浩美の視線に気づいたのか、子供は「あっ」と声を上げた。 次の瞬間、くるりと背を向け、浩美たちとは反対の方向へ一目散に駆け出していく。「おい、ちょっと待てっ!」浩美はその背中へ向かって叫んだ。 そして、まだ自分の肩にもたれかかっていた直樹の手を取ると、そのまま強引に走り出す。「ちょっ、浩美!? 何だよ!」 「いいからっ! ついてこい!」 「わけわかんないんだけど!」戸惑いながらも、直樹は引かれるまま浩美の背中を追った。 前方では、白い服を着た子供が木立の合間を縫うように駆けていく。 その姿を見た瞬間、直樹は息を呑んだ。──これは……。どこかで見た。 いや、何度も見た。 夢の中で。白い影を追って、森の奥へ奥へと走り続ける。 あの夢と、まるで同じではないか。妙な既視感に眩暈を覚えた、その時だ。 前を走る子供が、こちらを窺うように振り返った。その横顔を見て、直樹の足が止まりかける。「……直樹?」そんなはずはない。 あれは、自分だ。 十年前の──幼い頃の自分。直樹は必死にそう否定しようとした。 しかし、前を走っていた浩美まで振り返り、困惑した顔で言う。「やっぱり、あれ……直樹だよな。昔の」 「……」何が何だかわからなくなった。 頭がおかしくなりそうだ。 いや、もしかすると最初からおかしかったのかもしれない。混乱する思考に足まで引きずられ、直樹の走る速度が落ちる。 その間にも、子供の背中はどんどん遠ざかっていった。少年の小さな身体は、木の根や垂れ下がった枝をひらりひらりと躱し、迷う様子もなく森の奥へ入っていく。「クソッ、速いな」浩美が悔しそうに舌打ちした。 だが次の瞬間には、持ち前の切り替えの早さで口元を吊り上げる。「ヨッシャ! 眠気覚ましに、いっちょ本気でも出すか!」
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