All Chapters of これから、私は夫を捨てデザイナーを目指す: Chapter 21 - Chapter 22

22 Chapters

第21話

すると突然、甲高い声で笑い出し、呪文のようにぶつぶつと何かを呟き始めた。「朔弥は私のもの。あの女は私から何もかも奪った……」刑務官が異変に気づいた時、紗良は壁に頭を打ち付けており、その瞳からは光が消えていた。最終的に精神状態が不安定と診断され、精神病院へと移送された。紗良の余生は、薬と拘束具の中で過ごすことになるだろう。夢の中でさえ、朔弥に連れ去ってもらったあの結婚式が繰り返されていたのだから。時を同じくして、神谷グループにも半年かけた綻びが、徐々に広がっていった。朔弥は屋敷に引きこもり、琴音の写真を眺める毎日を送っていたので、山積みの書類には見向きもしなかった。そのずさんな経営により、神谷グループは倒産寸前まで追い込まれていた。純一が焦って状況を伝えても、朔弥はただ淡々とこう言うだけ。「俺名義の60%の株を琴音に移してくれ。手続きが終わったら、もう報告はいらないから」呆気に取られる純一に対し、朔弥は「償いだ」とだけ付け加えた。株式譲渡の書類がF国に届いた時、琴音は工房で新しいコレクションの画稿を描いていた。晴臣は書類を琴音に手渡し、琴音が最後のページをめくる様子を見守った。琴音は少し呆気に取られていた。なぜならそれが、朔弥からの株式譲渡の書類だったからだ。走り書きの朔弥のサインの横に、万年筆でこう添えられていた。【琴音、唯一お前にあげられるものだ】その一言を見て、二人はしばらく無言になった。琴音は書類を閉じ、冷静に晴臣へ言った。「弁護士に連絡してくれる?この株をすべてDV被害女性支援基金に寄付したいから」「わかった」晴臣は、琴音の手を優しく握り締め、指輪の輝くその薬指をそっと撫でる。すると、琴音が顔を上げ、はっきりとした瞳で言った。「もう全部過ぎたこと。前を見て生きなきゃ」朔弥から株を受け取った後、琴音は自らの工房を開いた。もちろん晴臣は、この琴音の決断を応援した。工房はF国の古い建築物を改装した場所で、庭には季節のチューリップが咲き乱れている。晴臣は自分のギャラリー用のオフィスを、琴音の工房の隣に移した。仕事をするのに便利だからと言いながら、実際には琴音がカルトンに向かう姿をドアの隙間からこっそりと見ていることが多かった。仕事に集中する横顔も、紙の上を走るペン
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第22話

式場として広い庭を貸し切った。きらびやかなアーチなどはなく、友人たちが手作りしてくれた絨毯だけが敷かれていた。ありきたりな曲は流さず、ギタリストに軽快な曲を奏でてもらう。招待したのは、海外で出会った大切な友人20人ほど。琴音は自作のドレスを纏っていた。サテンのシンプルなドレスには蝶の羽を刺繍し、歩くたびに光の粒が流れるように反射する。彼女は祝福のなかを通り抜け、新郎を待った。仕立ての良いライトグレーのスーツを着た晴臣が近づいてくる。琴音はふと、ギャラリーで初めて会った時のことを思い出した。あの時の晴臣も、今と同じ優しい笑みを浮かべていた。晴臣が自分の心にそっと入り込んだのは、あの時だったのかもしれない。「緊張してる?」晴臣はそう言って立ち止まると、琴音の髪を優しく撫でた。首を横に振った琴音だったが、晴臣に指輪をはめてもらう時は、少し指先が震えた。オーロラの下でプロポーズの際に贈られた指輪よりずっとシンプルなものだったが、晴臣の手ではめてもらうことによって、かけがえのない意味を持つ気がする。二人の指輪が重なり、琴音はふと笑みをこぼした。「はい、誓います」はっきりとした自分の声が、琴音の耳に届く。その瞳には、どんな光よりも眩しい輝きが宿っていた。晴臣が身を屈めて琴音を抱き寄せる。そっと寄り添うその口づけは、温かく誠実なものだった。会場から拍手と笑い声が聞こえてくる。出席した友人が目元を拭いながらつぶやいた。「本当によかった。この日をずっと待ってたんだから」琴音は晴臣の腕の中で、彼の香りに包まれながら、ふと思った。かつて胸が張り裂けるほど苦しんだ日々も、その痛みのすべてが、この瞬間の幸せへとつながっていたのだと。暗闇を抜けたあとの日差しは、こんなにも暖かい。会うべき人と出会えたことが、こんなにも幸せだなんて。友人たちが式の様子をSNSへ投稿すると、思わぬ形で国内のメディアまでそのニュースが届いた。見出しには【ファッションデザイナー二宮琴音、海外で挙式。相手も有名なキュレーター】とあった。写真のなかで満開の笑みを浮かべる琴音。指先には、小さな指輪がキラキラと光っている。朔弥はその写真を新聞記事の中で見つけた。だれもいない静かな部屋で、片手にはタバコを挟み、やつれ果てた
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