私・夏川晴(なつかわ はる)を一人で育ててくれた祖父・夏川剛(なつかわ つよし)は、死ぬまでに私の花嫁姿が見たいと言った。私はその願いを叶えるために、6年付き合った彼氏・九条司(くじょう つかさ)に、自分と結婚してくれないか、と17回も頼み込んだ末、やっと彼の同意を得ることができた。だが入籍当日、司が幼馴染である桜井莉音(さくらい りおん)を連れて、役所から出てきたのだ。「友達と賭けをしたんだよ。莉音と籍を入れられるかどうかって。俺だって、友達の前で情けない姿は見せられないからな」そう言う司が、笑いながら渡してきたのは偽物の婚姻届受理証明書。「お前のおじいさんには、これを見せて安心させてやればいいよな?どうせ偽物なんて気づきはしないんだから」とても心が痛かった。しかし、司はもう歩き出していたので、私は必死に彼の腕をつかんで止めた。「おじいちゃんと約束したの。必ず旦那さんを連れて会いに行くねって。それに、あなたも一緒に会いに行ってくれるって言ったよね?」司は隣の莉音を一瞥し、私の手を振り払った。「いい加減にしろ。俺は今日入籍したんだ。お前に構ってる暇なんかないんだよ。そんなに結婚したいなら、ロビーで適当な奴を捕まえて結婚すればいいだろ?俺は気にしないから」真っ白な偽の婚姻届受理証明書が太陽を反射し、目が痛い。そんな私たちのやりとりを見ていた莉音が、突然腹を抱えて笑い出す。「司ってば、すごいんだけど。まさか、晴さんにそんなこと言うなんて。捨てられちゃったらどうするのよ?」すると司は莉音の腰を抱き寄せ、飄々と言った。「捨てられたらどうするって?俺以外に、こいつをもらってくれるやつなんていると思うか?」司はいつだって、こんな感じだった。自信に満ち、余裕に溢れている。なぜなら、どんなにひどいことをしても、私が最後には必ず許すと、司は知っているから。莉音も私を横目で見てから、小馬鹿にしたように笑う。「これでもまだ怒らないなんて。晴さん、本当に人がいいんだね」だが、莉音は知らない。私が怒らないのではなく、もう心が枯れ果ててしまっていることを。司と6年一緒にいて、入籍をお願いしたのは16回。1回目は、莉音が失恋した直後で、こんな時期に結婚の話なんて可哀想だ、と言って断られた。2回
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