佐伯晴臣(さえき はるおみ)と結婚して6年。佐伯詩音(さえき しおん)は、一人でいることに慣れてしまっていた。一人で食事をし、一人で映画に行く。それだけならまだしも、急性虫垂炎で生死を彷徨うような痛みに襲われた時ですら、手術の手続きから術後の目覚めるまで、すべてを一人で乗り切ってきた。術後3日目の午後、病室のドアが開いた。晴臣が制服に身を包み、大股で入ってきた。「詩音、術後の経過はどうだ?そんなに痛むのか?手術という一大事を俺に知らせないで、一人でどうするつもりだった?万が一ということもあるだろ……」「別に、気にしないで」詩音は静かに言い放った。「一人でなんとかなるし。それより、杉原さんの電球を替えるのにお忙しいのでしょ?」晴臣の顔色が、さっと凍りついた。彼は、3日前の夕方、演習を締めくくり帰宅しようとした時、杉原怜奈(すぎはら れな)が涙ながら自分を待ち伏せしていたことを思い出したのだ。その時、怜奈は部屋の電球が切れて暗いから怖い、替えてほしいと縋り付いたのだ。何度も断ったが、怜奈が泣きじゃくるので、なんとかして早く終わらせて追い払いたかったから、つい引き受けてしまったのだ。交換中に怜奈が足を滑らせて前に倒れ込み、あろうことか彼女の唇が、晴臣の下半身のデリケートな位置をかすめてしまったのだ。そんな場面を、激痛で気を失いかけながら隣人に運ばれていく詩音が見ていたとは、彼にとって思いがけない展開だった。「詩音、誤解しないでくれ」晴臣は喉を上下させながら、かすれた声で言った。「あいつがしつこく頼んできたから断れなかったんだ……安心しろ、次どんなことを頼まれても、たとえ命を理由に縋ってきても、もう二度とあいつとは関わらない!」「そう」詩音は少しだけ唇を動かした。それ以上は何も言わなかった。だがその眼差しは「それができるの?」と語っているようだった。そんな目で見られて胸を刺されるような感覚を覚えた晴臣が言い訳をしようとした時、再び病室のドアが叩かれた。「晴臣?そこにいるの?」怜奈の声だ。晴臣の顔色が一気に曇り、扉を開けると、そこには案の定、青ざめた表情の怜奈が立っていた。「まだ何か用?」晴臣はドアの隙間に立ちふさがって言った。「用もないのに顔を出すな、と伝えたはずだ」そう言われ、怜奈はすぐさま目を赤くし
Read more