実家の玄関前に立った雪乃は、なかなかドアをノックできずにいた。湊と一緒に帝峰市で暮らし始めてから実家に帰ることはめっきり少なくなっていたため、両親が元気にしているか不安だったのだ。祖父も年老いて体調を崩しがちになり、彼女が早く家庭を持つことを望んでいた。結局、ゴミ出しに出ようとドアを開けた雪乃の母、結城峰子(ゆうき みねこ)が、入り口に立つ娘の姿を見つけた。一瞬にして、二人の目頭が熱くなった。「お母さん、ただいま」「あなた、雪乃が帰ってきたわよ!」峰子は興奮気味に声を上げ、雪乃を家の中へ招き入れた。「おお、よく帰ってきたな」父の結城和男(ゆうき かずお)は雪乃のスーツケースを受け取り、ひどく感激した様子だった。ソファに座り、両親の白髪混じりの横顔を見つめながら、雪乃は胸がいっぱいになった。これまでずっと湊の背中ばかりを追いかけ、家族を蔑ろにしてきたことを深く後悔した。「今回はどれくらい滞在できるんだ?結婚の相談で帰ってきたのか?湊くんはどうして一緒に来なかったんだ?」父からの矢継ぎ早の質問に、雪乃はどう答えていいか分からなくなった。「もう、あなたったら。帰ってきたばかりなのに質問攻めにして、どうやって答えろって言うのよ」母はそう言いながら和男の肩を軽く叩いた。そして雪乃の方へ向き直った。「それで雪乃、今回はいつまでいるの?」「なんだ、お前も同じこと聞いてるじゃないか」和男が小声でぼやいた。昔と変わらず仲睦まじい両親を見て、雪乃は湊との関係を思い浮かべずにはいられなかった。二人の間には、こんな温かい光景は一度たりともなかった。いつも自分ばかりが彼を追いかけ、彼からの見返りはほんのわずかだった。「お父さん、お母さん。私、今回はもう帝峰市には戻らないわ」「戻らない?」二人は驚いた顔を見合わせた。雪乃の彼氏である湊が帝峰市で法律事務所を開いていることは知っていた。もし雪乃が蒼海市に留まれば遠距離恋愛になり、結婚するにしても別居は関係に響く。娘が実家に残るということは、間違いなく何かがあったのだ。そう察した二人は顔を見合わせ、母が口を開いた。「雪乃、湊くんと何かあったの?」「湊とは別れたの」「何があったんだ?」「ただ合わなかっただけ。大したことじゃないわ。それに、私……
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