麻酔が効き始めた時、執刀医が松田啓太(まつだ けいた)に問いかける声が聞こえた。「松田局長、本当に奥さんの心臓を夏川さんに移植してもよろしいんですか?」啓太の瞳がふっと沈む。「ああ、構わない。どうせ妻は子宮も失った体だ。心臓を取り替えたところで大差ない」「ですが……松田局長。奥さんが妊娠してしまうと夏川さんを傷つけてしまうと思って、あなたがわざと事故を仕組んで奥さんの子宮を摘出させたんですよね?奥さんは今でも、あの時お腹に3ヶ月の命が宿っていたことを知りません。しかもその胎盤さえも、夏川さんの病を治すための特効薬の材料にされたことも……」そこまで言うと、執刀医は耐えかねたように声を震わせた。「しかし、今の奥さんの健康状態では、万が一……」手術室の空気が、一瞬で静まり返る。すると、啓太が私のそばに歩み寄ってきて、手のひらで私の頬に触れながら、声にわずかな愛惜を込めて呟いた。「心臓を取り替えるからって何だ?睦月の心臓だって、妻にやるんだろ?」溢れてくる涙で枕を濡らしながら、私の意識は暗闇へと沈んでいく。私が恋い焦がれていた愛は、ただの悪夢に過ぎなかったらしい。集中治療室に送り込まれたあの母の日。母親になる権利を私から奪っていったあの事故も、決して偶然ではなかったようだ。7年間愛し続けた夫が、裏で糸を引いていたなんて。次の瞬間、麻酔が全身に効き始めた。意識が遠のく中、冷たいメスが肉を裂く感触がした。真っ赤に染まった私の心臓は摘出され、代わりに睦月の病に蝕まれた心臓が埋め込まれていく。意識が途切れる直前、胸を握りつぶされるような痛みを感じ、熱い涙が頬を伝ったのだった。……再び目を開けると、啓太がベッドのそばで、心配そうに私を見つめていた。「若葉(わかば)、やっと目が覚めたか。何日も眠ったままだったんだぞ。どれほど心配したことか……」啓太は私の手を取り、自分の頬に寄せながら優しい気遣いを見せた。「気分はどうだ?どこか痛むところはないか?あまりに痛むようなら言ってくれよ。すぐに鎮痛剤を打ってもらおう」その瞳には、私への心配と愛情が満ち溢れている。だが、胸に走る鋭い術後の痛みが、現実を私に突きつけていた。「大丈夫」私は啓太の手を拒絶するように押しやった。胸の奥が、何かに
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