冷たくて固い床の上で、私の手足は冷えていった。その地下室の扉は、私、有浦木香(ありうらこのか)がゴミ同然に叩き込まれるまで、長らく開かれていなかった。そこでは、壊れてしまった古い家具や、破れて染みがついた絨毯が、埃を被っていた。愛した夫は、きっと今頃、私との結婚記念日にはキャンセルしたレストランで、食事を楽しんでいることだろう。──彼の、初恋の相手と一緒に。さっき投与された堕胎薬が、お腹の子供の命を奪っていくのが分かる。この子を産んで、育てたかった。本当は、幸せな家庭を築きたかった。それも、私のわがままで済まされてしまうの?もう、声を上げる力もなくなった。お腹の子が死んでいくのを、感じている他になかった。第一話結婚記念日、半年前から予約していたフレンチのレストラン「モンクール」の席で、私は一人座っていた。夫の有浦理人(ありうらまさと)は、約束の時間になっても来ることはなかった。メッセージにも返信がなく、電話も繋がらない。私の胸は、心配よりも落胆に満たされていた。大切な約束を忘れられることなど、これで何度目かわからない。私の様子を気に掛けたウェイターが、「最初のお料理をお持ちいたしましょうか?」と尋ねに来た。私は、最後の強がりで「夫を待ちますので」と答えた。その瞬間、携帯が震えた。理人からの着信だ。震える手で電話を取ると、理人の低い声が聞こえた。「仕事中は連絡してくるなと言っただろ。一体どうした?」一体どうした。その言葉は、まるで私との約束など、覚えていないようだった。大切な日だから、14時には仕事を終わらせると、言っていたのに。その言葉を飲み込み、平静を装って答えた。「お疲れ様。……先に着いてるわよ」「着いてる? どこに?」心の底に広がる冷たい絶望に震えながらも、微かな希望に縋るように、理人の質問に答えた。「レストラン。結婚記念のお祝いに、半年前に予約してたでしょ? 今日──来てくれるのよね?」ほんの数秒の沈黙の後、理人は取り繕うように言った。「ああ……明日だと勘違いしてたよ。すまない。このところ、忙しくしていたから」確かに、理人はこの国を代表する大企業の社長だ。いつも忙しそうに走り回っているのを、五年前に結婚した当初から見て、知っている。それでも、ほんの一年前までは、記念日を忘れることも、すっ
最終更新日 : 2026-04-23 続きを読む