要なんかないのだから。 「さて、そろそろ行きますか。金は……まあ、こんだけありゃいいだろう」   俺は財布の中身を確認すると、大きく深呼吸を一つした。   だが、その緊張は割かしすぐに霧散することとなる。 「まあデートっつってもね、やることいつもと一緒なのね」   結局の所、俺たちが向かったのはいつものイヤホン専門店であった。   何も変わらない。何も変化がない。ついでにアコも私服なだけでおめかししたわけではななかった。   ぶっちゃけ拍子抜けである。   しかしアコは嬉しそうに俺の肩を三回叩く。 「当たり前じゃないですか。映画見たりお茶したり踊ったりするより、DAPを見たり、アンプを見たり、イヤホン聴いている方が圧倒的に楽しいです」 「圧倒的になのか……」
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-05-21
Baca selengkapnya
Sebelumnya
12345
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status