All Chapters of 御曹司の妻を辞めた日、私は社長になった〜久世家を出た元嫁は、格上エリートと人生を再建する: Chapter 11

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11.通らない改善案

藤崎亮の名前は、浜口の口から出た。「ECのことなら、藤崎に聞いた方がいいと思います」サンプルルームの棚には、まだKUZÉ ma vieの商品候補が並んでいた。淡い包装紙、小さな瓶、焼き菓子の香り。発酵調味料の深い琥珀色。美緒はそれらを見ながら、商品は確かにここにあるのだと思った。手で作られ、箱に詰められ、誰かの元へ届くのを待っているものたち。けれど、商品があるだけでは届かない。誰に、どう見つけてもらい、どこで買ってもらい、どう次につなげるのか。そこを見なければ、この企画はまた、きれいな資料の中だけで終わってしまう気がした。美緒は手帳を開いた。KUZÉ ma vie。原価。在庫。商品。製造数。賞味期限。取引先負担。浜口佐和。そこへ、新しく書き足す。EC。購入導線。リピート。藤崎亮。細いペン先が紙の上を滑る音が、サンプルルームの静けさの中で小さく響いた。書かれた名前は、まだ見知らぬ人のものだった。けれど美緒には、その名前が森川の赤い付箋や浜口の商品メモと同じ場所へつながっているように見えた。森川は数字を見ていた。浜口は商品を見ていた。そして今度は、届け方を見ている人がいるらしい。けれど、そのどれもが、なぜか会社の中心へ届いていない。浜口は資料を片づけながら、少し言いにくそうに続けた。「若手ですが、ECのことはかなり見ています。何度も改善案を出していますし」「改善案、ですか」「はい。ただ、なかなか通らなくて」通らない。その言葉に、美緒は小さく息を止めた。森川の数字も、浜口の商品側の注意も、出されていた。赤い付箋も、コメントも、資料の端に確かに残っていた。それでも十分には扱われていなかった。藤崎の改善案もまた、通らないものとしてどこかに積まれているのだろうか。美緒は手帳を閉じ、
last updateLast Updated : 2026-05-10
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