「傑くん! 乗って!」 詩華が乗り込んだ車から僕に手を差し伸べる。「え──────?」 僕は詩華と一緒に車に乗り込むつもりはなかった。 詩華を逃がして、それで終わりだと思っていたのだ。「でも……」 僕は戸惑い、身体が硬直する。「いいから早くッ! ここにいたら傑くんも危険よッ!」 詩華にそう言われ、僕は考えるより先に身体が動く。 背後で雪崩を打って押し寄せる信者の怒声とも奇声ともとれる雄叫びが間近に迫り、身の危険を感じたということもあるが、とにかく僕は詩華と一緒に車に乗り込み、駐車場から急発進した。「……な、なんだこの状況……」 急に僕は自分の今の状況に気づき、ドギマギしてしまう。「じ、自分の最推しのアイドルと、同じ車に乗っているなんて……」 今にも僕は白目を剥いて気絶してしまいそうだった。 しかし、こんな夢みたいな一時の一分一秒だって無駄にすることはできないと自分を鼓舞し、必死に意識を保ち続けた。「で、でも、これは本当に現実? 今、僕の隣にいるのは国民的アイドルグループの不動のセンター・詩華こと「シーカ」なの?」 僕は横目で詩華を盗み見る。 夢や幻じゃなかった。 僕の座る座席の隣、手の届く範囲、同じ社内に詩華がいた。 僕は詩華に視線が釘付けになる。 しかし、その時、僕はある事に気が付いた。「……震えている?」 僕は詩華が硬く手を握り、身体を震わせている事に気が付いた。「ご、ごめんなさい。す、凄く怖くて……」 僕は意外に思う。 何万人という信者の前で堂々と歌を披露し、会場全体を魅了する詩華が、こんなにも震え、恐怖に怯えるなんて……。「……そうだよ。詩華も僕と同じ十六歳。アイドルじゃなかったら普通の女の子だったはずなんだから……」 僕は思わず手を伸ばし、詩華の手をそっと包む。「確かに怖かったね。でも詩華はやっぱり凄いよ。さっきの「こんな時だからこそライブを行いたかった」という詩華の信念。胸を打たれたよ。人類が危機に直面し、人々が明日に不安を感じ、希望を持てない今だからこそ、自分達「偶像」が人々を照らす灯りになりたいなんて、とても僕と同じ十六歳の女の子の台詞とは思えなかったね」 僕は「自分じゃ一生かかっても絶対に
Terakhir Diperbarui : 2026-08-07 Baca selengkapnya