Semua Bab 嫌われ淫魔は忌み子の悪魔祓いに堕とされる: Bab 41 - Bab 50

50 Bab

41話

「そこまでです、エンビディア」「サフィリス、お前……!」 忌々しげに相方の天使を睨むエンビディアに、リシャールは困惑する。「これは、どういうことだ?」「陛下、しばらく留守にして申し訳ありません。わたくしが、真実をお伝えします」「おい、待て」 サフィリスが水晶の前に行こうとするのを、エンビディアが阻止する。誰もが冷たい目でエンビディアを見た。「エンビディア、あなたは潔白なのでしょう? なら、恐れることなどなにもないはずです。そこで皆様と、わたくしの話を聞きなさい」「ぐっ……」 エンビディアは悔しそうに下がり、リシャールの隣に立つ。それを見届けると、サフィリスは今度こそ水晶の前に立つ。「あれは、サフィリス様だ!」「ご無事だったのね」 国民は守護天使の姿に、安堵の息をもらす。それはリシャールも同じ。だが、エンビディアだけは浮かない顔をしている。「皆様、ご心配をおかけして申し訳ございません。私は王都を守護する天使、サフィリス。確かに先程まで演説をしていたのは、エンビディアの偽物です」「やっぱりあれは偽物か」「エンビディア様を陥れようとするなんて、死罪よ!」 人々はどよめき、エンビディア達に声が届かぬことなど気にせず、偽物を死刑にするよう声を上げた。その声は通信機器などなくとも、城の中にまで届いてくる。「国民は偽物の死罪をお求めですよ。まぁ、当然ですな」 エンビディアは勝ち誇ったように笑う。それでもサフィリスの冷たい目は変わらない。「ですが、彼の言葉は真実です。私は、長年エンビディアと組み、王都を守ってきました。もちろん、エンビディアを心の底から信頼していました。ですが彼は、あろうことか、彼は私を裏切ったのです」「デタラメだ! お前も偽物だな!?」 サフィリスは軽蔑の目をエンビディアに向け、光魔法で小さな玉をいくつも作り出し、すぐに消す。「黙りなさい、エンビディア。無実というのなら、私の話を最後まで聞いたらどうですか?」「くっ」「エンビディアは、淫魔をふたりも捕まえ、地下研究所に閉じ込めています。あろうことか、私に淫魔の発情毒を飲ませ、街を襲わせました。私を助けてくれたのは、ロキ様です」 サフィリスはロキの手を引き、水晶の前に立たせる。これには国民もリシャールも困惑した。 ロキは今回の事件の犯人とされていた。それに、彼は天
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42話

「どういうことだ、エンビディア」「なにかの誤解です、陛下」 リシャールに睨まれ、必死に弁明をしようとするエンビディアだが、思いつかないのか言葉に詰まる。「国王・リシャール。彼の自宅の地下室を調べてください。そこに囚われた淫魔がいるはずです」「サフィリス、貴様!」「残念です、エンビディア。私はあなたを尊敬し、信頼していたのに」「衛兵! エンビディアを地下牢に入れろ!」「はっ!」 水晶を見て駆けつけていた衛兵達は、エンビディアを連行しようと、彼の腕を掴む。「衛兵ごときが私に触るな! サフィリス、貴様も許さん! ロキと同罪だ! この裏切り者が!」 エンビディアは罵声を浴びせながら連行されていく。サフィリスはただ、寂しそうに見送っていた。「ここは狭い。さぁ、客間に案内しよう」 リシャールはわざと明るい声で、残った者に声を掛ける。「いえ、僕は……」「俺もパスだ。淫魔だぜ?」「良いではないか」 リシャールは断るロキとヴェルガーの背中を押し、グイグイ進む。「へ、陛下!」「おい、やめろ! あんた意外と強引だな」「ははは、強引さを持たないと、国王などできんよ」「我々も行きましょうか」「はい」 こうして国王、天使殺しの悪魔祓い、堕天したことがある天使ふたり。そして淫魔が同じ客室に集められた。 使用人達がお菓子やお茶を用意する。「あの、こんなことしてていいんですか?」「王都は今、混乱している。だが、我々が動いても余計に混乱させてしまうだけだ。今の我々にできることは、状況を整理し、真実を見つけること」 ロキが遠慮がちに聞くと、リシャールは紅茶を飲みながら答える。ほんわかした雰囲気に、居心地の悪さを覚え、天使を見る。だが彼らものんびりお茶をしている。 ダメ元でヴェルガーを見ると、彼は不機嫌そうに椅子の上であぐらをかき、頬杖をついている。「お言葉ですが、それが分かっているのなら、真実を見つけたほうがいいのでは?」「はは、せっかちなのだな。言いたいことは分かるが、事件発覚直後というのは、我々にできることなどない。今、兵士達がエンビディアの自宅を調べている。本来なら、サフィリス殿に案内していただきたいのだが、淫魔がいる場所では、当てられてしまうだろうがな」「当てられるのは人間も同じだ。その地下研究所とやらには、俺が行く」 ヴェルガーの
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43話

 数日後。ロキとヴェルガーは、ニアスと共に王都の近くにある小屋にいた。エンビディアの1件で、あの街も王都もてんやわんやだ。安心して落ち着ける場所は、ニアスの小屋しかなかった。「なぁ、あの後どうなったんだ? お前、何回か王都に顔出してたから、分かることあるんじゃねーのか?」 ベッドの上でくつろぎながら、自分を背もたれにして本を読むロキに声をかける。リシャールが重要参考人としてヴェルガーの存在を広めたため、攻撃される可能性はぐっと減ったが、淫魔が堂々と歩いていると、王都の人々は落ち着かないだろう。何よりヴェルガー自身が王都に行きたいとも思わなかったので、ロキだけが王都に顔を出していた。「うーん、そうだね。とりあえず、王都とあの街には新しい天使と悪魔祓いが派遣されたよ。ヴェルが助けた淫魔は、治療中」「へぇ、殺さなかったのか」「彼らは被害者だしね。それに、ヴェルと同様、重要参考人だ。陛下も無駄な殺生を嫌う人だしね」「随分とあまちゃんなんだな」「そうでもないよ。あくまでも噂だけど、エンビディアはなかなか喋らないから、拷問されてるって聞くし」「へぇ。あのおっさん、色んな意味でしぶといな」 のんびり話していると、転送装置が光を放つ。最初はニアスが帰ってきたのかと思ったが、違うようだ。1通の封筒が浮遊している。「ん? なんだろ」 ロキは起き上がり、封筒を手にする。「これ、陛下からだ」「へぇ、なんて?」「なんだろうね?」 ロキは雑多に荷物が積まれた机からペーパーナイフを引っ張り出すと、ベッドに戻って開封した。ヴェルガーは再び背もたれにされながら、ロキが読み終わるのを待つ。「王都からの呼び出しだ」「へぇ、気をつけていけよ」「ヴェルも行くんだよ」「俺!?」「ヴェルにしか頼めないことがあるって」「へぇ、そうかい。んで、いつ行けばいいんだ?」「今日」「はぁ!?」 唐突なことに、素っ頓狂な声が出る。事情聴取などがあるから、いつでも王都に来れるようにしておくように言われてはいたが、当日にいきなり呼び出されるとは思っていなかった。「馬車で迎えに来るって」「そいつはありがたい。俺達、目立つからな」「身支度しとこ」「おう」 小屋のドアが叩かれたのは手紙を受け取ってから10分後のこと。ロキがドアを開けると、リシャールが立っていた。「陛下!?」
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44話

「悪魔は負の感情を食べます。中でも恐怖を好むため、悪魔はわざと人間を怯えさせ、その恐怖を食べます。しかし、負の感情ならなんでも食べるそうで。中には悲しみを好む者、不安を好む者などがいます。これらを利用すれば、心の病の治療に役立つのではないでしょうか」「実に興味深い」「で、俺達淫魔は?」「もちろん、ちゃんと考えてるよ」 ロキは不安にさせまいと、握る手に力を入れ、まっすぐ目を見る。「淫魔の存在があるから、性欲は悪とされ、生涯にひとりの人と愛し合うことが尊いとされていますね?ですが、それが心の病を併発させている原因のひとつなのです」「というと?」「人は良くも悪くも、様々な面を持ち合わせております。交際時は順風満帆、相思相愛でも、結婚してからパートナーが暴力的になったり、パートナーの嫌な面が見えたりします。ですが、世間体を気にして離婚できない夫婦が多く存在します。だから秘密裏に娼館ができるのです」「なるほどな、一理ある。その問題にも頭を抱えているのだ」「それだけではありません。中には奥手で異性との交流が難しく、孤独を抱えた人も多くいます。また、心地よい性交は、ストレスを緩和するという調査報告もあります。思い切って淫魔の娼館を作ってみてはいかがでしょう?」「娼館を!?」「正気か、ロキ」 ロキの突飛な案に、国王も淫魔も目を丸くする。それもそのはず。ロキの言うようにひとりの人間と関係を続けることを美徳としているのだ。娼館など穢らわしいと嫌悪される存在だ。だが、需要があり、秘密裏に運営されているのも事実。「それと、淫魔は相手の感情を読むことができます。カウンセラーにいいのではないでしょうか?」「おい、その言い方だと語弊があるだろ」「あ、そっか。じゃあその辺の説明、ヴェルがして」「俺が!?」「だって、淫魔本人だし、僕よりちゃんと説明できるだろ?」「ったく、しかたねぇな」 ヴェルガーはため息をつくと、リシャールに体を向けた。「さっきロキが言ってた感情を読めるっていうのは、文字通りで、相手が悲しんでる、喜んでるとか、そういうざっくりしたものしか分からねぇ。心が読めるってわけじゃない。それに、読めるのはセックスしてる時か、相手が弱りきってる時だ。カウンセラーに向いてるかどうかは微妙だな」「なるほど、実に面白い。研究を重ねれば、実用できるやもしれ
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45話

「おい、そんなことより、このふたりのことだろ」 ヴェルガーの言葉に本来の目的を思い出したのか、ふたりは部屋の中を一瞥する。ふたりの淫魔は、相変わらずぐったりしていた。「おっと、話がだいぶそれてしまいましたね。ふたりですが、人間でいう食べ過ぎだと思います」「食べ過ぎだと?」 ロキの解答に、リシャールは訝しげな顔をする。「このふたりは、研究所でずっと強制発情させられていました。淫魔の食事は淫欲。ですので、淫欲の食べ過ぎかと」「淫魔の君はどう思う?」「ロキの言うように、食べ過ぎだろう。それも重度の。こいつらがどれだけ閉じ込められていたかは知らねぇが、24時間、寝ることも休むことも許されず、ずーっとメシを食らわされ続けてたんだ。それに俺達淫魔は、人間の何倍もの体力があるとはいえ、ずっとセックスさせ続けられちゃ、たまったもんじゃねぇ」 ヴェルガーの説明に、リシャールは身震いする。彼は3大欲求の中でも食欲が1番強いと自負しているが、それでも24時間休むことすら許される食べさせられるのは、拷問でしかない。「つまり、重度の食べ過ぎと過労か」「あぁ、そうなるな。しばらく休ませつつ、水分やったらそのうち回復するだろ。ま、どれくらいかかるかわかんねーけど」「助言をありがとう。また何かあったら君に聞くことにするよ」「陛下、どうかなさいましたか?」 淫魔達を見に来たであろう看護師が、声をかけてくる。彼女は訝しげな目でロキとヴェルガーを見ていた。「あぁ、ちょうどいいところに。彼ら、なかなか回復しないだろう? だから、専門家のふたりに聞いていたんだ。彼らは過度の食べ過ぎと過労だそうだ。時々水分を与えながら、様子見をしてほしい」「かしこまりました」 看護師は一礼すると、治療室に入っていく。ふたりの淫魔の汗を拭い、体温を測っていた。「淫魔や悪魔と共存するのなら、彼らの医療体制も整えなくてはならんな」 しばらく神妙な顔で治療室を見ていたリシャールが、重々しく口を開いた。「その件も、君達に任せたいのだが、どうかね?」「僕は構いませんよ」 にこやかに了承するロキと隣で、ヴェルガーは仏頂面で腕を組み、壁に寄りかかっていた。「ロキがやるんなら従うが、期待はするなよ。元悪魔の淫魔だからって、体の構造を知ってるわけじゃない。お前達人間も、人体の構造について詳しいわけじ
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46話

 半年後、ロキとヴェルガーは、王都にあるロキの別荘を住居とした。 国王・リシャールから研究を任されてからというもの、ふたりは毎日忙しくしていた。今は立派な研究所があるが、研究所ができるまでは、別荘で研究をしていた。 まず、ヴェルガーは自分が知る悪魔と淫魔のことを、すべてロキに話した。そしてロキはそれらをまとめ、様々な説を作っては実験を重ね、実績を積み上げていった。 それでもふたりですることには限度がある。途中で回復したミリィとユーリも参加したが、淫魔のデータが集まるだけで、悪魔のデータは少ない。 そこでロキは、悪さをする悪魔を捕まえ、彼に様々なことを質問した。最初は非協力的な悪魔だったが、自分の身が保証されると分かると、積極的に協力するようになった。 だが、淫魔3人と悪魔ひとりから取れるデータは、心もとない。そこで彼らはそれぞれ、仲間の淫魔や悪魔に声をかけてまわり、実験や研究に協力してくれる者を集めた。 おかげで少しずつではあるが、データが集まり、別荘でもロキの研究が進んでいく。それは一族にとって喜ばしいことではあるが、ヴェルガーは複雑な気持ちを抱いていた。 多忙を極め、研究漬けなせいか、ロキはずっとそのことばかり考えている。そのせいで、ロキから与えられる食事がおろそかになってしまっているのだ。否、食事は毎晩与えられてはいるのだが、ロキがずっと考え事をしていることが伝わり、寂しい思いをしている。それ故に満足できないと言ったほうが正しいだろう。 もしかして好きなのは自分だけなのではないだろうか?  そんな不安が日々積もっていく。 多くの老若男女を抱いて抱かれてきた淫魔だからこそ分かる。ロキのような小悪魔系童顔は、男女共に需要がある。 ずっと人々に避けられていたロキだが、エンビディアが逮捕されてからは、英雄のように持ち上げる者が増え、ロキに言い寄る女性も増えてきている。それに、研究に協力してくれる悪魔や淫魔も増えてきている。何が言いたいのかというと、今のロキは引く手数多、選び放題なのだ。「あの時のキスで、アイツも俺のこと好きなんだって思ったけど、俺の思い違いなのか? そもそもアイツの恋愛対象って、男と女、どっちなんだ?」 自分の唇に触れながら思い出すのは、ヴェルガーがエンビディアの姿になって城に乗り込む前のこと。あの時彼からキスをし、大好きだ
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47話

 悪い考えを振り払うように、頭を振る。サボるために協力してくれる仲間に声をかけると嘘をつき、ひとりになった屋敷で寝そべっていたが、ひとりでぼんやりしていても、悪い考えばかりが浮かんでしまう。「俺もそろそろ行くか」 声に出して切り替えると、身支度を整えて外に出る。自宅から研究所へ向かう途中、今度は別の意味で人々の視線が気になってしまう。「あ、ヴェルガー様だ!」「今日も素敵♡」「私も抱かれたい」 エンビディア逮捕の件ですっかり有名人になってしまったヴェルガーとロキ。元々整った容姿をしているというのもあって、街を出歩く度にこうして黄色い声が上がる。悪い気はしないが、落ち着かない。(手のひら返して、恥ずかしくないのかね) 恥ずかしさを紛らわせようと悪態をつくも、気が紛れることはない。「いらっしゃい、採れたての美味しい林檎だよ!」 威勢の良い店主の声に足が止まる。(アイツ、最近痩せてきたよな) 研究に没頭しているロキは、ヴェルガーに食事を与えることは忘れなくても、自分の食事を忘れがちだ。一応ヴェルガーが声をかけるのだが、彼は生返事を返すだけで、食べようとしない。料理でもできたら作って食べさせることができるのだが、生憎料理の基本のキの字すら知らない。(林檎なら、そのまま食えるんだっけか)「おっさん、それ3つくれ」「おぉ、ヴェルガー様! 買ってくださるのですね。林檎がお好きなのですか?」「いや、俺は人間の食い物をあまり食わん。これはロキのだ」「仲睦まじいようで何よりです」 店主の言葉に先程までの悪い考えが再び浮かび、胸がチクリと痛む。「だといいんだけど。なぁ、人間の食い物について詳しくないんだが、何かしながら片手で食えるモン、ほかに何がある?」「大半の果物は片手で食べられますよ。でも、そうだな。それだけだと栄養が偏っちまいます。サンドイッチなんてどうですかい?」「さんど……?」「パンに好きな具材を挟んで食べるんですよ。ちょうど城の近くに、美味しいサンドイッチ屋がありますよ」 店主は店の名前をメモすると、ヴェルガーに手渡した。「ありがとな」「いえ、あっしらに役立てることあれば、いつでも相談に乗りますぜ。お気をつけて!」 ヴェルガーは果物を抱え、店主に教えてもらった店でサンドイッチを購入する。種類が多くて迷ったが、店主のすすめで1
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48話

 ヴェルガーはがむしゃらに走り続ける。本当は飛んでどこかに行きたいが、そんなことをすればロキに見つかって、光魔法で撃ち落とされるだろう。そうなったら、ロキから逃げることなどできない。「クソ、クソ! ふざけやがって……!」 気づけばヴェルガーは、迷宮庭園に迷い込んでいた。だが、そんなことを気にしている余裕など、今のヴェルガーにはない。「淫魔を弄ぶだなんて、とんでもねぇ悪魔祓いだ……」 頬に熱い雫が伝う。その熱が彼を本気で愛していたと再確認させ、余計に胸が苦しくなる。「人間を、それも悪魔祓いを好きになるなんて、ばっかじゃねーの……」 声に出せば少しは吹っ切れると思ったが、余計に自分が惨めになるだけ。あれだけひどい出会い方をしたにも関わらず、ロキを愛してしまった自分に嫌悪感を抱く。「今まで俺が騙してきた人間共も、こんな気持ちだったのか?」 ヴェルガーが人間を騙す時は、ターゲットが好む容姿の男性に姿を変えて近づく。甘い言葉と色欲の力で虜にし、飽きたら捨てる。泣いて縋ろうが、お構いなしだ。 「愛してるの、行かないで」 そんな言葉を嘲笑い、縋り付く相手を蹴り飛ばし、軽蔑の目で見下した。「これは、そんなことをしてた俺への罰なのか?」 ヴェルガーは声を殺しながら涙を流し、これからどうするべきか考える。 王都にいれば、命の保証はされる。だが、他の淫魔と結ばれたロキがいる場所になんて、いたくない。「アイツが誰かと愛し合ってるのを見るくらいなら、死んだほうがマシだ」 思い出したくもないのに、ロキとミリィが抱き合っていたのを思い出して息が苦しくなる。「いっそのこと、死んじまうか」 女々しい考えだと自嘲する。だが、考えれば考えるほど、そうするしかないと思えてしまう。 どこか適当なところに行って人間を襲えば、天使と悪魔祓いが殺してくれるはずだ。そうすれば、もうこんな悲しい思いをしなくて済む。「ヴェルー! どこにいるんだ、ヴェル!」 自分を呼ぶロキの声に、身を固くする。飛ぶことも出来なければ、移動することも出来ない。動いたらきっと、ロキはヴェルガーを見つけてしまうだろう。(見つけるな、こっちに来んな) 祈りも虚しく、足音がこちらに近づいてくる。「見つけた!」 息を切らしたロキが、大股で近寄ってくる。彼の顔を見ただけで泣きそうになってしまい、逃げる気
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49話

「ごめん、勘違いさせちゃったね」 困ったように笑うロキに、自分の恋心が砕かれていくのを感じる。 「まったくだ。女が好きなら、最初からそう言っておけよ」 「違うって」 縋るように抱きしめる腕に力を込めるロキに、怒りがこみ上げる。 「何が違うってんだよ!? さっきミリィと抱き合ってたじゃねぇか! それに、最近ずっと上の空で……。俺を抱いてる時も、どうせミリィのこと考えてたんだろ!? 結局いつもこうだ! 俺は誰からも必要とされてないんだ!」 淫魔になりたての頃、仲間だと思っていた悪魔や両親に捨てられた記憶がフラッシュバックする。もうあんな思いをしたくなくて、淫魔として人々を食い物にしようと決めていた。今度は自分が選ぶ側になれば、もう傷つくことはない。そう信じて人々を騙し、貪り、裏切ってきた。 それなのにロキを愛してしまった自分が憎たらしい。 「ヴェル、誤解だ! 僕が好きなのはヴェルだけだよ」 「じゃあ、なんでミリィと抱き合ってたんだ!?」 「あれは、これが完成したのが嬉しくて」 ロキは懐から小瓶を取り出す。中には空色の美しい液体が揺らいでいた。 「なんだよ、それ」 「淫魔を人間にする薬だよ」 「そんなこと、できるのか?」 信じがたい効能に、目を丸くする。ロキに出会ってから、人間になることはヴェルガーも何度か夢見ていた。だが、そんなことは絵空事だと諦め、割り切っていたのだ。 「実際、出来たんだよ。ミリィは、ずっと人間になりたいって思ってたみたいでね。だから、試薬ができると率先して飲んでくれてたんだよ。今回、ようやく成功して、嬉しくて抱き合ったってわけ」「なんだ、そうだったのか……」 安堵するのもつかの間、ずっと抱えていた不満が顔を出す。 「でも、ミリィのこと考えてたことに変わりないだろ?」 「違うってば。もちろん、ミリィの願いを叶えたいって気持ちもあったけど、ついでだよ」 「ついで?」 「淫魔も悪魔も、僕達人間より長生きするだろ? 今の僕達の見た目は、ヴェルが少し年上だけど、このままじゃ、僕が先におじいちゃんになって死ぬ。そんなの、嫌だよ。君と同じ時間を歩みたい。だから、この薬を開発したんだ」 「ロキ……」 真摯に語るロキに、胸が熱くなる。同じ気持ちを抱えていたことが嬉しくて、声が震える。 「でも、こんなの僕のエゴだ。飲み
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50話

 芝生に寝転んだまま、ふたりは抱き合い、お互いの体温を噛みしめる。「ヴェル……」「ん?」「はやく抱きたい」「いきなりだな」 突飛でありがながらも彼らしい提案に、思わず苦笑する。「だって、ヴェルが僕と会った時、処女じゃなかっただろ? でも今のヴェルは人間になった。人間としてのヴェルの処女がほしい」 ロキの可愛らしい独占欲が嬉しくて、それに答えるように触れるだけのキスをする。「ついでに童貞ももらってくれ」「あはは、いいよ。僕、後ろは使ったことないから優しくしてね」「任せろ。んじゃ、帰るか」「そうだね」 立ち上がって見回すも、辺り一面緑の壁。ふたりは自分達が迷宮庭園に迷い込んだのを、今更ながら思い出す。「やべぇ、ここどこだ?」「僕も分かんない。夢中で追いかけてきたから」「羽根がないから、飛んで出るってこともできないしな。人間って不便だな」 ため息をつき、先程まで翼があった背中にふれる。そこには羽根の痕跡である服の穴があるだけ。「まぁいいじゃない。一緒に歩いて行こう」「あぁ、そうだな」 ふたりは固く手を繋ぎ、自分達の未来が明るいことを信じて歩き始めた。種族の壁は消えたとは言え、ふたりに向けられる偏見や、乗り越えなくてはならない壁はまだある。 それでも彼となら、笑って乗り越えられる気がした。
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