帰れない愛は、夕陽に沈む의 모든 챕터: 챕터 11 - 챕터 20

21 챕터

第11話

颯真は親子鑑定書を莉緒に手渡した。莉緒は目を見開き、信じられないという顔で叫んだ。「ありえない。こんなの絶対に偽物よ。お金を使って細工したに決まってる!」颯真は、目の前で取り乱す莉緒を見つめ、そっと近づいて抱きしめた。「莉緒、人を使って調べた。この鑑定書に偽造の痕跡はなかった。お前はたぶん、当時のことを誤解していたんだと思う」「誤解なわけないでしょう!」莉緒は目を血走らせ、泣いているのか笑っているのかわからない顔で怒鳴った。「母は小さいころからずっとそう言っていたのよ!私たちを路頭に迷わせ、何年も苦しめたのは青木家のあの老いぼれだって!間違っているはずがない!」颯真は複雑な表情で、たった今、紗季から送られてきた録音を再生した。そこには、紗季と遠志のやり取りが入っていた。過去のいきさつが、はっきり語られている。「莉緒……」颯真は莉緒がここまで崩れていくのを見るに忍びず、やさしく慰めた。「どのみち、紗季はもう兄貴と結婚した。これからは俺たち二人でちゃんと暮らしていこう。都合のいい日を選んでくれ。両親に会わせに行くから……」それを聞いた莉緒は、愕然として颯真を見た。「え?紗季が誰と結婚したって?」その話になると、颯真の顔色も悪くなった。「俺の兄貴の怜司だ。今日の結婚式があの二人のものだったなんて、俺もさっき知った」莉緒は数秒、黙り込んだ。やがて、喉の奥でくつくつと壊れたように笑い出した。「紗季って女、本当に抜け目ないわね。母親譲りで、どこまでも計算高い。ついこの間まであなたに夢中で、命まで差し出しそうな勢いだったくせに、あっという間にお兄さんに乗り換えるなんて」颯真はもともと胸の内に重苦しいものを抱えていた。莉緒にそう言われて、怒りで動悸がするほどだった。だからこそ、颯真はなおさら急いで莉緒を両親に会わせたくなった。紗季があんなやり方で自分を弄ぶというのなら、こちらももう何も隠す必要はない。けれど、さっきまであれほど強気だった莉緒は、今は言葉を濁し、小さな声で言った。「ちゃんと日を選ばせて」「うん」颯真は怜司の無表情な顔を思い出し、不安になってさらに言い添えた。「莉緒、紗季の父が元凶じゃなかった以上、お前も少しずつ恨みを手放したほうがいい。もう紗季に手を出すな。俺の兄貴
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第12話

莉緒は鼻で笑い、単刀直入に切り出した。「あんたもあんたの父親も、本当に救いようがないくらい恥知らずね。責任から逃げるためなら、録音を偽造して、親子鑑定まで偽造するなんて、何でもありなのね」紗季は軽く眉を上げ、見下すように小さく笑った。「あら、ちょうどよかった。私、それをずっとバッグに入れたままだったの。本当は機会を見て、誰かに頼んで颯真に渡してもらうつもりだったんだけど、最近忙しくて、そのままになっていたのよ」紗季はバッグから一通の書類を取り出した。紗季自身と莉緒のDNA鑑定書だった。報告書には、二人に血縁関係はないと記されている。紗季はその書類をテーブルに置き、莉緒の前へ押しやった。「これも偽造だと言うつもり?まだ疑うなら、今から二人で病院へ行って、その場で証明してもいいわ」莉緒はぎこちない動きでテーブルの上の鑑定書を手に取った。唇が震えるばかりで、一言も出てこない。しばらく、空気が凍りついたように沈黙した。紗季は、向かいの相手が現実を受け止めるのに時間がかかっているのだと思い、席を立って帰ろうとした。ところが莉緒は突然、のけぞるようにして二度ほど笑った。そして勢いよく立ち上がり、紗季を憎々しげに睨みつけた。「小さいころから、母は私を連れてあちこちを転々としてきたの。青木家のお嬢様として何不自由なく育ったあなたに、賞味期限の切れたパンで空腹をごまかす惨めさがわかる?何年も同じ上着を着続ける生活が想像できる?青木家のあの男が母を弄んで捨てなければ、私たち母娘があんな惨めな生活をすることなんてなかった!」紗季は言葉を詰まらせた。「でも、先に裏切ったのは、あなたのお母さんのほうで……」「黙れ!」莉緒は紗季の言葉を叩き潰すように叫んだ。「あんたも、あんたの父親も、同じくらい薄汚いのよ!」その瞬間、紗季はようやくはっきり悟った。莉緒はもう、真実などどうでもいいのだ。ただ、自分の憎しみをぶつける相手が欲しいだけだった。青木家を恨み続けなければ、莉緒が長年抱えてきた執念そのものが滑稽になってしまう。だから紗季がどれほど説明しても、莉緒にとってはすべて出まかせにしか聞こえない。紗季は、もう二人の間に話すことなど何もないと思った。それに今の莉緒は明らかに正気ではなく、その姿はどこかぞっとするもの
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第13話

怜司はやわらかな声で、長いあいだ紗季をなだめ続けた。ようやく紗季の気持ちが落ち着いたころ、紗季は涙に濡れた目で怜司を見上げ、尋ねた。「どうして、ここがわかったの?」「君が心配だったから、依頼人のことを少し調べさせた」紗季は小さく頷いた。怜司の手にかかれば、その程度のことは難しくないのだろう。怜司は、これ以上紗季に見せるべきではないと判断し、先に彼女を家へ送り届けて休ませた。残った部下たちは、こういう連中の扱いに慣れていた。少し痛い目を見せただけで、男たちはすぐに何もかも白状した。証拠がそろうと、怜司は彼らをまとめて警察へ突き出した。そこに情けをかけるつもりは一切なかった。その後、怜司は部下に命じ、姿をくらませていた莉緒を探し出させた。怜司は莉緒を薄暗い地下室へ連れてこさせると、まず顔が腫れ上がるほど痛めつけた。莉緒は全身の痛みに耐えながら、床の上で身を丸め、もがくように言った。「怜司さん!待って。あなたに見せたいものがあるの」莉緒はポケットからスマホを取り出し、アルバムを開いて怜司の前に差し出した。下劣な言葉が、重苦しい部屋の空気を満たした。その瞬間、紗季にはすべてわかってしまった。莉緒が見せようとしているのは、あの日、颯真が撮っていたあの写真なのだと。全身から血の気が引いていく。紗季は、何かを失うような不安に襲われ、怜司を見上げた。けれど怜司は、赤く染まった目で画面を一瞥しただけだった。そして無言で、そのスマホを部下へ差し出した。「処分しろ」怜司が軽く手を振ると、すぐに数人がなだれ込んできた。「丁重にもてなしてやれ」それだけ命じると、怜司は紗季を連れてそこを出ようとした。だがそのとき、扉が押し開けられた。部下たちの制止を振り切り、颯真が慌てた様子で駆け込み、莉緒のそばにしゃがみ込んで彼女を抱き寄せた。「兄貴!何をしてるんだ!莉緒は俺の女だ。莉緒に手を出すなら、先に俺に一言あってもよかっただろう!」怜司は紗季の手を取ると、冷ややかに言った。「紗季は、幼いころから俺と婚約していた相手だ。お前が彼女に手を出したとき、俺に一言でも話を通したか」紗季は何も言わなかった。ただ、地面に倒れ、全身傷だらけの莉緒をかばう颯真を、悲痛な目で見つめていた。「莉緒はただ、復讐心に囚われ
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第14話

颯真はその場に立ち尽くした。胸の奥から熱が引いていき、指先まで冷たくなっていく。紗季を利用してきたことに、罪悪感がなかったわけではない。紗季と甘い時間を過ごすたびに、親の代の恨みを、何も知らない紗季に背負わせるべきではないと、ふと考えたこともあった。それでも颯真は、都合の悪い感情から目をそらし続けた。そして今、その報いがようやく自分に返ってきたのだ。颯真にはとっくに、受けるべき罰が下されていた。長いあいだ、自分も莉緒に騙されていた。紗季の気持ちを弄んでいるつもりで、結局は自分こそ、莉緒に都合よく操られていたのだ。「どうしてだ」胸の奥から、焼けつくような怒りがこみ上げた。颯真は莉緒の首をつかみ、怒鳴った。「どうして俺を騙した!俺はお前のために、どれだけ手を汚してきたと思ってる。お前が復讐したいと言えば、どんな手でも貸した。間違っているとわかっていても、お前を庇って、証拠を消して、面倒な後始末まで全部引き受けてきたんだ。莉緒……この最低な女が!」颯真は怒りのあまり喉が詰まり、莉緒を睨みつける目は、今にも血が噴き出しそうなほど血走っていた。すべてが露見した以上、怜司も颯真も自分を簡単には見逃さないと、莉緒にもわかっていた。莉緒は颯真の目に浮かぶ悲痛な色を見つめ、やけになったように、狂ったような笑い声を上げた。「颯真、あなたこそ、とっくに紗季の体に溺れてたじゃない。愛してるのは私だけだなんて言いながら、毎晩みたいにこの女を抱いてたんでしょう?それは何?ただの浮気のつもりだった?私たち、結局どっちも最低なのよ。今さらどっちが悪いなんて、言える立場じゃないでしょ」颯真は恥と怒りに駆られ、荒々しく遮った。「もういい!」颯真はよろめきながら立ち上がった。力の抜けた足取りは、どこかおぼつかなかった。「兄貴、この女はもう庇わない。どう処分するかは任せる。兄貴のやり方なら、間違いないだろう」紗季は黙って傍らに立ち、床に倒れたまま正気を失ったような莉緒を見つめていた。憎らしく、哀れで、そして少しだけ可哀想でもあった。颯真は、この衝撃を受け止めきれないようだった。去り際、颯真は紗季を深く見つめた。その目に、言い尽くせない思いのすべてが込められていた。紗季はその複雑な眼差しから、罪悪感と後悔、そして未練
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第15話

紗季が過去にきっぱり別れを告げ、新しい生活を始めたいと思っていたため、怜司はできる限り早く国内の仕事を片づけた。紗季の希望どおり、二人はこれから海外に定住することにした。生活の準備が整うと、紗季も自分の仕事に本腰を入れ始めた。もともと手元には十分な資金があり、さらに長年ビジネスの世界に身を置いてきた怜司の支えもあって、紗季はほどなく海外で自分のスタジオを立ち上げた。何もかもが順調に進み始めたころ、颯真が追いかけてきた。あの日、莉緒の本性を知ってから、颯真はひどく荒れた生活を送っていた。毎日のように泥酔していた。冷たい床に座り込んでいると、目の前に幻のような光景が浮かんだ。家の明かりはまだ温かく灯っていて、紗季は可愛らしいチェック柄のエプロンを身につけ、キッチンで忙しそうにしている。颯真は紗季の腰に腕を回し、味見をしたいと甘えるように頬を寄せた。けれど、口に入れた料理の味はいつの間にか変わっていた。紗季の腰に触れていた手は、次第に大胆な動きを始める。紗季はいつだって颯真を甘やかしてくれた。とくに肌を重ねることに関しては、いつ、どこで颯真が求めても、紗季は応えてくれた。だから、莉緒の言ったことは正しかった。紗季への感情がどこまで本物で、どこまで偽物だったのかはわからない。それでも、颯真が確かに紗季の体に溺れていたことだけは事実だった。今、家の中はがらんとしている。もう二人の笑い声も、寄り添う温もりも、絡み合う夜もない。床には空き瓶が転がり、片づける者もいない。テレビの画面は暗く沈み、紗季が颯真の腕の中に縮こまって映画を見ることも、もう二度となかった。颯真は突然、果てのない孤独へ突き落とされたような気がした。息が詰まるほど苦しかった。酒に溺れ、夢と現実の境をさまよっているはずなのに、自分が本当に欲しかったものが何だったのか、これほどはっきりわかった瞬間はなかった。失ってしまった紗季を、必ず取り戻さなければならない。紗季は自分にとっての酸素だった。紗季がいなければ、息もできない。颯真にスタジオの営業を邪魔されたくなかったため、紗季は従業員に簡単にいくつか伝えると、一階にあるカフェで颯真と会うことにした。颯真は店員を呼び、慣れた様子で紗季の好みに合わせてコーヒーとデザートを注文した。もし欺きさえな
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第16話

それから数日、颯真は何かにつけてスタジオへ贈り物を届けてきた。あるときは、紗季の好きな飲み物や軽食、見た目にも凝った小さなケーキ。またあるときは、ジュエリーやアクセサリー、ダイヤや金製品、有名ブランドの新作バッグやコスメ。さらには高価な撮影機材まで送られてきた。スタッフたちは陰で、紗季がどこかの大物に囲われているみたいだと噂するようになった。以前の紗季なら、きっと胸を弾ませて喜んでいただろう。けれど今の紗季にとっては、ただ煩わしいだけだった。贈られてきたものはひとつも受け取らず、機会を見つけてはすべて送り返した。それでも颯真は懲りずに送り続けた。やむを得ず、紗季は怜司に頼ることにした。「颯真って、あなたのことがすごく怖いって聞いたんだけど?」怜司はネクタイを整え終えると、不思議そうに紗季を見て、頷いた。「ああ。俺に何かしてほしいのか?」紗季は困り果てたように額を押さえ、ため息をついた。「彼にひと言言ってくれない?私のスタジオに、ひっきりなしに贈り物を送りつけるのはやめてって。本当に迷惑なの」怜司が動いたあと、颯真はさすがにかなり大人しくなった。最近、スタジオの仕事は屋内撮影だけでなく、屋外ロケにも広がり始めていた。初めてのロケ撮影の日、公園で長椅子に座っている颯真に出くわした。紗季は何も言わず、そっと通り過ぎるつもりだった。ところが颯真は、まっすぐ紗季の名を呼んだ。「紗季!」仕方なく、紗季はぎこちなく首を向け、不機嫌そうに眉をひそめて颯真を見た。「何をしに来たの?」颯真の顔には、少しもめげた様子がなかった。図々しく笑いながら言った。「公園を散歩しに来ただけだよ。まさか偶然会えるとは思わなかった」服装も髪型も、偶然を装うにはきちんと整いすぎていた。紗季はそれを一目見ただけで、何も言わずに視線を外した。けれど目に何の揺れもなく、颯真と言い合う気にもなれなかった。颯真に仕事を邪魔されないよう警戒しながら、依頼人の要望にも応じているうちに、強い日差しで、紗季は頭がくらくらしていた。セットを組むために、スタッフも何人か同行していた。池のそばは光がきれいで、そこに背景を作れそうだと言われたとき、紗季は深く考えずに池の方へ向かった。そのとき、木陰から突然ひとりの人物が飛
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第17話

颯真が入院しているあいだ、怜司は彼の世話をするメイドをきちんと手配していた。けれど颯真は病気を盾にわがままを言い、どうしても紗季に会わせろと騒いだ。紗季に会えないなら薬も飲まないと言い張った。怜司は、病床で拗ねる颯真を冷ややかに見つめると、ほかの者を下がらせ、低い声で言った。「颯真、紗季だって、まだ体が回復していない。本当に紗季を想っているなら、彼女の立場を考えろ。自分もつらい中で、お前の世話までさせるつもりか?」颯真は黙り込んだ。さっきまで張りつめていた意地が、すっとしぼんでいく。颯真は何も言えなくなり、力なく視線を落とした。それでも、これはようやく得た機会だった。颯真は逃したくなかった。しばらく無言のにらみ合いが続いたあと、結局、颯真は折れた。ベッドを下りてカップを取り、薬を飲もうとしたそのとき、紗季がドアをノックして入ってきた。紗季と怜司は短く視線を交わしただけだった。怜司はすぐに察し、紗季を信じて部屋を出ていった。夫婦のあまりに自然な呼吸の合い方に、颯真の舌には苦みが広がった。まだ薬を飲んでもいないのに、先にその味を知ってしまったようだった。紗季は水を一杯注ぎ、薬を溶かして颯真に差し出した。「飲んで」颯真はなかなか動かなかった。「紗季……」紗季は淡々と遮った。「私に会えなきゃ薬も飲まないって騒いでたんでしょう?看病してほしかったんじゃないの?」「俺は……」颯真はまつげを伏せ、小さな声で言った。「紗季、君がそばにいないと、本当につらいんだ」紗季は沈んだ颯真の顔を数秒見つめ、ふっと笑った。「颯真、それなら本当に幸せね。私のつらさを、あなたは知らずに済むんだから。あなたは一生、中絶の痛みを味わうことはない。ひとりきりで無力に病床に横たわり、頭上の白い照明が痛む目を刺すのに、涙さえ出なかった。まるで視界ごと奪われたようだった。そのぶん、ほかの感覚がやけにはっきりしていくの。腹部をえぐられるような痛みも、全身の骨を一本ずつ外されていくような感覚も。そうした痛みの中で、同じくらい恐ろしくて崩れ落ちそうになる感覚があった。命が、自分の体から流れ出ていく感覚よ。耳元では、赤ちゃんのすすり泣きまで聞こえる気がした。あのころ、私は悪夢にうなされ続けていた。けれど隣にいたあなた
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第18話

颯真が思っていたとおり、二か月後の誕生日パーティーには、怜司も毎年の決まりどおり出席した。紗季は本来、参加するつもりはなかった。けれど父の遠志に会いたくて、家族の顔を見るために一緒に帰国することにした。この二か月、颯真は以前のように遊び歩くことをやめ、家業を学びながら、自分の事業も始めていた。思った以上に真剣に取り組んでいるようで、成果も少しずつ出始めていた。再び颯真に会ったとき、紗季も心の底から、颯真はずいぶん大人になったと思った。雰囲気も少しずつ怜司に似てきている。ただし、怜司が家に戻ってきた途端、颯真がこう宣言しさえしなければ。「兄貴、俺は紗季をもう一度取り戻す。これまで兄貴には何もかも負けてきた。けれど今の俺だって、ちゃんと成長している。自分の力でやっていこうとしている。兄貴と紗季の結婚は、ただの政略結婚だ。感情なんてない。俺だって、頼れる男になれると証明してみせる」怜司と紗季は顔を見合わせた。二人とも、冗談を聞いた程度にしか受け止めなかった。けれど颯真は本気だった。颯真は紗季のためにわざわざスイーツ作りまで研究し、紗季の好みに合わせて、誕生日用のスイーツをテーブルいっぱいに用意していた。招待客が集まり、会場は満席になった。颯真は大勢が見守る中、マイクを手に取った。「俺、白石颯真は、この先の人生で青木紗季以外の女とは結婚しません」壇下にいた宗一郎と麗奈の顔は、怒りで青ざめた。この二か月のあいだ、颯真はこの件で何度も両親と揉めていた。両親は最初こそ穏やかに説得していたが、颯真は怜司との結婚を解消させると固く決めていた。宗一郎は怒鳴った。「馬鹿なことを言うな!この縁談は、うちと青木家で長い時間をかけて整えたものだ。両家とも、もう了承している。そもそも紗季さんを騙し、傷つけたのはお前のほうだろう。今になって惜しくなったからといって、人の結婚を壊そうなど、許されると思うな。世の中が何でもお前の思い通りになると思ったら大間違いだ!」その後も颯真は不満を抱えていたが、表向きはおとなしくなったため、宗一郎と麗奈は颯真がようやくわかったのだと思っていた。招待客たちは壇下でひそひそと囁き合っていた。怜司は沈んだ顔で、固い決意を浮かべる弟を見つめている。隣の紗季は、居たたまれないほど気まずかった。
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第19話

誕生日会が終わるまで、紗季は怜司が戻ってくるのを待っていた。胸の奥に、理由のわからない焦りが広がっていく。颯真が客を見送りに下りてきたのを見つけると、紗季は眉をひそめて歩み寄り、尋ねた。「怜司くんは?」紗季がこれほど怜司を気にしているのを見て、颯真の胸にはさらに嫉妬が募った。颯真はどこか棘を含んだ声で言った。「上で電話してるよ。たぶん仕事の件を片づけてるんだろう」紗季は颯真の話を最後まで聞くことなく、急いで二階へ上がり、あちこち探し回った。けれど、怜司の姿はどこにもなかった。紗季は近くで掃除をしていたメイドに声をかけた。目には濃い不安と緊張が浮かんでいた。「怜司くんは?白石家の長男を見なかった?」メイドの視線は落ち着かず、紗季の目をまっすぐ見られないようだった。「怜司様は……さっきまで廊下でずっと電話をなさっていました。それから何かを聞いたのか、慌てて出ていかれて……今どこにいらっしゃるかはわかりません。奥様に聞かれたら、お部屋でお待ちくださいと伝えるように、と……」その言葉に、紗季の胸がざわりと揺れた。嫌な予感が、じわじわと広がっていく。怜司は、たとえ仕事で遅れるときでも、いつも自分で紗季に知らせてくれる。人づてに伝えることなどなかった。けれど今は、どこを探しても怜司が見つからない。仕方なく、紗季はいったん部屋へ戻って待つことにした。紗季はそのとき、いつの間にか自分が怜司を深く愛するようになっていたのだと気づいた。怜司がいないだけで、不安になり、落ち着かなくなり、何もかもがしっくりこない。怜司の存在は、いつも紗季に十分な安心を与えてくれていたのだ。ひとりで身支度を済ませてベッドに横になったものの、何度寝返りを打っても眠れなかった。どれほど時間が経ったのかわからない。やがて、部屋のドアがそっと開く音がした。そして、かちゃりと小さな音を立てて閉まった。紗季は明かりを消したままベッドに横たわっていた。怜司は自分がもう眠っていると思って、足音を忍ばせているのだろうと思った。怜司が布団に入ってきたら、少し拗ねてみせよう。心配させないこと、そして連絡は本人がきちんとすること。しっかり言ってやらなければ。男の息遣いは少し荒かった。紗季が体を起こそうとした瞬間、再びベッドへ押し戻された。間
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第20話

宗一郎と麗奈はすでに休んでいたため、紗季は二人を起こさなかった。その夜は、怜司を強く抱きしめたまま一晩を過ごした。颯真のやり方はあまりにも容赦がなく、怜司が割れるような頭痛とともに目を覚ましたのは、翌日の夜になってからだった。ようやく怜司が目を開けたのを見て、紗季は胸がいっぱいになり、また泣き出しそうになった。怜司は、すでに薄々何かを察していた。紗季から一部始終を聞くと、怒りを抑えきれなくなった。怜司は怒りを抱えたまま颯真のもとへ向かい、問答無用でその顔を殴りつけた。紗季も慌てて後を追ってきた。「もういい、もういいから」紗季は怜司の腰に腕を回し、甘えるように言った。「自分の手を痛めたらどうするの」颯真は裂けた口元を押さえ、痛ましげに笑った。騒ぎを聞きつけ、すぐに宗一郎と麗奈もやって来た。麗奈はもともと、兄弟の仲がこじれて家の中が荒れることを恐れていたため、急いで場を取りなそうとした。「いったい何があったの?」怜司は怒りに任せて、ことの経緯を両親に話した。話を聞き終えたあと、颯真をかばう者は一人もいなかった。宗一郎は怒りに震え、もう一度、颯真の頬を容赦なく打った。「この馬鹿者!紗季さんは今、お前の義姉だぞ!そんな真似をして、恥ずかしくないのか!これ以上、家の恥をさらしてどうする!」「だって納得できないんだよ!」颯真は狂ったように天井を仰いで笑った。けれどその目からは、涙が次々にあふれていた。「どうして兄貴は、そんな簡単に紗季を手に入れられるんだ!紗季はもともと俺のものだった。俺の彼女だったんだ!」「簡単なんかじゃない」怜司は正気を失いかけた弟を見つめ、どうしようもなくため息をついた。「俺は紗季を十年以上想ってきた。子どものころからずっと好きだった。だから、お前たちの過去にどれほど傷つき、長いあいだ苦しんでも、それでも紗季を妻にしたいと決めたんだ」「だから何だ!」颯真は怜司に向かって吠えた。「もう少し時間をくれれば、俺は必ず紗季の心を取り戻せる!」「私たちは、もう完全に無理よ」紗季は静かに遮った。「だって、私、妊娠したの」その言葉に、その場にいた全員が驚いて目を見開いた。最初に反応したのは怜司だった。怜司は目に喜びを隠しきれず、呆然とつぶやいた。「本当なの
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