すると突然、甲高い声で笑い出し、呪文のようにぶつぶつと何かを呟き始めた。「朔弥は私のもの。あの女は私から何もかも奪った……」刑務官が異変に気づいた時、紗良は壁に頭を打ち付けており、その瞳からは光が消えていた。最終的に精神状態が不安定と診断され、精神病院へと移送された。紗良の余生は、薬と拘束具の中で過ごすことになるだろう。夢の中でさえ、朔弥に連れ去ってもらったあの結婚式が繰り返されていたのだから。時を同じくして、神谷グループにも半年かけた綻びが、徐々に広がっていった。朔弥は屋敷に引きこもり、琴音の写真を眺める毎日を送っていたので、山積みの書類には見向きもしなかった。そのずさんな経営により、神谷グループは倒産寸前まで追い込まれていた。純一が焦って状況を伝えても、朔弥はただ淡々とこう言うだけ。「俺名義の60%の株を琴音に移してくれ。手続きが終わったら、もう報告はいらないから」呆気に取られる純一に対し、朔弥は「償いだ」とだけ付け加えた。株式譲渡の書類がF国に届いた時、琴音は工房で新しいコレクションの画稿を描いていた。晴臣は書類を琴音に手渡し、琴音が最後のページをめくる様子を見守った。琴音は少し呆気に取られていた。なぜならそれが、朔弥からの株式譲渡の書類だったからだ。走り書きの朔弥のサインの横に、万年筆でこう添えられていた。【琴音、唯一お前にあげられるものだ】その一言を見て、二人はしばらく無言になった。琴音は書類を閉じ、冷静に晴臣へ言った。「弁護士に連絡してくれる?この株をすべてDV被害女性支援基金に寄付したいから」「わかった」晴臣は、琴音の手を優しく握り締め、指輪の輝くその薬指をそっと撫でる。すると、琴音が顔を上げ、はっきりとした瞳で言った。「もう全部過ぎたこと。前を見て生きなきゃ」朔弥から株を受け取った後、琴音は自らの工房を開いた。もちろん晴臣は、この琴音の決断を応援した。工房はF国の古い建築物を改装した場所で、庭には季節のチューリップが咲き乱れている。晴臣は自分のギャラリー用のオフィスを、琴音の工房の隣に移した。仕事をするのに便利だからと言いながら、実際には琴音がカルトンに向かう姿をドアの隙間からこっそりと見ていることが多かった。仕事に集中する横顔も、紙の上を走るペン
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