LOGIN淫魔ヴェルガーは、天使や悪魔祓いを快楽地獄に落とし、教会を根城にする。 そんなヴェルガーをどうにかしてくれと頼まれたのが、特殊な力を持つ悪魔祓いのロキ ロキは村人のフリをしてヴェルガーに近寄り……。
View More満月の美しい夜のこと、悪魔祓いのジュードは、ひとりで帰路を辿っていた。昨晩、街の少年が悪夢を見たというので、祈りに行ったその帰りだ。
この世界では、悪夢は悪魔の侵入を許す扉になると言い伝えられており、悪夢を見た者は、悪魔祓いに祈ってもらう習慣があるのだ。
「ふふ、果物がたくさん。レコルスも喜ぶぞ」
籠の中の果物を見て、頬が緩む。この果物は祈りの対価としていただいたものだ。
教会には、悪魔祓いと天使のペアが住み、その街を守っている。そして彼らは、祈りや加護の報酬で暮らしている。レコルスというのは、ジュードと組んでいる天使の名だ。
「この林檎なんて、真っ赤に熟れてて美味しそうだ」
「確かに美味そうだな」
「ひっ!?」
地獄の底から這い上がるような囁き声に、悲鳴を上げ、籠を落としてしまう。
「くくく、もったいないではないか」
振り返ると、紫色の妖艶な瞳がジュードを値踏みするように見ている。月明かりが、ワインレッドの髪と黒い羽を照らしている。
「あ、悪魔!? く、レコルスの加護を……!」
「おっと、そうはいくかよ」
ジュードが胸元に光る十字架を握る前に、悪魔の尻尾がチェーンを引きちぎってしまった。十字架は地面に落ち、拾う前に両腕を悪魔に掴まれてしまう。
「く、この! 離せ! 悪魔め!」
ジュードが暴れても、華奢な体の彼では、筋骨隆々の悪魔には叶わない。悪魔はジュードの無駄な抵抗を鼻で笑った。
「そんなヒョロい体で、俺に叶うかよ。それと俺は悪魔じゃねぇ。淫魔だ。二度と間違えんな」
「な、淫魔だと!?」
生涯でたったひとりに体を許すことを尊ぶこの世界では、悪魔よりも淫魔の方が恐れられていた。また、淫魔は意地汚いと悪魔に嫌われる存在だ。
「忌々しい淫魔め、僕を穢すつもりか?」
「は、御生憎様、お前みたいなのには興味ねぇ。しばらく眠ってな」
淫魔はジュードの顎を乱雑に掴むと、強制的に目を合わせる。淫魔の紫色の瞳が妖しく光ると、ジュードは眠ってしまった。
「さぁて、ヴェルガ―様の寝床に相応しいといいが」
淫魔ヴェルガ―は、ジュードを担ぎ上げると、教会に向かった。
「邪魔するぜ」
教会の扉が乱暴に開かれる。祈りを捧げ、街に加護を与えていたレコルスは、驚いて振り返る。彼の若草色の瞳に映ったのは、淫魔に囚われた相方の姿。
「ジュード! あなたは、淫魔、ですね……?」
「ほお、さすがは天使様。このクソ人間と違って、悪魔と淫魔の違いは分かるようだな」
「ジュードを離しなさい」
「ただで離すわけねーだろ」
ヴェルガ―はジュードを長椅子に座らせると、服を破き、挑発的な目でレコルスを見ながらジュードの乳首をつまむ。
「んっ……」
意識がないというのに、ジュードは小さく喘ぐ。
「やめなさい!」
「この人間を穢されたくなかったら、テメェを差し出しな」
「なんですって!?」
「天使なら分かるだろ? 俺達淫魔に穢された人間の末路を。老若男女どころか、種族すら見境なく、セックスできればいいって考えになって、家畜とのセックスも厭わなくなる。コイツがそうなってもいいのか?」
「なんて残虐な……!」
「ほぉら、はやく決断しろ。じゃないと、この人間が……」
ヴェルガ―の尻尾が、ジュードのアナルとの距離を縮めていく。尻尾の先は円錐形になっており、その先端からはピンク色の液が滲み出ている。この液は淫魔の体内で精製される発情毒だ。
「わ、分かりました! 私が犠牲になれば良いのでしょう? ですから、どうかジュードは……」
「くくく、そうこなくてはな。その布切れを取って、俺の前に跪け」
「うぅ、神よ、申し訳ありません……」
レコルスは震える手で衣を脱ぐ。日焼け知らずの白い肌と、薄桃色の綺麗な乳首。そして控えめな陰茎があらわになる。
「隠すなよ。手は後ろに回して、こっちに来い」
「はい……」
レコルスは言われた通り、両手を後ろに回し、羞恥や悔しさで目にいっぱいの涙を溜めながらヴェルガ―の前に跪く。
数日後の真夜中。ロキは机に向かい、一心不乱に資料を作っていた。その後ろでヴェルガーがあくびをする。「いつまでやるんだよ、それ」「納得するまで、かな」 ロキが書いているのは、淫魔と悪魔の違いについて。少しでも彼らの生態などを知り、多くの人に広めたい。そのために今回ヴェルガーを生け捕りにしたのだ。「飽きずによくやるぜ」「君は寝てたら?」「俺達は夜行性なんでね。お前も知ってんだろ」「あぁ、そうだったね」 悪魔も淫魔も、夜に動く。そして彼らも睡眠を必要とする。そのことを知る人間など、ほとんどいないだろう。「で、テメェは俺達のこと知ってどうするんだ? 皆殺しにしようってか?」「そんなことしないよ、めんどくさい。それに僕は、悪魔も淫魔も必要悪だと思ってるから」「必要悪?」 ロキはペンを置くと、体ごとヴェルガーに向ける。その顔には、疲れが滲んでいた。「今人間同士で戦争がないのは、君達のおかげだと思ってる」「は?」「人間っていうのはね、同じ敵がいると仲良くなる生き物なんだよ。今は悪魔と淫魔という強大な敵がいるから、人間同士で争わず、助け合ってる。けど、君達の脅威がなくなったら、戦争が起きるだろうね」「けどよ、今うまく行ってるんなら、問題ないんじゃねぇのか?」「だったらいいんだけど……。助け合ってるなんて言ったけど、正確には、弱小国を大きな国が守ってる状態なんだ。環境で植物が育たない国もあるし、発展途上国だってまだまだある。それに、これは自業自得っちゃ自業自得なんだけど、環境は良くても、国民性が怠惰で発展しない国もある。今は大きな国がそういう弱小国に食糧を与えたり、技術を提供したりして守ってる。弱小国は見返りとして、土地を一部貸したり、人手を貸したりしてる。助け合いというには、あまりにも不釣り合いなんだ」「へぇ……」 人間の食文化にこそ興味はあれど、まつりごとに関心のないヴェルガーにとっては、退屈な話だった。それでも、ロキが若くして偉大なことをしようとしていることはなんとなく分かった。「悪魔がいなくなったら、一時的にお祭り騒ぎになって、ほんの少しだけ、平和な日々は続くだろう。けど、大きな国が『悪魔から守ってやってただろ』なんて言って、世話をしていた弱小国から搾取するのは目に見えてる。それに、天使達はすべての国や街にいるけど、それだって力の差
「じゃあさ、本来の姿のままで、羽根と尻尾を消すことってできる?」「あ? まぁ、できるけど……。それがなんだってんだ」「僕単体で出歩いても目立つのに、人目で悪魔だって分かる君が隣にいたら、目立つでしょ」「だから俺は淫魔だ!」「あっはは、ごめんごめん。人間からしたら、淫魔も悪魔も区別つかないんだよ。今のは一般論だよ、一般論」「ったく、どこまでも不愉快な野郎だ」「褒められちゃった♡」「褒めてねぇ! 照れるな !気色の悪い。というか、お前は俺を連れ出すつもりなのか?」「そうだよ。まぁ、僕はこの街に加護を与えないといけないから、そう長い間離れることは出来ないんだけどね」「そういや、テメェの話、いい加減聞かせろよ」「へぇ、積極的だね」「気色悪いこと言うなって言ってるだろ!」「あはは、ホント、からかいがいあるよねぇ」 ロキはひとしきり笑うと、紅茶を飲んで小さく息を吐く。「じゃあ、話そうかな。その前に、君は人間の子供が加護を受ける話は知ってるかい?」「いや、知らねぇ」「じゃ、そこからだね。僕達人間は、7歳になったら自分の住んでる街にいる天使から、加護を与えられるんだよ。人間が恐怖というものを理解し始めるのがだいたいその辺だから。悪夢を見て、悪魔が入りこまないように、天使は子供に加護を与える」「テメェみたいなイカレ野郎にもか?」「そうだよ。どんな子供にも、加護は与えられる。孤児でさえも。僕も7歳の頃、加護をもらいに教会に連れられたんだ。だけどね、僕は天使を殺してしまった」 ロキは天使の形をしたクッキーを、紅茶の中に落とす。まるで当時を再現するかのように。「殺した? 天使って殺せるのか?」「僕にも何が起きたのか分からなかったよ。天使フィニトスも、いつものように加護を与えてたつもりだったんだろうね」「待て、フィニトスだと!?」 驚きのあまり、ヴェルガーは勢いよく立ち上がる。彼が座っていた椅子が大きな音を立てて倒れる。「フィニトスを知ってるのかい?」「バカ、お前……! フィニトスを知らねー奴なんか、人間でも悪魔でも淫魔でもいねーだろ!」 ロキの出身地でもあるアルマディナを守護していた天使、フィニトスは、全能の天使と呼ばれていた。神に最も近い天使として名を馳せていた彼は、元々王都を守護していたのだが、ある日未来を見たと言い、王都を他の天使
「お待たせ」 ノックもせずにドアが開けられ、ロキが戻って来る。だが、お茶を取りに行ったはずの彼の手にはなにもない。「おいおい、お茶するんじゃなかったのか?」「あぁ、そうだよ。だから上で準備してきた」「何?」「さ、行くよ」 訝しむヴェルガーのことなど気にもせず、ロキは彼の拘束を解いていく。自由が近づく感覚は心地よいが、それ以上にロキが不気味だ。「何故拘束を解いた」「だって、そのままじゃお茶できないだろ?」 きょとんとするロキに、言葉も出ない。「もしかして、拘束プレイがお好きだった? 言ってよ」「ちげぇよ!」 縛り直そうとするロキに一喝すると、彼はつまらなそうに拘束具を片付けていく。「君には、浄化のチョーカーがついてる。だから、僕に刃向かえない。見た目は脳筋だけど、それくらい弁えることができる知能はあるみたいだし」「いちいちムカつくな……。じゃあなんで昨日は縛ったんだ?」「パフォーマンスの一種だよ。僕ひとりじゃ、君達を地下牢に運べない。だから、街の人達に手伝ってもらったんだ。彼らを安心させるために、君を拘束してたってわけ」「ご苦労なこった」「さ、行こう。美味しいお菓子があるんだ!」「おい、引っ張るな!」 ロキに腕を引っ張られ、よろけそうになる。昨晩彼に激しくされたせいなのか、ひと晩拘束されていたせいなのか、体が思うように動かない。「なっさけないなぁ。その筋肉は飾りなの?」「んなわけあるか!」「じゃ、キビキビ動く!」 華奢な見た目の割に、ロキの力は強く、地上に引っ張られていく。「こっちだよ」 引っ張ってこられたのは小さな食堂だ。真っ白なテーブルクロスがかけられた長テーブルの上には、キャンドルと十字架がある。見てるだけでも気分が悪い。十字架を指先で倒すと、ロキは小さく笑った。「淫魔も十字架は嫌いなんだね」「見ててなんとなく不快なだけだ」「へぇ、そうなんだ」 ロキはティーポットを持ち、ふたつのティーカップに紅茶を注ぐ。華やかな香りが広がり、少しだけ気持ちが落ち着いてくる。「はい、どうぞ」 ヴェルガーの前に紅茶を置くと、ロキは彼の向かいに座り、クッキーを1枚かじった。「うん、美味しい」「はぁ、お前は緊張感とかねーのか?」「必要ないでしょ」「この妙なチョーカーがあるからか?」「それもだけど、僕、強いし」「
「君はどうして教会を乗っ取ったわけ? 少なくとも、悪魔は教会に入ると気分が悪くなるみたいだけど、君達はそうじゃないの?」「別に、あちこち移動するのが面倒だから、腰を落ち着かせる場所がほしかっただけだ。気分が悪くなるのは、淫魔も変わらない。けど、天使を隷属にすれば問題ないと思ったから実行した」「結果は?」「天使を隷属にしたら、快適だった」「そっか。実に興味深い。にしても、随分すらすら喋ってくれるね」「んなもんちらつかせてるからだろ!」 声を荒げるヴェルガーを、ロキはにっこりしながら見下ろしている。ロキは後ろ手に銀のナイフを持っていたのだ。銀には悪魔を祓う力がある。それだけでも彼らにとっては恐ろしいものではあるが、銀は聖力を通しやすい。聖力を持たぬ一般人に銀のナイフで刺されても重症で済むことが多いが、聖力を持つ悪魔祓いに銀のナイフで刺されれば、聖力は毒となり、悪魔の体を蝕み、死に至らしめる。「あっは★」「お前本当にムカつくな!」「抜かりないって言ってよ」「んで、これからどうするんだ?」「何が?」「何がって、俺のことだ。祓わないのか?」「言っただろ。対話で相手を知ることが大事だって」「仲良くお茶しましょってか?」「お茶もいいね。聞きたいことは、まだまだあるし。ちょっと待ってて」「あ、おい!」 ロキはヴェルガーの制止も聞かずに独房から出ていってしまう。「んだよ、アイツ……。調子狂う……」 呆れ返り、ため息をつく。だが、不思議と悪い気はしなかった。「対話が大事、ねぇ……」 目を閉じ、過去を振り返る。悪魔の頃は、家族と多くの仲間がいた。仲間達と人間の魂を食べ、笑い合っていた。家族との仲も悪魔にしては良好な方だっただろう。 悪魔も人間のように恋をし、結ばれ、子をもうける。必然的に家族になるが、人間と違い、子供が自我を持ち、魂を狩れる頃合いになると、魂の狩り方を教える。個人差はあれど、1,2回お手本を見せてさよならが一般的だ。その後に会うことはあまりない。 だがヴェルガーは、親と時々会って近況報告をし合ったりしていた。 悪魔の中には人間の食べ物に興味を持つ者がいるが、ヴェルガーと両親は、その中でも誰より人間の食文化に夢中になっていた。だから時折会っては、どこで何を見つけたか話したりしていたのだ。 ヴェルガーが淫魔になるまでは。