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第2話

Author: 無文
待ちわびていた結婚記念日も、啓太は私を置き去りにし、睦月とその息子のために花火を打ち上げに行ってしまった。

その時、私はようやく気づいた。啓太は子供が嫌いなのではない。

ただ私との間に生まれる子供が、いらなかっただけなのだ。

「ああ、そうだ。術後で体も辛いだろうと思って、お前の代わりに退職の手続きを進めておいたよ。空いたポストを無駄にするのも何だし、睦月に職を譲るための推薦状を書いてくれないか?

知っての通り、睦月は旦那さんを亡くしたばかりだろ?だから、仕事がないと、これからの生活が苦しくなると思うんだよ」

啓太がとっくに準備し、あとは私がサインするだけになった推薦状を、彼が懐から取り出すのを私は黙って見つめる。

「わかった」

傷口の痛みに耐えながら、啓太の期待に溢れる眼差しのもと、私は震える手でサインをした。

あまりにもあっさりとサインをした私に、啓太は少し驚いたようで、慌てて言い訳を付け加えた。

「変な勘繰りはしないでくれ。ただの仕事の話だろ?それに、お前の体調が良くなったら、また新しい仕事を探してやるからさ」

その瞬間、目に砂が入ったかのように、視界が熱く潤んでいくのを止められなかった。

私は何も答えず、ただ静かに頷いた。

啓太は歓喜して私を抱きしめた。

「お前なら分かってくれるって信じていたよ!ずっと子供を欲しがっていたよな?元気になったら、養子を迎えよう!」

何度も聞かされたその約束だったが、この時、私の心はもう動かなかった。

啓太の手首には、かつて私が二人の子供を授かれるように、と願いながら編んだミサンガが結ばれたままだ。

目尻を拭うと、指先が濡れるのを感じた。

かつては、望んでいた幸せを手に入れていたのかもしれない。しかし今、残されているのは、あまりにも残酷な現実だけだ。

私は自分の手にも結んでいた、啓太とお揃いのミサンガを引きちぎり、自分に言い聞かせた。

もう、ここを去らなければいけない。

残されたわずかな時間を、自分のために生きよう。

荷物をまとめると、私は看護師の制止を振り切って病院を後にした。

家に着くと、ちょうど啓太と鉢合わせた。

私の姿を見つけるなり、彼は着ていたコートを脱いで私の肩にかける。そして、心配そうな声で言った。

「若葉、まだ本調子じゃないんだから、病院でもう少し休んでいるように言っただろ?なのに、どうして戻ってきたんだ?」

皮肉なことに、そのコートからは睦月の香水の匂いが漂ってくる。

完璧なまでの彼の名演技。しかし、それをどうこう言おうという気力は、今の私にはなかった。

しかし、啓太は私の様子の変化に気づくこともなく、淡々と言葉を続けた。

「あのな、若葉。ここ数日間、睦月は引っ越し作業をしてるんだけど、住む場所に困ってて。新しい家が決まるまで、彼女と青斗くんをうちに泊めてもいいかな?」

私は静かに笑みを作る。「大丈夫だよ。連れてきてあげたら?」

あまりにも落ち着いている私に、啓太が怪訝そうな顔をした。

「怒らないのか?」

「怒らないよ。頼れる人のいない夏川さんを、あなたが助けてあげるのは当然のことだから」

啓太はぱっと顔を輝かせ、私を強く抱きしめた。

「若葉、ごめんな。睦月たちが落ち着いたら、必ず埋め合わせをするから」

私は静かに頷くだけで、それ以上は何も言わなかった。

埋め合わせなんてしなくていい。だって、あなたのことも、もういらないのだから。

私が何も言わないのを不機嫌だと勘違いしたのか、啓太はポケットから真珠で装飾されたブレスレットを取り出し、私の手首にはめる。

彼は、それを家に代々伝わる家宝だと言ったが、それが嘘であることを、私は知っていた。

なぜなら、それは睦月が先月捨てたものであることが、一目見て分かったから。

その瞬間、私は分かった気がした。

結局、私はいつだって二番手で、啓太の妥協案に過ぎないのだ。

「そうだ。お前が持っているお守り、普段着けてないなら青斗くんに譲ってやってくれないか?」

私は啓太を見上げる。彼は忘れてしまったのだろうか?そのお守りが、父が死の直前に「娘に渡してくれ」と啓太に託した、最後の形見であることを。

そして、啓太はそれを私に手渡し、涙ながらにプロポーズしたのに。

「お前の家族は、自分の命と引き換えに俺を助けてくれた。だから、これからは俺が一生お前を守る」

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