桐谷七海(きりたに ななみ)が世界富豪慈善賞を受賞した日だった。俺、瀬名遼(せな りょう)は人工心臓の交換手術を受ける金がもうなくて、医者から余命を宣告された。テレビの司会者は七海に、「いちばん心残りのある相手へ電話をかけてください」と促した。彼女はためらいもなく、俺に電話をかけた。俺は電話に出て、七海がそう尋ねるのを聞いた。「昔、お金のために私を捨てたこと、後悔してる?」交換用の人工心臓の莫大な請求書を見つめながら、俺はかすかに笑って言った。「七海、そんなに金があるなら、400万だけ貸してくれないか」その瞬間、電話はぶつりと切れた。俺はテレビの中の七海が冷たく言い放つのを見た。「これでもう、思い残すことはありません」彼女は知らなかった。あのとき心不全に陥った彼女に、俺が黙って自分の心臓を提供したことを。配信が終わったあと、俺の口座にはすぐに七海から400万が振り込まれた。一瞬、呆然として、胸の内に複雑な思いが広がった。その金で医療費を払うと、病室の外からふいに聞き覚えのある声がした。俺はドアの隙間から、七海の姿を目にした。七年ぶりに会ったというのに、彼女は少しも変わっていないように見えた。相変わらず、眩しいほどに美しかった。ただ一つ変わったのは、彼女の隣にいる相手が、もう俺ではないということだった。授賞式が終わったばかりで、服を着替える暇もないまま、彼女は休む間もなく病院へ駆けつけていた。それも、彼女の年下の恋人が少し胃の具合を悪くしただけで、だ。七海が甘えるように柏木陽翔(かしわぎ はると)の腕に抱きつくのをを見て、俺は視線を落とし、見なかったふりをして、そっとドアを閉めようとした。だが七海は勢いよくドアを引き開けた。俺はぎょっとして、反射的に顔を上げ、彼女と視線がぶつかった。七海の目には骨の髄まで凍りつかせるような冷たさが宿っていて、その視線は俺の全身を鋭く射抜いた。「久しぶりなのに……私に挨拶の一つもしないの?」俺は彼女を見つめ、わずかに唇を開いた。胸の中には言いたいことがいくつも渦巻いていたのに、口をついて出たのは、たった一言だった。「七海、あと600万貸してくれ」七海は一瞬言葉をなくし、その冷たい眼差しにかすかな怒りを宿した。彼女は俺の手をつかんだ
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