夫の高瀬旬(たかせ しゅん)が浮気していることに気づいたあと、私・高瀬芽衣(たかせ めい)は彼を3回許した。1回目。私は、18歳の頃のあどけない旬が、震える手で渡してくれたラブレターを今の彼に差し出した。旬はラブレターを受け取ると、申し訳なさそうな顔をして、私の目の前で浮気相手の森下若葉(もりした わかば)の連絡先をブロックした。2回目。私はスマホの写真フォルダを開き、彼が事業で成功を収め、将来を誓うプロポーズをしてくれた時の動画を見せた。旬は黙ったままそれを見たあと、金目当てで近寄ってきた若葉を家から追い出すよう警備員に命じたが、その後彼は一晩酒を飲み続けた。そして最後。今日のことだ。若葉の入院している部屋の前で、私は旬に妊娠検査結果を手渡した。旬はタバコに火をつけてそれを受け取った。私は煙にむせて、何度も咳き込んだ。しかし、旬の視線は病室の若葉から1秒も離れなかった。その瞬間、心の中ではっきりとわかった。もう、旬と私に、未来はないのだ。旬の浮気に気づいてから妊娠まで、丸一年抱え続けた疑念の答えが、目の前に突き付けられた。崩れ落ちて、わめき散らしてやるつもりだった。なのに今は落ち着いていて、何の感情も抱けなかった。涙はもう、とうの昔に枯れ果てていた。二人の関係は、ようやく終わりを迎えるのだ。大人にとっての別れに、感情的になる必要はなかった。私は静かにその場を去ろうとした。しかしずっと黙っていた旬が急に口を開いた。「芽衣、子供のことをちゃんと考えるんだ。ふざけないで、いい加減にしてくれ。若葉は身寄りがないから優しくしてあげてるんだ。なぜお前はそれを受け入れられないんだ?」私は首を振って、不思議そうに旬を見返した。「『いい加減にして』って?私が何をしたっていうの?お二人のことを周りに言い散らしてもないし、彼女と喧嘩をしたことすらなかったでしょ?ただ、あなたが昔にしてくれた約束を思い出させただけ。それがふざけてるって言うの?あなたが繰り返す浮気行為を黙って見ていればいいの?旬、私は目が見えないわけでも耳が聞こえないわけでもない。何も知らなかったことにはできないの!」ここで泣くつもりはなかった。もう二度と旬のために涙を流さないと決めていたのに、気づけば涙が頬を伝っていた
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