結婚式で、夫の秘書・西野若菜(にしの わかな)が新郎新婦の写真を間違えて映し出してしまった。スクリーンに映し出されたのは、私・柴田蛍(しばた ほたる)とのウェディングフォトではなく、夫・柴田礼司(しばた れいじ)と若菜が伝統的な婚礼衣装で手を取り合い、見つめ合っている、とても幸せそうな姿だった。会場が騒然となった。ミスをした若菜が泣きじゃくりながら、式を延期してほしいと私に懇願する。礼司は慌てる様子もなく、低く落ち着いた声でこう耳打ちした。「みんなもう来てるんだから、今さら延期なんてしたら面目丸つぶれだし、縁起も悪い。それに、どうせ誰も花嫁の顔なんて詳しく知らないだろう。だったら、とりあえず若菜に代理で式に出てもらえばいい」参列した友人たちは、礼司のそんな身勝手な発言を聞いて、私が怒り狂うのではないかと唖然としていた。しかし私は淡々と頷き、その提案に乗ることにした。私の冷静さに気を良くした礼司は、どうせ入籍も済ませているんだからと、いずれ日を改めてちゃんと挙式してやる、と言い残した。だが、彼は決定的な勘違いをしている。他の女を花嫁の代役に立てたあの瞬間、私の中ではすでに離婚の決意が固まっていたということに。ベールを外し、それを礼司の手に託すと、彼と周囲の気まずそうな視線などお構いなしに、私は式場を後にした。式場の外に出るまで、礼司が私を追いかけてくることはなかった。背後からは歓声が沸き起こり、礼司と若菜は人だかりの中心で壇上に上がっていた。それがミスではないと、私は知っている。あれは、若菜からの挑発だ。あいにく、礼司にはその策略が見抜けない。あるいは、気づいていてもあえて泳がせているのだろう。昔の私なら傷ついていたかもしれないが、今は驚くほど穏やかな気持ちだった。私は帰宅し、何も考えずに寝直した。礼司は面倒なことを嫌うため、結婚式の準備から何まで、すべて私一人で背負い込んできた。間違いのない式にしようと、最近は仕事を終えて帰宅するや否や、ホテルの選定、招待状のチェック、引き出物選びと走り回っていた。昨日は最終確認のために未明までリハーサルを繰り返し、そのせいで今も胸が痛む。今となっては、全てが無駄に思える。そんなことなら、私も最初から手を抜いておけばよかった。うとうとしている
続きを読む