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第3話

Author: あずき
私は必死の思いで旬を突き飛ばしたけれど、代わりにガラスの破片が私の肺を突き刺した。

医師からも助かる見込みは極めて低いと告げられた。

旬は手術室の前で「芽衣が死ぬなら俺も一緒に死ぬ」と声を枯らして泣いていた。

意識が混濁していたのに、その言葉を聞いた私ははっと目が覚めた。

手術が終わったのは日付が変わった頃だった。

目を開けると、あんなに身なりに気を配っていた旬が、ひどく乱れた姿でそこにいた。

目は真っ赤に充血し、髪の毛もぼさぼさだった。

彼は涙を必死に我慢して、私の耳元で優しく囁いた。

「これからは何があっても、俺たちはずっと一緒だ」

あの時は生死を共にしたことで、二人の絆が揺らぐことはないと信じていた。

けれど、若葉という女が現れただけで、すべての信頼は脆くも崩れ去った。

私が何年も望んでいた旬との子供は、大きくなる前になくなるのだ。

私は幼い頃から体が弱く、結婚してからはあらゆる治療を試して妊娠に備えていたのに。

28歳にしてやっと授かった、奇跡の命だった。

妊娠を知った私は舞い上がるほど嬉しくて、早く旬に伝えたい気持ちでいっぱいだった。

しかし彼の会社へ駆けつけると、旬が意識を失った若葉を抱えて取り乱している姿が目に入った。

妊娠を知った時の喜びは、一瞬で消えてしまった。

旬は周りなど目に入らなくなっていて、私に気づくこともなく突き飛ばしたのだ。

彼の秘書が咄嗟に支えてくれなければ、私は階段から転げ落ちていたところだった。

言うまでもない、お腹の子と一緒にだ。

看護師が再び私の意思を確認し、私は涙を流しながらうなずいた。

愛情のない家庭で育った私には、両親が不仲な家庭で育つ辛さが痛いほど分かっていた。

親の怒鳴り声や、暴力を振るわれた時のこと。

それが私の幼少期の悪夢だった。

この苦しみを、自分の子供に味わわせたくなかった。

手術後の経過観察を終えると、私は退院の支度に取りかかった。

病院の廊下を歩いていると、医師と話す旬を見かけた。

旬はこちらに気づくと、怪訝そうに眉をひそめながら歩み寄ってきた。

「ここで何をしている?」

私が産婦人科の診察書を持っているのを見て、冷たかった旬の表情が和らいだ。

彼は優しく手を伸ばし、私のお腹に触れた。

「検診か?俺たちの赤ちゃんはどうだ?健康か?」

その時、病室から若葉が青白い顔でふらりと出てきて、無理に微笑んだ。

「高瀬社長、奥さんもいらしていたのですね。奥さんにあまり良く思われていないようですし、私のことはお気になさらず、奥さんとご一緒にお過ごしください」

旬は若葉を抱き寄せ、優しく言った。

「妊娠しているだけだ。こいつはそこまで弱い女じゃない、気にしすぎだ」

言い終えて、旬は私の方を振り返った。「だよな、芽衣?」

彼はそう聞いてきたが、否定を許さない口調だった。

その身勝手な言葉に呆れ、私は視線も合わせずその場を立ち去ろうとした。

その瞬間、不意に腕を掴まれ、咄嗟に旬かと思い振り払った。

しかし、次に聞こえてきたのは若葉の悲鳴だった。

振り向くと彼女が床に倒れ、旬が即座に抱きかかえていた。

彼は私を睨んだ。「芽衣、がっかりしたよ。いつからそんな人間に成り下がったんだ?」

若葉を抱えたまま、旬は勢いよく私にぶつかって通り過ぎた。私は椅子の角に激しく体を打ちつけた。

咄嗟にお腹をかばったけれど、子供はもういないのだとすぐに思い出した。

激痛で立ち上がれず、私は地面にしゃがみこんだ。

見上げた先に、若葉を抱えて急いで去る旬の背中があった。

彼は一度もこちらを振り返らなかった。

私は激痛に耐えながら、タクシーを呼んで帰宅した。

玄関でオートロックの暗証番号を入力するが、なぜか扉が開かなかった。

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