私は呆れて笑うしかなく、そのお金を彼に送り返した。するとほどなくして、私たちはまた元の鞘に収まった。これで埋め合わせでもしているつもりなのだろうか?礼司は忘れている。こんな一方的な行為が、傷つけられた側の心に響くはずなどないことを。ただ彼自身が「償った」と思って安心したいだけなのだ。私は迷わず再度返金操作を行ったが、送信エラーが表示された。礼司の口座はすでに解約されていた。どう対処したものかと悩んでいたところに百香から連絡が入った。百香としばらく他愛ない話をしているうちに時間も遅くなり、その件はいつの間にか頭の隅に追いやられていた。数日後、会社も軌道に乗り順調だと思っていた矢先のことだった。出社して早々、私には会社の入り口で従業員たちが騒いでいるのが目に入った。「どうしたの?」私は戸惑いながら彼らの方へ歩み寄った。従業員たちが私に気づいて道を空ける。その先にいたのは、警察官が数人と、若菜、そして礼司だった。私と目が合うと、礼司はいたたまれない様子で視線をそらした。「宮城(柴田蛍の旧姓)さんですね?通報を受けました。業務上横領および機密情報持ち出しの疑いがあるため、捜査にご協力ください」警察が差し出してきた書類には、振込記録が記されていた。「こちらはあなたの口座で間違いありませんか?」資料に目を落とすと、その金額は少し前に礼司が私に振り込んできた額と全く同じだった。ようやく合点がいった。礼司の真の狙いはこれだったのだ。「蛍さん、あまりにもひどいんじゃありませんか?礼司さんは元上司でもあるし、あれほどあなたに良くしてくれたのに、どうしてこんなことができるんですか?だから辞める時にあんなに急いで逃げたんですね。会社のお金を盗んで、機密書類まで持ち出して、今はこんなにいい暮らしをしているなんて」若菜が横から冷ややかに責め立てた。私は反論はせず、礼司を静かに見つめた。彼は慌てたように視線をそらした。今日のこの茶番には、礼司も加担しているらしい。私は驚きよりも、どこか冷めた感情に心を占められていた。礼司なら、こう動くのも想定の範囲内だという諦めに近い納得感があった。「蛍さん、どうして黙っているんですか?」若菜は得意げに警察へ言った。「おまわりさん、見てください。黙っているということは認め
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