桐崎と小川は騒々しい店に入っていた。 水緒が働いている店の客もお喋りはしているがここまでの喧噪ではない。 こんなうるさい店によく平気で入れるものだ。「いらっしゃい」 そう言って女が近付いてきた。 離れた場所からでもキツい臭いがする。「あら、こちらは初めて見……」 女が隣に座ろうとする前に流は椅子から立ち上がって後ろに飛び退いた。 「流、どうした」 桐崎と小川が目を丸くする。 「臭い」 「え……」 「何か臭うか?」 桐崎達と女が臭いを嗅ぐように辺りを見回す。「その女、すごく臭い」 流がそう言った瞬間、桐崎と小川が愕然とした表情になり、女は目を吊り上げて物凄い形相になった。 「ここはうるさいし、臭い。俺は帰る」 流はそう言うと呆気に取られている桐崎達を残して店を出た。 店を後にして歩き出してから帰り道が分からない事に気付いた。 記憶を失う前は道を知っていたのだろうが江戸に来る前のことは忘れてしまったのだから道も分からない。 道も水緒に教わった方がいいようだ。 散々迷って家に辿り着いたのは大分遅くなってからだった。 戸を開けると、奥から足音が近付いてきた。「お帰りなさい」 「え、起きてた待ってのか? 師匠が先に寝てろって言ってただろ」 待っていると分かっていたらあんな店には行かなかったのに。 「あ、もしかしてお店に寄ってきた?」 「分かるのか? もしかしていつも行ってたのか?」 「そうじゃなくて、白粉の匂いがするから」 「白粉?」 流が首を傾げると水緒が化粧と言って顔を白くしたり唇や頬を赤くしたりするために色を塗ることだと教えてくれた。 やけに白い顔をしていると思ったら、あれは白い粉を塗り付けていたらしい。 あの白い粉が臭いの元だったようだ。「あんな臭いもの、よく付けられるな」 流が顔を顰めると、
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