All Chapters of 嘘つきに騙された哀れな夫にさよならを: Chapter 11 - Chapter 12

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第十一話「もう一つのファイル」

確かに、私の端末には、先ほどの映像データの他に、別のファイルが送られてきていた。そのファイルにはロックが掛かっていて、開くことができない。「木香」宏樹は心配そうな顔で言った。「そこにあるのは、君にとってとても辛い事実だ。俺に任せてくれるなら、離婚手続きは全て代行する」「宏樹!」「理人は黙っていろ」宏樹の迫力に、理人はそれ以上何も言えなかった。「ただもし、君の目で全ての真実を知って、自らの手で幕を下ろしたいなら……"かつて君が愛した男"の誕生日を、入力してくれ」私は迷うことなく、理人の誕生日を入力した。『……理人、木香さんはいいの?』最初に聞こえてきたのは、詩織の甘えるような声だった。『ああ、構わない。あいつは仕事もしないで家にいるだけだ。槙原社で立派に働く詩織が優先されるのは当然だ』続いたのは、理人の残酷な言葉だった。これは……別荘のカメラの映像だ。詩織が私を拉致するより、ずっと前の日付が表示されていた。詩織が口を覆って呻いた。「木香、止めろ!」理人は、慌てて私の携帯を取り上げようとした。しかし、宏樹の手が、その手を掴んで止めた。「理人」宏樹の声は鋭かった。「自分が招いた結果だ。受け入れろ」それは、有浦家の……理人の兄としての、威厳が感じられる声だった。「やめろ……やめてくれ……謝るから……俺が間違っていた……」理人のきれぎれの懺悔と共に、音声は流れ続ける。『理人、あなたが欲しいわ』『詩織……ずっと側にいられなくてすまない。突然離婚したら、有浦家の体裁に関わる。辛い思いをさせるが、耐えてくれ』……映像の中の二人は、深く口付け合った。それは、紛れもない、不倫の証拠だった。覚悟は決まっていた。心は冷え切り、もう揺れることはなかった。「木香、違うんだ……俺が愛しているのはお前だけだ……これは……これは間違いなんだ……」理人は耐えきれず、その場に崩れ落ちた。『木香さんより、私を愛してる?』『ああ、愛しているよ』理人が詩織を抱き上げ、ベッドルームに向かった。画面が切り替わると、二人の愛し合う姿が映し出された。「いやあ! もうやめて!」恥辱に詩織は耐えかねて、叫びながら病室を逃げ出してしまった。「いいの? 槙原さんのこと追わなくて」私の嘲笑に反論することなど、今の理人にはできなかった。「違う!
last updateLast Updated : 2026-04-23
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第十二話(最終話)「新しい門出」

「木香……お前は……どうしたら俺を許してくれる……?」病室の床に膝をついて項垂れたまま、理人は縋り付くように言った。「……」私は理人を見下ろして呟いた。「私が子供を殺された時、あなたが、私を信じてくれていたら……可能性があったかもね」理人には、返す言葉がなかった。私は改めて告げた。「時間を巻き戻して。それ以外に、許す方法はないわ」──離婚の手続きは、宏樹が代行した。詩織は逮捕された。警察に引き渡される時には、すっかり狂人のようになっていたらしい。泣きながら抵抗したが、もうその涙に騙される人は一人もいなかったそうだ。妊婦を拉致し、強制的に堕胎させた凄惨な事件は大々的に報道された。ニュース記事のコメントには、『酷すぎる! この詩織って女、人の心がないの?』『胎児相手でも立派な殺人罪! 司法は然るべき措置を!』『不倫相手をこんなになるまで野放しにした男にも非があるでしょ。奥さんが可哀想』『男特定。有浦グループの社長らしい。報道されてないけど、権力で揉み消そうとしてる?』否定的なコメントばかり集まっていた。理人は、廃人のようになってしまったそうだ。周囲に「妻」と紹介して職場にも連れ込んでいたことが災いして、不倫を内々で片付けることができなくなり、有浦グループもバッシングを逃れられなかった。会社にも姿を表さず、家に籠ってブツブツと何かを呟くことしかできなくなり、離婚の手続きはかなり難航した。あの後、私は大手ファッション会社に、デザイナーとして就職した。ずっと昔に作ったポートレートを少し手直しして提出したところ、すぐに採用された。そして今は、大物歌手の衣装を任されている。「木香さん、次のコンサートに間に合わせられるかしら?」歌手のマネージャーが、スケジュール表を手に、アトリエに入ってきた。「任せて。もうあと少し。現状の写真を撮るわ。確認に回してくれる?」「ありがとうございます……! それにしても……」トルソーに着せられたスカーレットのドレスを見て、マネージャーが呟いた。「こんなに能力のある人が、今まで、非常な夫に飼い殺されていたなんて……世の中って理不尽ね」私はそれを聞いて、微笑んで返した。「いいの。もう終わったことよ」マネージャーは、デザイン図を手に、アトリエを出ていった。入れ違いで入ってきたのは、理人だ
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