「じゃあ、お話ししようか」 水緒が言った。 流は水緒に会うまでずっと一人だったから話すのは得意ではない。 だが水緒は相手がいなかったから黙っていただけのようで話をするのは好きらしかった。 流は口下手で、あまりちゃんとした返事が出来なかったが、水緒は気にした様子もなく喋っている。 流も返事こそ碌に出来ないが水緒の声を聞いているのと楽しかった。「あのおじさん、物知りだね」「大人は皆そうだろ」「でも、あのおじさん、ちゃんと教えてくれるよ」 確かに水緒の村の大人達は水緒を働かせるだけで、それ以外はほとんど口を利いてなかったようだ。 遠からず生贄として差し出すことが分かっていたから必要以上に関わらないようにしていたのかもしれない。「ごめんよ」 外から声が掛かり障子が開いた。 女将と呼ばれる女が入ってきた。「桐崎様に頼まれてね。二人の髪を結いに来たよ」「髪を結う?」 水緒が首を傾げた。 女将はまず水緒の後ろに座ると髪を梳かし始めた。「痛た……」 櫛が髪に引っ掛かる度に水緒が顔を顰めた。「随分、長いこと髪を梳かしてなかったんだね」 女将はそう言って水緒の髪を綺麗に梳かすと、水緒の髪を結った。「ほら、見違えるほどべっぴんさんになったよ」「そ、そうかな」 水緒が照れたように俯いた。「これはこの妻籠宿特産の櫛だよ。これで毎日髪を梳かすといいよ」 女将は水緒に櫛を渡した。「おばさん、有難う」 水緒は嬉しそうに櫛を胸に抱いた。「次は坊やだね」 女将は流の後ろに回った。 水緒以外の人間に背後に回られるのは嫌だったが、水緒が髪を結っているのに自分が結わないわけにもいかなそうだったので黙ってやらせた。 女将は二人の髪を結い終えると部屋を出ていった。 二人が桐崎のことや、江戸のこと、宿場町のことなどを話していると、桐崎が布の包み――風呂敷包みを持って帰ってきた。「おじさん、お帰りなさい」「おお、戻ったぞ」「おじさん、これね、ここのおばさんがくれたの」 水緒はそう言って女将から貰った櫛を見せた。「良かったな。それがしも二人に土産を買ってきたぞ」「土産って何? 買ってきたって言うのは?」〝土産〟という言葉も〝買う〟という言葉も知らない流と水緒に、
최신 업데이트 : 2026-05-30 더 보기