ある日、午後の稽古が終わり片付けをしていると「桐崎殿」という言葉が聞こえてきた。 門弟達は桐崎のことは師匠と呼ぶから桐崎殿というのは流のことだ。 どうやら流の話をしているらしい。「山崎殿、桐崎殿には水緒さんという許嫁が……」「ちょっと遊ぶくらいで大袈裟な」 山崎と呼ばれた男は小森の言葉を遮ってそう言うと流の方へやってきた。「桐崎殿、これから皆で深川の見世へ繰り出すのだが一緒に行かないか?」「店? 何の?」「岡場所です」 小森が囁いた。「水緒と何か関係あるのか?」「普通の女性はそう言うのを嫌がりますから、水緒さんもそうではないかと……」「俺は水緒の迎えがあるから」 流はそう言って道場を後にした。「今から水緒殿の尻に敷かれてるようでは……」 山崎が小声で仲間に囁いた。 流は人間には聞こえない音でも聞こえるから山崎の言葉も耳に届いていたが、別に他人に何を言われようと気にならない。 水茶屋へ向かっていると途中にあの鬼の女が立っていた。 確か、つねとか名乗っていたような気がする。 流が無視して通り過ぎると並んで歩き出した。「消えろと言ったはずだ」「だからあの時ちゃんと消えたじゃないか。ずっと消えてろとは言われなかったからね」「じゃあ、ずっと消えてろ」「もう礼はした。あんたの指図は受けないよ。ねぇ、あんたの名前は?」 流はそれ以上何も言わずに足を早めた。 つねが足早に随いてくる。「あの女……」 つねが言いかけた途端、流は足を止めて振り返った。「水緒に手を出したらお前を殺す」 流の殺気立った様子に、つねが思わず後ろに後退った。「べ、別に、手を出すとは言ってないだろ。ただなんで人間なんかと連んでんのかと思ってさ」「
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