Semua Bab フィギュアオタクで手に触れた物をなんでもすぐ壊す僕が異世界全民ロードサバイバルで人類の分断を修繕する: Bab 11 - Bab 20

35 Bab

第011話 取引開始②

 僕は数回、深呼吸を繰り返すと緊張で早鐘を打つ心臓を落ち着けた。  そして自分の不安と緊張が相手に見抜かれないよう、努めて平静を装い、戦友に話しかけた。「や、やあ。こんなところに車を停めて、どうしたの? 何かあったの?」 我ながら今の僕の笑顔はとてもぎこちない……。  鏡で顔を見ずともわかったが、僕は必死に作り笑いを続けた。 相手は四人チームモードで「《審判》」に挑む戦友たちのようで、僕のトラックが自分達の目の前で停車し、運転席から僕が顔を出して声を掛けると、とても警戒をしたが、それでも彼らは本当に困った状態にあるようで、藁にもすがる思いで僕の言葉に返事をしてくれた。「車のエネルギーブロックが……魔力石が尽きたんだ」 そう言われて僕は彼らの車を見る。  それはピカピカに磨かれた真紅のスポーツカーで、とてもカッコ良く、見るからに高級そうで、街で見かけたら「うわ。すごいスポーツカーが走っているぞ」と目を奪われる名車だった。 しかし、ここは異世界。  草原に道路が敷かれているとはいえ、整備が行き届いた綺麗なアスファルト道路ではない。  ひび割れ、雑草が至る所に生い茂り、瓦礫も散乱してデコボコとした悪路だった。  そうした道路を走行するには、彼らのスポーツカーは適していないことは誰の目にも明らかだった。「な、なあ、魔力石を持っていないか? 持っていたら何かと交換して欲しい」 彼らはそう訴えかけてきたが、交渉術でもなんでもなく、僕も魔力石は自分の分の一つしかないので「ごめん。持っていない。魔力石はとても貴重なようなんだ」と返事をした。 元々、望みのない質問だったとわかっていた彼らも、やはり失望の色を隠せなかった。「そ、それじゃあ、水と食料はどう? 私たち、スタート地点に戻ろうと思っているの。そこで別の車を探して乗り換えて、やり直そうと思っているのだけど、一度スタート地点に戻るとなると、手持ちの水と食料が乏しくて……」 彼らの作戦を聞いて、僕は哀れに思う。  恐らく、スタート地点を最後に出発したのは僕だが、彼らの言う
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-26
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第012話 取引開始③

「さっき黒鉄宝箱を開けたんだが、中にこんな物が入っていた。これならどうだ?」 彼らが差し出したのは三十センチサイズのマグライトだった。  マグライトは頑丈な手持ちライトで、光も強く、またボディもとても頑丈なので、国によっては警察組織の標準装備として採用され、暗闇を照らす用途はもちろん、打撃武器としても使用されているライトだった。「すごい。異世界でマグライトと出逢えるなんて……!」 僕は宝物を見せられた子供のように顔を輝かせる。「マグライトがあれば色々と「改装」が出来そうだ。ライトを光らせる機構を利用して照明弾や閃光弾を作ったり、着火装置として利用すればライターのようなものも作れるかも」 僕は「改装欲」が掻き立てられ、涎を垂らすような勢いでマグライトに喰い入る。 しかし、そこでハッと気づく。「駄目だ。これは取引の交渉だ。相手の提案する品に興味を示しては駄目だ。あくまで欲しくないものであるかのように振る舞わないと……」 僕は口元の涎を拭い、咳払いをして仕切りなおす。「た、確かにマグライトは異世界でサバイバルをするのにとても役立つアイテムだよね。でも僕は暗い洞窟を冒険したり、灯りのない建物の中を探索する予定はないから、今すぐ必要というアイテムではないかもね」 僕の興味がなさそうという演戯に、彼らは焦りの色を見せる。  僕は良心が痛んだが、上手く自分の本心を隠せたことに安堵した。「圧縮ビスケット一個となら交換してもいいよ。それでどう?」「圧縮ビスケット一個だとッ!?」 「足元を見やがってッ! いくら何でも買い叩き過ぎだろうッ!」 僕の提案に戦友は烈火の如く怒り出す。  焦燥し、苛立ち、余裕のない彼らがそうして感情を露わにするのはよくわかる。  そもそも僕たちは望んで《天使》の《審判》に挑んでいるわけではないのだ。  こんな命を賭けた異世界でのサバイバルなんて、誰もやりたいなんて思っていない。  そんな心境で、相手(=僕)に不利益な取引を提案されたら、誰だって鬱積した感情を爆発させてしまう。「そう……。かつての僕のように……」 僕も前世、そして別世界で上位のスキルではなく、「改装」というDランクスキルしか持たず、周囲から無能と蔑まれ、絶えず足元を見られて利用されていた。  僕も出来る
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-27
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第013話 取引開始④

「マグライトと圧縮ビスケット一個と交換。この条件が呑めないなら交渉は決裂だね」 僕は、冷たく言い放つ。  良心がズキズキと痛んだが、僕は懸命に頑張った。「ま、まってッ! 黒鉄宝箱には他にも色々入っていたの! 他にも欲しい物がないか見て頂戴ッ!」 戦友の一人がそう言って宝箱の中身を披露する。「おいッ! やめろッ! 無駄だってッ!」 「そうさ。だって宝箱の中身はこのマグライト以外はガラクタばかりだったじゃないか……」 戦友たちは望み薄といった様子で最初から諦めていた。  それもそのはず。  彼らが見せてくれた宝箱の中身は、僕が開けた黒鉄宝箱同様、本当にガラクタや鉄クズばかりだったからだ。「但し、それは「彼らにとっては」だけどね……」 僕は彼らが見せてくれたガラクタに価値を見出す。  どれも僕の「改装」のスキルがあれば修理や加工の材料として重宝する物ばかりだった。 僕はまたしても物欲しそうに顔を緩めそうになるが、寸前で興味のない様子を保った。「だ、駄目だよ、どれも使えない物ばかりじゃないか。そ、そんなガラクタいらないよ」 僕がそう拒絶の言葉を述べると、もともと望みはないとわかっていた戦友たちも落胆の色を隠せなかった。 僕の良心の痛みは最高潮に達してしまう。「困っている彼らを利用し……自分だけ生き残ろうとするなんて……」 僕は爪が手に喰い込む程、強く拳を握った。  そして何とか前世、さらに別世界で蔑まされ、利用され、捨てられ、路頭に迷い、命を落とした自分を懸命に思い出し、何とか自分を貫こうとした。 ───貫こうとしたが。 ───貫こうとしたが……。 ───…………。 ───……駄目だった。 ついに僕は良心の呵責に耐えきれず、彼らに提案の譲歩をしてしまう。「ま、まあ、でもそのガラクタは量が凄く多いし、マグライトとそのガラクタを全部くれるなら、圧縮ビスケットにペットボトル入りの飲料水一本をつけて交換してもいいけど、ど、どう……?」 僕がそう提案すると、戦友たちはパッと顔を輝かせる。「ほ、本当か?」 「ほ、本当にいいのか?」「ああ、かまわないよ。それじゃあ取引成功だね」 僕と戦友はステータスウィンドウを開き「取引システム」の項目をタップする。  するとそこには自分の所持品のリストが表示されていた。「なるほど……。こ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-28
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第014話 取引の成功

「と、取引成功だね」 僕は異世界で初めての取引を成功させてホッと安堵の溜息を漏らす。「あ、ありがとう。本当にありがとう……」 戦友の一人が心の底から───嘘偽りのない本心から僕に感謝の言葉を述べてくれる。 僕はまたもや良心が痛み、申し訳ないと思ってしまう。「マグライトは純正の正規品で、現実世界で買うとすれば、かなり高額の品だ。ガラクタも彼らにとっては不用品でも、僕にとっては改造や修理に役立つ貴重な資源ばかり。それを僅かなビスケットと水だけで交換させるなんて……」 僕は自分の事が嫌いになりそうだった……。  僕は眉間に深い皺を刻んだが、それでもなんとか表情を取り繕う。「ま、まあ、君たちも大変そうだし、困ったときはお互い様って言うからね。ま、また、何か交換できる物があったら取引しよう」 僕にお礼を述べてくれた戦友は何度も何度も僕に頭を下げて、仲間と一緒に元来た道をスタート地点に向かって歩き出す。  そうして何度もお礼を言われる度に、僕の良心は鋭い針で刺されるようにチクチクと痛んだ。「ま、待ってッ! こ、これもあげるよッ!」 僕はトラックを降りて彼らに駆け寄ると、廃材の鉄板を折り曲げて作ったお手製の「スコップ」を彼らに渡す。「地面を深く掘って、湿った土の層が出てきたら、その土を服で包んで吊るすんだ。そうすると土に含まれている水分が滴って、僅かだけど水が得られるよ」 戦友たちは顔を見合わせて驚いた。「そ、そうなのか?」 「お前、凄いな。そんなことを知っているなんて……」「僕の両親が最初の《審判》の生還者で、色々とサバイバル術を教えて貰ったからだよ」 とは僕は言わず───。「い、異世界に来る前に政府の授業を受けただろ? その中で説明があった技だよ」 戦友はまたも顔を見合わせたが、真面目に授業を受けていなかった自分たちなら、そうした情報を見落としてしまうこともあるだろうと納得したようだった。「あ……。でも、私たち、もうあなたと取引できる品物を持っていないわ……」「え? あ、いや、いいんだよ。このスコップはタダであげる。僕のほんの気持ちさ」 僕がタダでスコップを差し出すことに、戦友はとても驚いたようだったが、遠慮なくスコップを受け取ると、僕に手を振って「ありがとう~! 新しい車に乗り換えて、すぐにあなたを追いかけるから
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-29
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第015話 取引の失敗

 僕は自分の目を疑う。「こ、このログは……!」 僕は何度も何度も何度もログを読み返す。  そしてその度に、これは今、僕が行った取引で、自分の事を嘲笑うログである事を痛感する。 燃え上がるような怒り。  同時に、裏切られた事への悲しみ。  そして騙されていたのは自分だとわかった絶望。 僕は身体が震え、身動きが取れなくなった。「お、落ち着け……。落ち着くんだ……」 前世、そして別世界でも同様に他人に裏切られ、利用され、騙され、蔑まされた心の傷が大いに疼いた。「まただ……。またこうして僕は相手に好き勝手に使われてしまうんだ……」 涙が出そうになるほどの感情の渦だった。  僕は長い間その濁流に流される。  しかし、それは体感時間で、実時間はほんの一瞬だったかもしれない。 気が付くと怒り───。 僕に残ったのは怒りだけだった。「せ、せっかく貴重な水と食料を渡して、スコップまでタダであげたのに……」 自分は親切が踏みにじられた事を知り、さらに怒りが爆発した。「そういうことならこっちも遠慮しないよ」 僕は鼻息も荒くトラックから飛び出すと、戦友たちが乗り捨てたスポーツカーに向かう。「この車はもういらないんだよね。新しい車をスタート地点に探しに行ったんだから。この車は乗り捨てたってことだよね」 僕は魔力石のエネルギー切れで、路傍に停め置かれた彼らのスポーツカーを確認する。「だったらこの車は僕が貰うよ。エネルギー切れだって構わない。車を修理したり改造したりする「材料」として見れば、小さな蟻が大きな角砂糖を見つけたかのような宝物と一緒だからね!」 僕はトラックの「アオリ」を降ろすと、板を渡してスロープを作り、スポーツカーをトラックの荷台に運び乗せた。  亀が亀を背負うような状態になってしまったが、僕は満足だった。 少しは彼らに「仕返しができた」というような思い。  そしてもちろん、貴重な「材料」を手に入れた満足感。 少しは気持ちを持ち直し、怒りが収まった僕は、今度こそトラックを走らせる。 そして僕は「同級審判全体チャンネル」も確認する。「ガラクタを水と食料と交換してくれるだって?www」 「いいね! 交換してくれよ! 黒鉄宝箱を開けたんだが本当にガラクタしか入ってなくて困っていたんだ!www」 「おーい。どこにいるんだー。ガ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-31
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第016話 取引の再開と再会

「(お、おい。本当に交換する気だぞ)」 「(あ、ああ。本当だな。こんなガラクタを水と食料と交換してくれるぞ)」 僕は何人目かの戦友と「取引」をしていた。  彼らは黒鉄宝箱を三つ獲得していて、かなりの量の「資源」を持っていた。  但し、彼らはその「資源」をガラクタだと思い、持て余していたが───。「じゃあ、取引成立だね。僕はペットボトル入り飲料水一本と、圧縮ビスケットを三個渡すよ」 僕はステータスウィンドウを開いて取引で渡す品を選択する。  相手も同様に取引する品を選択し、僕たちは物資のやり取りを行った。「な、なあ、一つ聞いていいか」 取引終了後、戦友の一人が僕に尋ねてくる。「何? 僕も先を急ぎたいから手短にお願いね」 僕は質問を了承するが、短時間で終わるよう戦友にお願いする。「わかった。じゃあ、これだけ教えてくれ。どうしてそんなガラクタを集めているんだ?」 「そ、そうだよ。そんなガラクタ。何の役にも立たないだろ? それを貴重な水と食料とわざわざ交換するなんて、なんでなんだ?」 戦友たちがそう疑問に思うのはもっともだった。  因みにこう聞かれたのは今回が初めてじゃない。  僕は、その前の取引でも、その前の前の取引でも戦友から同じ事を尋ねられた。  そして僕はそう尋ねられた際、嘘をついたり、真実を隠したりすることはしなかった。  ありのままの事を正直に彼らに伝えていた。「僕のスキルは「改装」なんだ。一見するとガラクタでも、それらを「資源」として車を修理したり、簡単な装置を作ったりすることができるんだ。だからこれらの「物資」は君たちにとってはガラクタでも、僕にとっては貴重な「資源」なんだ」 僕がそう説明すると、戦友たちは「そ、そうなのか……」と驚いたような、信じられないといったような、そんな反応で納得してくれた。「そんなに貴重な資源というなら、もっと高値で交換してくれよ」 僕は後ろから声を掛けられ、驚いて振り向く。  どうやらまた別の戦友が僕と取引をしにやってきたようだったが、僕はその相手を見て驚いた。「ぐ、軍毅……!」 それは軍毅だった。  そして軍毅がいるということは───。「ま、傑くん……」 軍毅の背後に隠れるように従っていた 詩華が顔を出す。「|同級審判全体チャンネル《
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-01
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第017話 詩華と傑の出会い①

 この世界には同時多発的に多元宇宙が存在している。  それは僕たちの何気ない選択肢の数だけ広がり、今も無限に増え続けている。  そのうちの一つ、今の多元宇宙の僕は熱心なアイドルオタクだった。  子供の頃に見たグループアイドルの輝きに魅せられ、絵に描いたような「信者」に成長していた。  そんな僕には一番に推しているアイドルグループがあった。  そして詩華は、そのグループの不動のセンターだった。 あれはセラフィムがこの世界に出現し、人類に「《初級文明審判》」を科し、「《運命の2d6》」を振って僕たちが十六歳の若者全員が「《審判》」へ挑むことになって間もない頃のライブでの出来事だった。「こんな時(=《天使》が人類に《審判》を科した)でも、私たちのライブに来てくれてありがとう。感謝の気持ちでいっぱいで、そんな時に、こんなお知らせをしないといけないことが本当に辛いのだけど……」 ライブの最後のスピーチで、詩華がそう前置きをする。  会場に集まったファンは、詩華がこれから話す「お知らせ」が何か気になって、ざわざわとどよめく。  もちろん、僕も気になってざわついた。「先日、《天使》が《運命の2d6》を振って出た目は「一」と「六」───つまり十六歳。十六歳の若者全員が異世界で《天使》が強いる《審判》に挑まなくてはなりません。そして私も───十六歳の詩華も、その《審判》に行かなくてはなりません。だから私たちグループの活動は今日からしばらく休止します」 会場は割れんばかりの怒声に包まれた。「いやだッ! 詩華ッ! 《審判》になんて行かないでくれッ! 「休止するなッ! こんな時だからこそ最後まで俺たち(=信者)に夢と希望を届け続けてくれッ! それがアイドルの仕事じゃないのかッ!?」 「詩華ッ! 負けるなッ! 必ず《審判》に打ち勝ち、また戻ってライブをしてくれッ!」 「何を言っているんだッ! 前回の《審判》で異世界に転移させられた三十五歳は誰一人として帰ってこなかったんだぞッ! 全員、異世界
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-03
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第018話 詩華と傑の出会い②

 ライブ会場は言い争う信者、殴り合いの喧嘩をする信者、ステージに上がり、詩華たちを追いかけようとする信者と、そんな信者を押し留める警備員とのもみ合い、他にも、それとは別に、とにかく暴れ回り、手当たり次第、施設や機材を壊して回る暴徒のような信者、最後に、そんな大混乱の中で、詩歌たちの歌を大熱唱して詩歌に声援を送る信者などで地獄絵図となった。「この地獄絵図は、人類が《天使》に抑圧され、望まない《審判》という試練を科せられ、抵抗も歯向かうこともできず、言いなりとなっている事への鬱積した不満と怒りが形を変えて爆発し、ちょっとしたきっかけで全員の感情が露わとなった結果、引き起こされているんだ……」 僕は、目の前に広がる惨状を、どこか高い所から俯瞰して眺めているかのような客観視をしていて、分かり易く言えば「他人事」のように捉えていた。  しかし、信者たちの行為がエスカレートし、ついに火の手が上がってしまうと、そんな事を言ってもいられず、僕は大勢の信者が逃げ出す流れに呑まれるように会場から押し流される。  そんな大混乱の中、僕はふと、関係者に匿われるように裏口から避難する詩華の姿を視界の端に捉えた。「殆どの信者は逃げ出すのに必死で、詩華に気づいていない……」 その事に気づいた僕は、考えるでもなく、導かれるように詩華の後を追う。 会場の暗く、狭い通路は関係者だけが使用できる「裏道」だった。そんな秘密の通路を進み、僕は詩華の後を追う。  詩華たちは途中、階段がある扉を通り、地下へと向かったようだった。  そこには出演者や、一部の関係者だけが入れる駐車場があって、そこから車で避難すると察した僕は、さらに詩華の後を追った。  行き着いた先は、やはり駐車場だった。  そして僕が見渡すまでもなく、詩華たちの姿はすぐに見つけることができた。  何故なら、詩華たちは駐車させた車のトラブルで立往生していたからだ。「くそうッ! しまったッ! 車のキーがないッ! 楽屋に置いてきてしまったッ!」 おそらく詩華のマネージャーだろう関係者が、悔しがって車のドアを拳で叩く。「ゲートのシャッターも上がらないッ! 関係者が持つカードキ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-04
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第019話 詩華と傑の出会い③

「こんな時だから───こんな時だからこそライブを行いたかったんですッ!」 詩華の一喝で、パニックになりそうだった関係者一堂は、ピタリと動きを止める。「人類が危機に直面し、人々が明日に不安を感じ、希望を持てない今だからこそ、私たち「偶像」が皆さんを照らす灯りとなってステージに立たなければならないと思ったんですッ!」 詩華は目に涙を浮かべ、健気にも勇気を振り絞ってそう訴えた。 詩華の言葉に、応えを返す者はこの場にいなかった。  関係者は全員、俯き、何かを考えさせられている。 しかし、彼らも、いつまでもそうしてばかりもいられなかった。  別の関係者が駐車場に飛び込んでくると「ファンの一部がこっちに向かって来るぞッ!」と悲鳴を上げた。 関係者たちは、また慌てだした。「皆さん、スマホを出してください」 僕は静かにお願いをする。  物陰から様子を伺っていた僕は、彼らの前に出るつもりはなかった。  こうして彼らの前に姿を現わし、声を掛けたのは頭で考えた行動ではなく、身体が勝手に反応した行為だった。「あ、あなたは……?」 詩華は突然現れた僕に驚く。  関係者たちも緊張の色が走り、僕と詩華の間に割って入って、彼女を庇った。「スマホには近距離無線通信技術 が標準で装備されています。車のキーを置いたという楽屋があるのは、丁度、この駐車場の真上ですよね? 上手くいくかわかりませんが、車のキーの信号を近距離無線通信技術 で車まで繋ぐするんです」 意味が分からないと言った様子の関係者たちだったが、詩華の「言う通りにしてみましょう」という一言で、全員が持っているスマホを取り出すと、近距離無線通信機能 をオンにする。「うまく行くの?」 詩華が不安そうに僕に尋ねる。「どうだろう……。因みにこの方法は、百パーセント犯罪だから絶対に真似しないでね」 僕がそう言うと、詩華は「え?」と声を上げて目を丸くした。「(か、かわいい……)」 そんな詩華の反応に僕は目を奪われる。  そしてよくよく考えれば自分の最推しのアイドルとこんな間近で、やり取りしている事に驚く。「握手会などファンとの交流イベントだと、握手して一言だけ言葉を交わすのに数万円もするのに……」 僕は、
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-05
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第020話 詩華と傑の出会い④

「ついに僕も罪を犯してしまったか……」 僕は上手く車のロックを解除し、エンジンを始動させた事に歓び、自虐的に自分を嘲笑する。「す、凄い……。あなた、本当に凄いのね……」 詩華がキラキラした羨望の眼差しで僕を見てくれる。  僕は心臓をハンマーで殴られたかのような衝撃を覚えた。「自分の最推しのアイドルが僕を真正面から見つめてくれるなんて……」 ライブでは、チラッとでも彼女の目線が自分に向いただけで「今、詩華が俺を見てくれたッ!」「違うッ! お前じゃないッ! オレを見たんだッ!」「そんなわけないだろうッ! 詩華は僕を見たんだッ!」と周囲の信者が、自意識を過剰に反応させて「自分こそが詩華に目線を貰った信者である」という栄を巡って争い合うが、今の僕はそれとは比べ物にならない幸運に浴していた。 しかし、またしても僕は、そんな幸福な一時に現を抜かしている場合ではなかった。  車のエンジンは始動したが、駐車場のゲートは閉まったままで、このままでは駐車場から出る事ができなかったからだ。 僕は駐車場のゲートに向かう。  そして操作パネルの前で四苦八苦している関係者を押し退け、操作パネルのボタンを「同時押し」したり「ボタンを短く三回連打したり」「長押し」したり「同時押しで短く二回連打したり」する。「な、何をしているの……?」 詩華が心配そうに僕の行為を覗き込む。「えっと……。これは火事や事件など、緊急事態の際に、救急隊員や警察官が、キーを持ってなくてもゲートを開錠できる裏技で、犯罪かどうかはわからないけど、たぶん一般人がやってはいけない行為だと思うので、絶対に真似しないで欲しいんだけど───」 そう説明しつつ、僕が他の「裏技」を試していると、どの「裏技」が正解だったかはわかならいが、駐車場のゲートが開いた。「す、凄い……! あなたって本当に何者なの? あ、まさか、現代の大泥棒・怪盗ルパンの子孫だったりするの? そうね……三世の三世の三世で九代目とか?」 詩華が悪戯っぽく笑って見せる。  僕はその笑顔にまた心臓を鷲掴みにされて、息の根を止められたかとを思う程、心臓を射抜かれた。「ち、違うよ。僕はドロボーでも犯罪者でもないよ。たまたま機械いじりや車の整備が好きで、知識があるだけさ。君と同じで、もうすぐ《|天使《
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-06
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