جميع فصول : الفصل -الفصل 10

13 فصول

第1話

医療ミスを起こした後輩・入江茜(いりえ あかね)の尻拭いを、私・谷口絢香(たにぐち あやか)が引き受けたと知った婚約者の院長・柴田竜也(しばた たつや)は、結婚恐怖症だったにもかかわらず、補償として結婚しようと言い出した。私は喜んで式場に向かったのに、日が暮れるまで待っても竜也は現れない。代わりにやってきたのは激昂した患者の家族で、私の結婚式はめちゃくちゃにされた。さらに茜からは、こんな挑発的なライブ配信が送られてきた。「私の新郎が逃げちゃったから、先輩が迷わず代わりに私と結婚してくれたの。これから先輩じゃなくて、私の夫になるのよ!」配信の中で茜と竜也が恋人のように指を絡め合っている様子に、目の奥が痛むほど胸を刺された。ライブ配信を見ていた同僚たちは、私が取り乱して醜態をさらすのを待ち構えていた。でも私は冷ややかに笑い、そのままコメントを打ち込んだ。【結婚したんなら、ついでに入籍もすれば?めでたいことが重なって、ちょうどいいじゃない】すぐさま竜也から、厳しい口調の電話がかかってきた。「茜と結婚したのには理由がある。新郎に逃げられて恥をかいているのを放っておけるか?式を挙げただけで入籍したわけじゃないのに、どうしてそんな嫌味を言うんだ?コメントを消して謝ってくれ。茜の式を最後まで済ませたら、必ず君には最高の結婚式をやり直してやるから、それでいいだろ?」私は冷たく鼻で笑った。「もういいわ」だってもう、私は別れを決め、竜也を捨てることにしたのだから。その言葉を聞いて電話の向こうの竜也は一瞬沈黙したが、すぐに隠しきれない怒りを露わにした。「絢香、そんな些細なことに、いつまでこだわるんだ?」私は拳を握りしめ、爪が皮膚に食い込んだ。荒らされた式場と、赤ワインとケーキで汚れたドレスを見下ろし、胸の奥が苦く疼いた。竜也はまだ知らない。彼が茜とレッドカーペットを歩き、拍手を浴びている間、私が賓客たちから笑いものにされ、散々嘲られていたことを。新郎に捨てられた女、誰にも相手にされない女と、みんなに笑われていた。さらに追い打ちをかけるように、子供を失った家族たちが復讐のために式場に乱入し、めちゃくちゃにしたのだ。選りすぐりのバラは踏みにじられ、心を込めて飾った式場も一瞬にして台無しになった。彼らは私の顔面にケーキ
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第2話

私はこうして8年間待ち続けた。竜也に尽くしていれば、彼の心もいつかは温まり、結婚について考えを改めてくれるはずだと信じていたからだ。しかし1週間前、茜が医療ミスで患者を死なせた際、竜也は私に罪を被るよう要求した。「絢香、茜は結婚を控えているんだ。人の命に関わる問題を背負えば、婚約者に婚約を破棄されてしまう。茜はまだ若いんだ。汚点がついたら、そのキャリアも全て台無しだ!結婚のためにも、仕事のためにも、背負わせるわけにはいかない。君は違うだろ?実績も十分だし、病院内での評価も高い。それに俺がついているんだから、このくらい大したことはないだろう?」最初、私は断った。だが首を縦に振らない私に対し、竜也は口を利かなくなった。「もし君が罪を被らないなら、代わりに俺が茜の身代わりになる」とさえ言い放った。竜也には逆らえず、結局、私は茜の罪を引き受けることにした。竜也はそれを受け入れ、なんと3日後に私と結婚することでケジメをつけようと言い出した。やっと報われるのだと信じ、私は3日間で結婚の準備を全て整えた。当日も休暇を取り、真っ先に式場へ向かった。しかし日が暮れるまで待っても竜也は現れず、代わりに待っていたのは患者家族たちからの集団暴行と、茜の挑発的なライブ配信だった。配信の中で、二人の固く絡み合った指が視界に入り、心臓が握り潰されるかのように痛んだ。竜也は結婚が怖かったわけでも、覚悟ができていなかったわけでもなかった。ただ、私と結婚したくなかっただけなのだ。現実に引き戻されると、竜也がまだ私を責め立てていた。「絢香、言ったはずだ!やむを得ない事情があるんだから、いつまで騒いでるんだ?新郎に逃げられて立ち尽くす茜を放置しろって言うのか?頼れる先輩として気遣うのは当然だろ?俺が何か間違ったことをしたか?ただの先輩と後輩の関係だ。心が汚れている奴ほど、すべてを疑ってかかるんだ!」あまりに滑稽で笑いがこみ上げた。茜が恥をかくのは不憫で、私に恥をかかせるのは平気だというのか?そもそも、この二人の関係は彼が言うほど単純なものだっただろうか?竜也は気付いていないのだろう。日常の隅々にまで滲み出た茜への偏愛こそが、自覚なき庇護欲であり、無意識の執着なのだ。そう思い至り、私は冷めた笑いを漏らした。「あなたは何一
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第3話

グループチャットの同僚たちは、みんな竜也の言いたいことを察したのか、こぞって便乗した。【だよね。入江先生、気にするなよ。谷口先生があんなに器が小さいなんてな!】【院長はこんなに優しいのに、あの婚約者の谷口先生は血も涙もないですね。院長にすっぽかされたのも自業自得ですよ】【……】茜がやってきて竜也がえこひいきするようになってから、同僚たちが茜を持ち上げて私を貶すような陰口を叩くのも日常茶飯事で、私はすっかり慣れっこになっていた。もう見るのも嫌になり、スマホの電源を切った。我に返ると、結婚式場のスタッフが目の前に立っていた。「すみません、式場の貸出時間が過ぎましたが、このまま延長なさいますか?」私は首を振り、スマホを出して利用料を支払った。「いえ、もう結構です」待っても来ない結婚式なんて、いらない。手に入らない人も、返ってこない愛情も、もういい。支払いを終えると、顔や口元についた血を拭い、私は大股で入り口へと向かった。しかし、外に出たところで、ちょうど竜也から着信があった。切りたかったけれど、いつもの癖で通話ボタンを押してしまった。繋がった途端、竜也の傲慢な声が耳に響いた。「おい、絢香。自分のしたことが分かってるのか?」私が言い返す隙もなく、彼は言葉を続けた。「挽回するチャンスをやる。今日は茜が挨拶回りで忙しくて、足が棒になるほど立ちっぱなしだったんだ。ろくに飯も食えてない。夜の当直、君が代わってやれ。ちゃんと務めれば、さっきの生意気な態度は不問にしてやるから……」私は握り拳に力を込め、爪が皮膚に食い込んだ。竜也は茜を心配するばかりで、私も式場で一日中立ち尽くして、ずっと彼を待っていたなんて忘れているのだ。以前なら竜也が真っ先に気遣ってくれたはずだった。私が手術で何時間も立ち続けて疲れていると、彼が顔を曇らせて肩や足をマッサージしてくれたものだ。しかし、あの私を全身全霊で愛してくれていたはずの男は、すっかり心変わりしてしまった。今回ばかりは、竜也との危うい関係を維持するために卑屈になるのはやめた。私ははっきりと断った。「竜也。私も一日中待たされて疲れているの。夜の当直なんて行く余裕がないわ。それに、それは入江先生の仕事でしょ?手伝う義務なんてないわ」竜也の返事も待たず
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第4話

写真の中では、竜也と茜がキャンドルディナーを楽しんでいて、テーブルには洋食がずらりと並んでいた。【今まで『後輩』でいたけど、これからは『妻』となるな】予想外のことだった。記憶の中では、竜也は洋食が大嫌いなはずだったからだ。竜也がまだ幼い頃、外国人の女性にのぼせた父親に自分と母親が捨てられた過去があるため、結婚に強い抵抗を持つようになり、洋食を極端に嫌い、海外に関わるものすべてを拒んできたはずだった。付き合い始めの時、そんな事情を知らずに竜也を洋食に誘ったらひどく怒鳴られ、帰宅後は1週間の冷戦状態に。結局、私がリビングで半日も正座して謝罪し、さらに400万円の時計を買い与えてようやく許してもらえた経緯がある。それが今や、茜のために進んで洋食を食べている。顔色ひとつ変えず、嫌悪感も滲ませていない。愛さえあれば、あらゆる障害を乗り越えられるというのは本当だ。ただ、その相手が私ではなかったというだけのこと。意識を戻すと、同僚たちが竜也のコメント欄に【末永くお幸せに】と次々書き込んでいた。いつもは茜が意味深な投稿を上げるだけで、誰もが状況を察しつつもあえて触れないようにしていたのだ。それが竜也自身による投稿となれば、実質的な公表に他ならない。竜也がそんな投稿をしたのは、私への当てつけだ。昔のように、私に縋りついて許しを請わせたかったのだろう。でも今の私は、それを軽く笑って受け流した。お腹がグーッと鳴ったとき、もう丸一日何も食べていないことに気がついた。私はスマホを取り出し、親友の加藤咲希(かとう さき)に連絡した。【鍋料理食べに行かない?】咲希からの返信は即座に来た。【行く!】鍋料理の店で。咲希はホルモンを鍋にくぐらせながら、聞いてきた。「そういえば、あの柴田さんって、結構束縛強くて10時には絶対帰れとか言われてなかった?」今さらだけど滑稽だ。竜也は、私が浮気しないか監視するためだけに厳しい制限を課していた。自分の方は棚に上げているのに。他の病院へ研修に行くという言い訳で、夜通し出かけていたくせに。竜也は完璧に隠せていると思っていたのだろうが、茜が私に送ってきたツーショットを見て、それがすべて彼女のところへ通うための口実だと、とっくに知っていた。当時の私は馬鹿だった。その門限を律儀に守り、何度
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第5話

「まだ嫌味を言える元気があるんだな。大したことなさそうだな。こんな時間に帰ってきて、門限を過ぎてるぞ。どこで何をしてたんだ?」私は答えず、ただ言い返した。「そっちはどうなの?どうして急に帰ってきたの?入江先生に付き添わなくていいの?」竜也は表情を強張らせ、眉をひそめた。「何を言いってるんだ?今日は出張でも研究会でもない。茜の用事を済ませたら、当然帰ってくるだろう。君の機嫌が悪いようだから帰ってきたのに。約束を破ったのは悪いと思ってるが、だからって拗ねてこんな時間まで帰らないのはどうなんだ?事故でもあったのかと警察に通報するところだったんだぞ!それなのに、帰ってくればその口調か?お腹を空かせているかと思って、君の好きな店のおかずをテイクアウトしてきたんだぞ」私はテーブルの上の冷え切ったおかずを見て、少し意外だった。もしかして、勘違いだったのか?「もう食べてしまったわ。気持ちだけ受け取っておくわね」そう言われて竜也は、私の機嫌が直ったと勘違いしたようだ。「そうだ。茜のご両親が俺たちを本当の夫婦だと信じ込んでいてな、どうしても入籍してほしいって聞かないんだ。ご両親の体調が良くなくてね。たっての願いだから断れなくて。明日、籍を入れに行かないといけないんだ。君ならこの手の事務手続きに詳しいだろう?何が必要で、どうすればいいのか教えてくれないか?これが最後だ。茜の両親を安心させたら、次は必ず君と正式に入籍して補償する」私は心底冷めた。優しくした理由なんて、やっぱり茜のためだったのか。私たち二人の未来のために知識を得ようとしていた私に、竜也と茜のために策を出せと言うの?私は冷たい声で突き放した。「分からないわ。自分でネットで調べれば?」繰り返し面子を潰され、竜也はついに怒りを露わにした。「絢香。芝居を打って場を収めてやっているだけだろ?何をそんなにカリカリしてるんだ?」「それが演技なのか本気なのか、あなた自身が一番よく分かっているはずよ」指摘されて、竜也は瞬時に不機嫌な顔になった。「本当に話の通じない女だな!」争うのも面倒で、私はそのまま寝室に行こうとした。竜也は私より先に部屋に入り、私の枕を放り出し、書斎で寝ろと言い放った。私が折れるとでも思っているのか?願ったり叶ったりだ。私は
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第6話

航空券を予約したところで、咲希から、出発前に送別会を開きたいと連絡が来た。送別会のレストランに向かう途中、咲希が突然足を止め、少し先を指さして声を上げた。「あれ、柴田さんと入江先生じゃない?」視線を向けた私は、言葉を失った。なんという偶然か、すぐ近くには役所があった。そこには、竜也と茜がいた。二人は一つのアイスを分け合いながら幸せそうにしていた。通りすがりの人まで思わず感心していた。「仲の良いカップルだね!」いつもなら潔癖な竜也が茜の口元を優しく拭い、日焼けを嫌うはずの彼が自ら茜に日が当たらないよう手で影を作っている。それを見て、私は苦笑いを浮かべた。愛されている者は、いつだって怖いもの知らずだ。かつて愛されていたのは私だった。けれど今は、どう見ても茜だった。咲希が怒って、私の代わりに文句を言いに行こうとした。私はそれを制止する。「いいの。出発前にゆっくり食事がしたいだけだから。こんな人たちのために時間を無駄にしたくないわ。それに、もう別れた仲なんだし。彼が何をしていようと私には関係ない」立ち去ろうとしたとき、竜也に気づかれた。彼は慌てて茜と距離を置いた。「絢香?どうしてここに?」茜は挑発するように私を見やり、意味ありげに笑った。「竜也さん、谷口先生が人事に探りを入れて、わざと後をつけてきたみたい」竜也はたちまち怒りを露わにした。「尾行してるのか?絢香、8年も付き合ってきて、俺のことをそれっぽっちも信用していないのか?」あまりのことに失笑した私は、冷ややかに言い返した。「信頼がないのはそっちでしょ?入江先生の言葉を信じて私を疑うくせに」茜の目に涙が浮かんだ。「谷口先生、勘違いですよ。私の親を安心させるために、形だけ入籍するんです。そんなに嫌なら取り消しますから。帰ったらすぐ親に事情を話します。本当は嘘の結婚だと、婚約者に捨てられた惨めな娘なんだって、ちゃんと説明します……」茜がわざとらしく去ろうとすると、竜也は彼女を引き留め、私を鋭く睨みつけた。「もう十分だ、絢香!茜のご両親を安心させたら、君とちゃんと入籍して結婚するって約束しただろ。どうしてその数日すら待てないんだ?それに今は就業時間中だ。君は今、サボっているんだぞ!今すぐ戻れ。給料を差し引
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第7話

退職の承認通知を見た瞬間、竜也は驚きに目を見開いた。「退職だと?俺がいつ退職を認めた?」それを見た茜が口角を上げ、ここぞとばかりに火に油を注いだ。「谷口先生、どんなに拗ねても退職なんて冗談を言うことはないじゃないですか……それに、竜也さんを困らせるためにわざわざ偽の承認通知を作るなんてひどすぎます。竜也さんはたった一人でこの病院を支えていて、もう疲れているんです。これ以上、竜也さんを悩ませて倒れたらどうするんですか?」そう言われ、竜也はすぐに私に失望の眼差しを向け、冷たく言い放った。「絢香、いい歳をして、どうして年下の茜よりも物分かりが悪いんだ?俺を怒らせるために、捏造して……悪いが、そんな俺の気を引こうとするような手には乗らないぞ。俺の堪忍袋の緒もそろそろ切れる。いい加減にしろ。これ以上騒ぐなら許さない」少し間を置いて、竜也は逃げ道を塞ぐように言った。「最後にもう一度だけチャンスをやる。俺が気が変わる前に早く仕事場へ戻れ。さもなくば、今月のボーナスはゼロにしてやるからな」私を諭すような竜也の目に、私は彼が本気であることを察した。けれど、なんだか可笑しくてたまらない。証拠を目の前に差し出しても、竜也は茜の言葉ばかりを信じ、私の言うことには一切耳を傾けようとしない。よくよく考えれば、茜が現れてからというもの、竜也はいつも私を悪意のある目で疑うようになった。低血糖で補給用のブドウ糖を一瓶飲んだだけでも、「病院の備品を無駄遣いするな」と責められたほどだ。一方で、働き始めて半年の茜には全幅の信頼を寄せ、クレジットカードの暗証番号さえ平気で教えている。私が何度も「気をつけるべきだ」と警告しても、竜也は鼻で笑ってこう言った。「誰もが君みたいに腹黒いと思ったら大間違いだ!茜は純粋で良い子なんだ。彼女が俺を裏切るはずがない!」私が黙り込んでいると、竜也は私が怯えているのだと勘違いし、私を完全に掌握していると言わんばかりの態度だった。しかし、彼が勝ち誇った顔を見せる間もなく、私は冷たく突き放すように言った。「ご自由にどうぞ。どちらにせよ、もう辞めたから」私が反論を止めないことに、竜也もついに腹を立てた。「絢香、まだ嘘をつく気か!俺が君に手を出せないとでも思っているのか?そこまで言うことを聞かな
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第8話

でも、竜也が気にかけていなかったおかげで、スムーズに退職の手続きができた。人事担当にそう言われて、竜也は一瞬気まずそうな顔をして、声を荒らげた。「それとこれとは別だろう。それに、あの時はただの勢いで言っただけだ。そのくらいの区別もつかないなら、雇っておく意味がない。君はクビだ。今すぐ私物をまとめて出ていけ!」腹立たしげに電話を切ると、竜也はおずおずと私の顔色を窺い、口調を和らげた。「絢香、これは誤解だ。全部、人事のやつの手際が悪くて、俺の冗談と本気が聞き分けられなかったんだよ!俺があまりに忙しかったから、誤って承認ボタンを押しただけなんだ。君に辞めてほしいわけじゃない、だからあの許可は無効にするから……」最後まで言わせず、私は冷たい声で遮った。「あなたがどう思っていようと、もう承認されているわ。法的にも有効だから、私はもう退職したの」竜也は真っ青になり、何か言いかけたところで茜が遮った。彼女は即座に目を真っ赤にして、消え入りそうな声で言った。「竜也さん、ごめんなさい。竜也さんと谷口先生がこんな風になったのは、全部私のせい!私の結婚式で新郎が逃げ出さなかったら、あなたが代わりに結婚する必要もなかった。両親を安心させるために入籍する必要もなかったし、谷口先生も怒って辞めなかったはずなのに。私が辞めるべきなの!今すぐにでも退職の手続きをしてくるわ。世間に笑われるくらいどうってことない。あなたと谷口先生が、私のせいで喧嘩するのはやめてください。お二人の関係を壊す罪人になりたくない……」言いながら、茜はわざとらしく私に手を伸ばし、親身なふりをして説得を試みた。「谷口先生、今の時代、仕事を見つけるのも大変でしょう。竜也さんに少し折れてあげればいいんじゃないですか?自分の将来を台無しにすることないですよ……」そんな風に水を向けられ、竜也もこの好機を利用して仕事を盾に私を支配しようとした。「絢香、もういい歳だろう。医療ミスの噂もあるのに、俺の病院をクビになったら、雇ってくれるところなんて他にないぞ?今から茜に謝って、おとなしく戻ってくるなら、退職届はなかったことにしてもいい。そうしないと、再就職もできずに泣きながら戻ってくる羽目になるぞ!」私が答える前に、見ていられなくなった咲希が進み出た。「絢香が
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第9話

前の自分は本当にどうかしていた。せっかくの前途を捨てて、恋愛を選んでいたなんて。咲希からそう言われ、竜也は言葉を失い、立ち尽くした。茜の目に、嫉妬の光が宿る。茜は思わせぶりに口を開いた。「谷口先生、他にも働き口はあるでしょう?なぜわざわざ海外なんて選ぶのですか?竜也さんにとって海外がどれだけ嫌なものか、谷口先生は知っているはずでしょう……」竜也が海外に出られないことくらい、私だって知っている。私がそうしたのは、二度と彼と会わないためだ。突然苛立ちを露わにし、竜也が怒鳴り声を上げた。「絢香、わざとやってるんだろ?意地で仕事を辞めたうえに、海外に行くなんて。茜と籍を入れたのだってただの形式だよ。本当の夫婦になるつもりもないのに、なんでいつまで根に持ってるんだよ?今すぐ海外の仕事を断れ!そうしないなら、別れるぞ!俺たちの結婚式もなしだ!」私が彼のもとを離れられないと見越して、竜也はいつも「別れる」というカードを使って私を脅した。以前の私なら、竜也への想いに流され、心にもない謝罪をしてすがりついていたはずだ。でも今の私には、もうその脅しは通じない。私は冷ややかに笑った。「竜也、忘れたの?2日前のあなたと入江先生の結婚の時に、私たちはもう終わったのよ」その言葉を聞いた竜也は、ビクッと体を震わせ、その場に固まった。傍らで茜が口元を緩め、彼女の座を奪えるという期待で目を輝かせている。長い沈黙のあと、竜也はようやく口を開いた。「あの時言ったのは、本心じゃなかったろ?本当に俺と別れるつもりか?」「ずっと、真剣よ」私の冷めた様子を見て、竜也が唇を噛みしめる。「ただ俺が、茜と式を挙げたってだけだぞ?」「ええ」私の答えに竜也はがっくりと肩を落とし、どこか取り乱した様子を見せた。「絢香、俺たちの8年の付き合いがあるだろう?たかがその程度で別れるなんてこと、あるのか?俺と茜はただ形だけの式を挙げただけだ。そんなの気にしすぎだろ?」私はきっぱりと答えた。「ええ。竜也、私はあなたと一緒になりたくて8年も待っていたのに。入江先生の新郎が逃げたからって、あっさり彼女と結婚してあげるなんて。あなたにとって誰が大事なのか、一目瞭然じゃない?8年の付き合い?あなたは、出会って2年の入江先生のために
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第10話

「谷口先生と別れても、竜也さんには私がいるわ。何があってもずっとそばにいてあげるし、絶対に離れない……」私は、竜也がそのまま茜と付き合うのだと思っていた。ところが次の瞬間、彼は茜を乱暴に突き放すと、慌てた様子で私のもとへ駆け寄り、私の手を握りしめながら、目を赤く潤ませた。「駄目だ、絢香。別れるなんて、絶対に認めない!付き合うと決めたのは俺たち二人だ。別れると一方的に決められる筋合いはない。納得なんて、するはずがないだろ!」予想外だった。あんなに茜が好きだった竜也なのだから、身を引いて二人を成就させると言った私を快く受け入れると思っていたのに。なぜ拒むの?深く考えるのも面倒になり、私は平静を装って竜也の手を振り払った。「竜也。私たちの別れは決定事項よ。そっちが納得しようがしまいが、現実は変わらないわ」二人を相手に時間を費やしすぎた。とっくに食事の時間は過ぎているし、もうすぐ搭乗時間だった。私は咲希に謝った。「ごめんね、飛行機の時間が迫っているから、もう送別会はできそうにないみたい」咲希は私の肩を叩き、静かに頷いた。「食事なんていつでもできるわ。飛行機の方が大事。送っていくわよ」その声を聞いて、竜也も口を挟んできた。「俺も行く。ちゃんと話し合う必要がある!」その時、後ろから苦しげなうめき声が聞こえた。振り返ると、茜がその場にうずくまり、胸を押さえて荒い息を吐いていた。「竜也さん、私……喘息の発作が出て、苦しいの……お願い、病院へ連れて行って!」しかし茜の顔色はよく、明らかに芝居だった。いつもの茜のやり口だ。これまでも、私と竜也の仲を引き裂くために、そうやって気を引いてきたのだ。茜は竜也とのデートの翌日に私を呼び出し、わざと煽るようなことを言って怒らせようとする。私が反応する前に茜は胸を押さえて倒れ込み、私が彼女を虐めたせいで喘息の発作が起きたと竜也に吹き込むのだ。誰がどう見ても嘘だとわかる演技なのに、竜也は決まって茜だけを信じ、理由も聞かずに私を責めるばかりか、茜を大切にする一方で私への嫌悪を募らせていった。私はてっきり、以前と同じように竜也が茜を抱えて病院へ走ると思っていたが、今回だけは冷たく言い放った。「茜、今は忙しい。一人でタクシーを使って病院へ行け」茜は驚いたよう
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