詩音は庭の木々や花を見つめ、暫く沈黙した。風が吹き、彼女の銀色の髪がさらさらと揺れた。ついに、彼女は淡々と、月日を経た重みを込めた口調で答えた。「若い頃は、私も全力を注いで、一人の人を愛したことがあります。だがその後、私はその分の思いを全て技術の進歩に込めた。悔いはありません」そう言われ、記者は言葉に詰まった。まさかそんな返事が返ってくるとは思わなかったのだろう。戸惑いながら、記者は重ねて聞いた。「あの……今でも、その方を愛し続けていますか?」詩音は、少しだけ目を瞬かせた。ふと彼女は記者に目を向け、軽く笑みを浮かべた。それは、いまにも消えそうな儚い笑みだった。詩音は何も答えなかった。しばらく経って、返答がないと悟った記者は、そっと立ち上がり別れを告げた。記者を送り出すと、門が静かに閉まった。小さな庭には再び静寂が訪れた。詩音は籐椅子に座りしばらく物思いに耽ってから、ようやく重い腰を上げて屋内に戻った。書斎へと向かい、年季の入った木の机に歩み寄る。鍵を開け、引き出しの奥から小さな鉄の箱を取り出した。中には宝石や貴金属などない。ただ、古いレコーダーがあるだけだった。詩音はそのレコーダーを手に取り、再生ボタンを押す。一瞬の沈黙の後、男性の声が響いた。「詩音、今紛争地域の現場にいる。あれから10年だ。今日……また表彰された。だが、少しも嬉しくない。もしお前がニュースでこれを見たら、少しでも俺を誇らしく思ってくれるだろうか?」晴臣は自嘲気味に笑った。その声は、どんな泣き声よりも切なさを帯びていた。「俺は、最低な男だ。だけど、愛しているというのは嘘じゃない。詩音、心から愛してる」カチッ。小さな音がして、録音は途切れた。すると、書斎はふたたび静寂に包まれた。ただ窓の外の木々を揺らす風の音と、どこからか聞こえてくる笛の音が遠くから響いてくるだけだった。詩音は静かに腰掛けたまま、その冷たいレコーダーを大事そうに胸に抱いた。午後の日差しが飾り窓から差し込み、白い髪にさしかかり、使い込まれた机を通って、鉄の箱を白く照らした。その光の中に微かに舞い上がる埃がゆっくりと渦を巻いていた。詩音はしばらく動かずそこに固まっていた。ただその穏やかな瞳は、瞬きもせず窓
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