「お前、何言ってんだ」浩美の声に険が混じる。「お前の方はどうなんだよ。さっき〝神父様〟に言ってたよな、記憶がないって。それが本当なら、お前が直樹だって根拠はますます怪しくなる」浩美は運転席に座る男を鋭く睨みつけた。「記憶がないのを俺に黙っていたのは、わざとか?」 「言いがかりだよ。全部忘れた訳じゃない。所々は覚えてる」浩美は唇を噛みしめて、目の前の男を凝視する。「その記憶だって、本当にお前自身のものかわからないだろ。お前ら兄弟はいつも一緒だった。同じものを見て、同じ話を聞いて……」わずかに開いた窓から乾いた風が吹き込み、浩美の髪を巻き上げた。「お前が直樹のことを知ってるからって、本当に直樹だとは言い切れない。なぁ、お前、本当はどっちなんだよっ……!」耐えきれなくなったように、浩美は両手で顔を覆った。 かすれた吐息が、指の間から漏れる。直樹はそんな幼なじみを横目で見やった。「……〝神父様〟の見立てはどうだったの?」直樹の冷えた声が車内に落ちる。「〝神父様〟は……」浩美は息をつき、絞り出すように言った。「お前が直樹だって、すっかり信じてたよ。あの人は昔から、お前ら兄弟には甘かったからな」ふと浩美はある異変に気が付いた。 窓の外へ視線を向け、眉をひそめる。「……おい」道路脇を流れていく景色は、いつの間にか密集した木々に変わっていた。「どこ行くんだ? コテージ、とっくに通り過ぎてるぞ」直樹は何も答えず、ただハンドルを握り続ける。 その腕に落ちる木漏れ日が濃さを増していく。「おい、聞いてんのか」浩美は直樹の腕を掴んだ。 だが相手は微動だにせず、短く言った。「森だよ」※森へ続く林道の終点には、大きな空き地がある。 バブル期に別荘地として開発されかけ、そのまま放棄された土地だ。「へぇ
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