ANMELDEN夫の高瀬旬(たかせ しゅん)が浮気していることに気づいたあと、私・高瀬芽衣(たかせ めい)は彼を3回許した。 1回目。私は、18歳の頃のあどけない旬が、震える手で渡してくれたラブレターを今の彼に差し出した。 旬はラブレターを受け取ると、申し訳なさそうな顔をして、私の目の前で浮気相手の森下若葉(もりした わかば)の連絡先をブロックした。 2回目。私はスマホの写真フォルダを開き、彼が事業で成功を収め、将来を誓うプロポーズをしてくれた時の動画を見せた。 旬は黙ったままそれを見たあと、金目当てで近寄ってきた若葉を家から追い出すよう警備員に命じたが、その後彼は一晩酒を飲み続けた。 そして最後。今日のことだ。 若葉の入院している部屋の前で、私は旬に妊娠検査結果を手渡した。 旬はタバコに火をつけてそれを受け取った。 私は煙にむせて、何度も咳き込んだ。 しかし、旬の視線は病室の若葉から1秒も離れなかった。 その瞬間、心の中ではっきりとわかった。 もう、旬と私に、未来はないのだ。
Mehr anzeigen翌朝、私は目が覚めると、体中が痛かった。まだ続きをしようとする陽太を、私は足で蹴り飛ばした。陽太はすっかり落ち込んだ様子だったけれど、私のために朝ごはんを作ってくれた。そして、私は陽太が一生懸命企画したプロポーズを受け入れた。プロポーズから3ヶ月後、陽太と一緒に国内へ戻った。正式に旬と離婚するためだ。離婚調停を経て、私たちは裁判で離婚を決めることになった。3ヶ月ぶりに、裁判所で再び旬の顔を見た。私は我慢できず、思わず嫌悪感が顔に出てしまった。私に気づいた旬は顔に喜びを浮かべ、そして恐る恐る尋ねた。「芽衣!今までどこにいたんだ?どれほど心配したと思ってる?」無言でいる私に、旬が申し訳なさそうに続けた。「芽衣、本当に悪かった。若葉の本性を見誤ってた。あいつは最悪な女だった!今はそれ相応の報いを受けている。俺たち、もう一度やり直せないか?」私は旬をまっすぐ見つめ、ハッキリと断った。「私たちもう戻れないのよ。裏切られた傷をなかったことになんてできない。これまで何度もチャンスをあげたけど、別れることになったのは本当に森下さんだけのせいだと思ってる?」私は呆気にとられた旬を見た。もう、躊躇うことはなかった。私は首を横に振った。「旬。私たちが終わったのは、あなたが『人は変わる』と言って森下さんを選んだからよ。あなたはそれでも私に愛されていることを求めるけど、そんな都合のいい話あるわけないでしょ?私は何度もあなたを許してきたのに、あなたは一度だって私の気持ちを考えなかったじゃない?だから、もう離して。あなたが私を裏切った瞬間、私たちはもう終わったのよ!」私は久しぶりに、彼に穏やかな笑顔を見せた。「私たちはもう、二度と一緒になることはないの」そう言って私は、傍で見守ってくれていた人の姿を見た。「私は彼を愛しているわ」そして、私は席を立ち、陽太の手を引いた。旬の口から「やり直す」と聞いて、私は思わず吹き出しそうになった。反省した顔をしている旬が、私は心底気持ち悪かった。私を散々傷つけた挙句、「やり直せないか」だなんて。私は冷たく首を振った。旬は目を真っ赤にして、私の足元に膝をついた。「芽衣……あの頃俺がしたことと同じことをやり返してくれてもいいから、償わせてくれ!
旬は、頭が真っ白になった。芽衣は、本当に行ってしまったんだ。言葉にできないほどの恐怖が、波のように押し寄せてきた。芽衣が自分の前からいなくなることなんて、これまで一度もなかったからだ。世界はこんなにも広い。芽衣はどこへでも行けるのだ。どうすれば、芽衣を見つけられるだろう?旬は静かに、涙を流していた。抑えきれない感情のまま、旬は自分の頬を何度も殴った。医師と看護師が駆けつけ、なんとか彼を止めた。魂が抜けたような顔で、旬は若葉の病室へと向かった。そして、扉の向こうで若葉と医師との会話が聞こえてきた。旬はなんとなく立ち止まり、ドア越しに耳を澄ませた。「森下さん、約束のお金はいつ振り込まれるのですか?いままであなたの病気を偽装してきたのは、こっちだってリスクが高いんですよ」若葉は面倒くさそうに吐き捨てた。「わかってますよ。あのクッソ女はもう高瀬家から追い出したし、高瀬家の財産もすぐ私のものになるんだから、1億くらい余裕で払えるでしょ!」旬は思わず後ずさり、息がどんどん速くなった。これまでの出来事が、刃のように心に刺さった。芽衣は何度も自分を許してくれた。それなのに、自分は彼女の信頼を踏みにじったんだ。旬の荒い息遣いに気づき、二人は慌てて会話をやめた。若葉は真っ青な顔をして、震えながら口を開いた。「高瀬社長、誤解だよ!今の、ただの冗談、悪ふざけだってば!」だが、旬の眼差しは冷めきっていた。若葉は、ガクガクと足から崩れ落ちた。旬のズボンの裾を、必死にすがりつくように掴む。「高瀬社長、ごめんなさい!通報しないで!なんでもするから。奥さんのところに行って、土下座だってして謝るから!」旬は若葉の顔を強引に持ち上げた。かつて自分が見惚れたこの顔が、今は吐き気がするほど憎く感じた。もう、彼女への愛情は残っていなかった。「若葉、この最低な女が。一生刑務所で反省してろ!」冷たく突き放すと、旬は振り返りもせずに立ち去った。廊下を歩く彼の背中に、病院中に響く若葉の笑い声が聞こえてきた。「私が最低だって?私とあなたがこうなったのは、私の誘惑だけのせいだと本気で思ってるの?そっちだって、何度も裏切って奥さんを傷つけてきたじゃない?奥さんへの愛にやっと気づいたつもり?同じ女として教え
旬は、血まみれになった若葉を抱え、病院へ急いだ。心が激しくざわつき、落ち着かなかった。芽衣の絶望に満ちた表情が、頭から離れなかった。その瞬間、頭の中を嫌な予感がよぎった。自分は、言いすぎたのではないか。芽衣だって、少し感情的になっただけかもしれない。若葉の命に別状はないのだから。芽衣はただ、妊娠中で情緒不安定なだけだった。なぜ自分は、芽衣をもっと優しく受け入れてやらなかったのだろう?若葉が意識を取り戻したという連絡を受けた時も、旬の頭の中にいたのは芽衣のことばかりだった。あどけない笑顔を向けてくれた、若かりし頃の芽衣の顔を思い出した。いつから、芽衣は自分に笑いかけなくなったのだろう?最初に浮気した時か?それとも、その次の時だったか?もう、思い出せなかった。包帯を巻いた若葉が、うるんだ瞳で旬を見上げる。「高瀬社長、奥さんを責めないで。全部私が悪いの。私が奥さんの目の前に現れたから、いけないわ。奥さんが私を傷つけたのも当然なの」旬は心ここにあらずで、ただぼんやりと頷いた。「若葉、芽衣はわざとやったんじゃない。気にするな。彼女を責めたりはしないだろ?」若葉が唇を噛んで言い返そうとした時、旬の鋭い眼差しに、ふと口をつぐんだ。それは尋ねているのではない。命令なのだ。若葉は察したように、素直に頷いた。旬はもう、若葉の声なんて聞きたくもなかった。今はただ、芽衣に会いたくて仕方がなかった。芽衣が今どうしているのか、それだけが知りたかった。旬は震える手でスマホを取り出し、芽衣の電話番号を押した。いつから自分たちは、こうして会話すらしなくなったのだろう?若葉が現れてからだろう。自分はいつも芽衣と喧嘩して、ドアを叩きつけて閉めて家を飛び出していた。そんな状態が続いていた。次第に面倒くさくなり、家にもあまり帰らなくなった。それを思い出した旬は、自分の頬を強く叩いた。自分は、なんてことをしてきたんだ?芽衣の情緒が不安定なのは、妊娠しているからじゃないか?自分はなんで寄り添ってあげられなかったんだ?電話からは、ただ冷たい発信音が虚しく流れるだけだった。旬は自嘲気味に笑った。芽衣が電話に出なかったのは、これが初めてのことだ。旬はタバコの箱を取り出し、一本、また一
私が戸惑っていると、ドアが内側から開いた。出てきたのは、私のネグリジェを着た若葉だった。若葉は私を見て、申し訳なさそうに笑った。「すみません。高瀬社長がオートロックの暗証番号を変えたことを、お伝えし忘れていまして。暗記が苦手で、お二人の結婚記念日が覚えられないから、高瀬社長が暗証番号を私の誕生日に変えてくださったんです」顔を上げて旬を見たが、彼は私と目を合わせるのを避けた。「若葉がしばらくここに住むことになった。気にするな」私は静かに頷いた。もう気にする必要などないのだ。若葉は親しげに私の手を握ってきた。「高瀬社長と一緒に、午後にベビー用品をたくさん買ってきたんです」若葉はそう言って、左右の手で私と旬の手を取って足を進めた。部屋には赤ちゃん用品があふれ、ベビーベッドやベビーカー、おもちゃが至るところに置かれていた。若葉は、まるで自分の子供のために準備してあるかのように丁寧に部屋を紹介した。旬は愛おしそうに若葉を見つめ、私に向かって口を開いた。「若葉と二人で、赤ちゃんのために買い物に夢中になりすぎて、夕飯も食べていないんだ」私は彼の言葉を遮った。「いらないよ」若葉が一瞬で悲しそうな表情になり、目に涙を浮かべた。「奥さんが私のことがあまり好きじゃないのは分かっています。でも、全部二人で選んだものなんです。私のことはいいですから、せめて高瀬社長の気持ちを受け取っていただけませんか?」私は自嘲気味に繰り返した。「いらないよ」本当に、必要ないのだ。お腹の子はもう、この世にはいない。旬が不満げに言った。「俺たちの子供なんだぞ。お前一人で決める権利はない」私は思わず鼻で笑った。なんて滑稽なことだろう。旬は最初から、私と子供ではなく若葉を選んだのではなかったのか。私たちの過去も、未来も全て捨てたはずなのに。それでも私が彼のことを許して子供を産むと信じているなんて。「芽衣、頭を冷やせ。妊娠しているからといって、俺がお前を甘やかすと思うな」頭を冷やす?もう、ずっと前から冷静なのだ。彼のことを考えて泣き明かした夜は、一度や二度ではなかった。そして、全てを終わらせると決意したのだ。……今日は心身ともに疲れ果てていたから、ベッドに入るなり深い眠りに落ちた。しかし突然頬に鋭い