【柴田社長って本当にお忙しいんですね。今月だけでもう3回目の出張ですよね?】撮りたての写真を選択し、私・柴田紬(しばた つむぎ)は息を殺して送信ボタンを押す。盗撮風の絶妙なアングル。右下には、男物のパジャマの一部が写り込んでいる。ピコン、と送信完了の音が鳴った瞬間、私は爆弾でも捨てるようにスマホを放り出した。「まったく。そんな度胸しかないくせに、よく旦那さん相手にこんな真似をしようと思ったわね」藤田晴香(ふじた はるか)が呆れ顔で言った。「自分で自分の浮気相手を演じてるのよ、緊張しないわけないじゃない?」私はクッションに顔を埋めて叫び、ビクビクしながら尋ねた。「ねえ、自作自演だってバレないかな?」「そんなにビビらなくてもいいでしょ。バレたら悪ふざけでしたって言えば済む話でしょ」「でも、私たちってまだ冗談を言い合えるような仲じゃないし……」自分の衝動的な行動に後悔し、泣きそうになった。「結婚して3年、同じ屋根の下に住んでるのに、まだそんなに他人行儀なの?ある意味、二人ともよく理性が持ったわね」「響さんと3年も一緒にいたら、ときめきなんてとっくに枯れたわ」そして、晴香は感心したように私の肩を叩いたが、私は呆れたように彼女の手を払いのけ、スマホへと手を伸ばした。「響さん、見てくれるかな?」言い終わるか終わらないかのうちに、スマホがブブッと震えて画面が光った。響からのメッセージだ。【紬はお前で暇つぶしをしてるだけだ。見つけたらただじゃおかないぞ、この下劣な野郎が……】今度は私と晴香が、顔を見合わせた。「どういう意味?私、怒られてる?」響がこんな言葉遣いをするのを見たのは初めてで、戸惑いつつも、なんだか新鮮だった。柴田響(しばた ひびき)と結婚して3年。ずっと同じ家に住んでいるとはいえ、まともな会話をしたことは数えるほどしかない。たまにどうしても話さなければならない用事があっても、響はいつも短い言葉で済ませていた。彼が感情を露わにするのを、私は初めて見た。「正確には、その『浮気相手』を罵ってるのよ」晴香は生唾を飲み込み、ためらいがちに言った。私がまだ事態を呑み込めていないうちに、再びスマホがブブッと震えた。【ご家族様が本日付の帰国便の航空券を購入しました】「えっ、これどういうこと?まさか、今すぐ帰って
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