路上で歌い続けて七年。やっと彼氏と結婚できるだけのお金を貯めた。真夜中、そろそろ片付けて家に帰ろうとしたとき、一人の女性が私の前に現れた。「気分が優れなくて……二三曲、歌ってくれない?」彼女は私の足が不自由なことに気づくと、迷わず十万円を振り込んでくれた。「こんな遅くにごめんね。でも、どうしても誰かと話したくて。悪いから、私のわがままを聞いてくれない?」スマホの振込入金通知を見て、私はうなずいた。これで彼氏は家賃のことで悩まなくて済む。大雨の日だって、無理に出前に行かなくていい。彼女は愚痴を吐き出し始めた。「結婚して五年になるんだけど、今日、妊娠してることが分かったの。それを伝えたくて彼のところに行ったら、ポケットにダイヤの指輪が入ってた。どう聞いても教えてくれなくて、腹が立って飛び出してきちゃった。ねえ、浮気してると思う?」迷いながらも何か慰めの言葉をかけようとした。そのとき、彼女のスマホが鳴り響いた。向こうの男の声は困ったように、それでいて甘かった。「バカだな、お前。あれはお前のために特注した指輪だ。サプライズのつもりだったのに、まさか先に見つけちゃうなんてな。今どこにいる? 迎えに行く」あまりにも聞き慣れたその声に、私は全身の血の気が引いた。彼女のスマホに表示された名前は、私の恋人・川村正幸(かわむら まさゆき)とまったく同じだった。スマホのスピーカーモードがオンになっている。私はぼんやりと、耳元で響く正幸の声を聞いていた。女性が気まずそうに言う。「知らなかったんだもん。だってあなたがちゃんと言わないから悪いんでしょ!」正幸が軽く笑う。「わかったわかった、全部俺が悪かった。で、今どこにいるか教えてくれる?迎えに行くから」藤田弥生(ふじた やよい)が場所を伝えると、正幸はすぐに心配そうな声をあげる。「夜は危ないよ。すぐ行く」私の心が凍りついた。弥生がただ拗ねて出かけただけなのに、正幸は彼女の安全を心配している。なのに、これまでの数年間、私は毎日一人で粗末な機材を担ぎ、不自由な足を引きずって、あちこちで路上ライブをしていた。熱を出しても休むことすらできなかった。警察に追い払われ、チンピラに絡まれながら、喉がかれて血が出るまで歌い続けて、ようやく投げ銭
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