Alle Kapitel von いいこは怒らせると怖いですよ?: Kapitel 1 – Kapitel 3

3 Kapitel

第1話 絶望の中の希望

 私――井伊こよりは強く思う。 真面目な人間が損をする。  正直者が馬鹿を見る。  そんな世の中、私は大嫌いだ――と。「う、く……」 「ほらほら、『いいこちゃん』! 何か言ってごらんよ。いつもみたいに、さ!」 「あぅっ!」 思いっきり頬を叩かれ、私は唇から血を流した。  全身ぼろぼろだ。殴られ、蹴られ、水をかけられ……眼鏡もフレームから折れてしまった。 そんなに、あなたは私のことが気に入らないのか。私のことを認められないのか。  私はまだ高校1年生だけど、生徒会副会長としてやれることをやってきた。  決して日の当たる役割じゃなくても、それでも皆のために頑張ってきたつもりだ。 なのに今、先輩の金髪女子を中心にした集団に、寄ってたかって暴行を受けている。 理由は――何となくわかっている。副会長として、彼女を何度か注意したのだ。  年上だからって関係ない。不良には、それ相応の態度で臨まなければいけないと私は考えていた。  私のこのスタイルを、仲間たちは「真面目だね」「さすが井伊さんだ」と評価してくれていた。 その結果が、今だ。なんだこれ。「なぁ、綺羅良。こいつ金持ってねえの?」 「ああ、ダメダメ。いいこちゃんの家、詐欺られてマジヤバなんだって。親が馬鹿だと子も馬鹿になるんだねぇ」 「……っ!」 両親を悪く言うな。  あの人たちは、ちょっと生きるのが不器用なだけなんだ。 殴られて朦朧とする中、私はリーダー格の金髪女を睨んだ。彼女はにやりと笑う。「そうそう、いいこちゃん。あんた今日で退学なんだって?」 「……それは」 「噂になってるよ。身内のじーさんに、借金のカタに売られるんだって? 今どきそんなのある? マジヤバいんだけど」 がっ、と髪をつかまれた。「つーわけで、あんたとも今日でお別れ。あたしらが企画したお別れ会、楽しかった? いいこちゃん、友達いなくてかわいそうだからね。今まで世話になったお礼よ」 「先生は……楓先生は、何て」 「あのオバサン? 何かいろいろ抗議してたみたいだけど、後の祭りよ。めっちゃ悔しそうな顔がウケたわ。規則なんて無視すりゃいいのに、真面目な奴らってホント馬鹿よね」 「先生……」 「世の中ね、馬鹿正直でクソ真面目な奴ほど損をするようにできてんの。その証拠にほら、誰もあ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-04-25
Mehr lesen

第2話 希望からの裏切り

「結婚しよう」 ベッドの中で、お互い一糸まとわないまま、そう言われた。 私は23歳になっていた。 そして彼を、『怜央』と呼び捨てにできるほどの関係になっていた。 そんな中での、怜央からのプロポーズだった。 行為の後の、少し気だるい空気。身体の熱が程よく冷め、互いの汗や体液が少しひんやりと感じられる。 同棲のために引っ越したばかりのマンションに、同じく買ったばかりのダブルベッド。引っ越しのために一般的な会社員の平均年収分を費やしても、怜央はまったく気に留めた様子がなかった。 私は、怜央の手に指を一本一本絡めて、「うん」と答えた。「婚姻届、もらいにいかなきゃ。証人、誰にしよう」 「先に指輪だろう」 「お父さんやお母さんにも話をしないと。お祖父様にも……そうね、例のプロジェクトの債権回収を先に片付けて、手土産にしましょう」 「君は本当に『いいこちゃん』だな」 空いた手で私の前髪を撫でながら、怜央が言う。いつもなら気にならない私のあだ名が、このときだけはなぜか、妙に刺さった。 だが、その違和感もすぐに忘れてしまう。 心臓が、微睡みの中にあるようにゆっくりと脈打つ。私の心と身体が、これ以上ないほどリラックスしている証だった。(ああ。これでようやく解放される) 私は思った。 怜央は私のことを理解してくれている。 怜央がいれば、私はここ数年の地獄から抜け出せる。5年前は考えもしなかった転職だって可能だろう。 もしかしたら、『あの夢』も叶うかも――。「ねえ怜央。私ね、やってみたいことがあるの」 「『学校に通いたい』だったか」 「うん。それもね、高校に行きたい。できるなら、お世話になった楓先生のところに行って、あの人のもとできちんと卒業したい」 「お前なら大丈夫だろう。何せ、出会ったころからまるで見た目が変わってない」 「なに、それ。子どもっぽいって言いたいの?」 恋人つなぎをした手に、きゅっと力を込める。 怜央は握った手をほどくと、私の薬指を撫でた。そこに嵌めるべき指輪を、今から想像しているようであった。 男のほうが気にするなんて、ちょっとおかしい。「……早いほうがいいな」 「じゃあ仕事のスケジュールを調整しなきゃ」 「そういう意味じゃない」 私は顔を上げる。怜央が、いつもの目を私に向けていた。優しげで、い
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-04-25
Mehr lesen

第3話 いいこは怒らせると怖い

 私は入院した。 左膝は手術が必要なほどの怪我を負い、消えない痕が残った。術後は心身の痛みで一睡もできなかった。 入院中に、私は職場を解雇されたことを知った。ただでさえ祖父のことで会社が揺らいでいるところに、『痴話喧嘩』で醜聞を流したというのが、その理由だった。 ずいぶんといい加減な話だ。まともな会社ではまずありえない。ありえないからこそ、私が今までどんな環境にいたかを思い知らされた。 これまで限りなく裏社会に近い場所で働いてきた直感で、私は自分が『切り捨てられる側になった』と悟った。 怜央と私とを天秤にかけて、上層部は怜央を取ったのだ。 もともと社会的にグレーな職場だ。まっとうな手当や福利厚生など望むべくもない。 入社した経緯も最悪なら、放り出された経緯も最悪だった。「何も話したくない。出てって」「こより……」「出てって!」 病室のベッドで、私はすさんでいた。 自分たちも大変な状況の中、わざわざ見舞いに来てくれた両親も、私はきつい言葉で追い払った。 誰も信じられなくなっていたのだ。 味方は捨てた。 収入もない。 居場所さえ失われた。 退院すれば、さらなる地獄が待っているだろう。私にとって、1日1日は地獄へのカウントダウンでしかない。 どうせなら、理性も良心も全部かなぐりすてて生きてやろうかと思った。涙もいらない。人として終わってもいい。 あの憎き怜央のように。 そんなときだった。「……久しぶりね、こよりさん」「楓、先生」 私が怪我で入院したという話をどこかから聞きつけた楓先生が、見舞いにやってきたのだ。 |桜庭《さくらば》楓先生。私が通っていた私立|黎明館《れいめいかん》学園で、中学・高校と担任だった女性だ。 真面目一辺倒で孤立しがちだった私に、いつも寄り添ってくれた恩師であった。 けれど、私は素直に喜べなかった。「遠路はるばる、ご苦労様です。それで、今日はお説教ですか? 先生に叱られるのは8年振りですね。相変わらず教育熱心で尊敬します」 口が勝手に辛辣な皮肉を吐く。地獄で磨いてきた鋭利な言葉が恩師の顔を曇らせるのを見るのは、正直言って快感だった。 同時に、私はさらなる地獄に自ら片足を突っ込んだのだと悟った。自覚するともう何もかもどうでもよくなった。 しかし、楓先生の反応は予想と違った。 私を叱るでも
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-04-27
Mehr lesen
CODE SCANNEN, UM IN DER APP ZU LESEN
DMCA.com Protection Status