沙月は、まだ夫を愛している。多分——最近の沙月は、うっかり夫の行動を試算する癖がついてしまった。今日は夫が夕食の支度をしてくれるということで、食卓には焼肉が並べられている。「最近お疲れ気味みたいだからさ、ちょっと奮発しちゃったんだ」肉はスーパーの焼肉セット2人前パックが一つと、ちょっとお高い黒毛和牛の小さなパックが一つ。お値段は両方合わせて3,830円。野菜は冷蔵庫にあったものを使っているからノーカウント。野菜を洗って切って並べる手間に対しては、“名もなき家事”代として五百円は加算しても妥当だろう。だがそれ以上に、疲れた妻を気遣う気持ちの優しさには、値段のつけようがない。それが“愛”なのだと沙月は思っている。「さあ、食べようか」食卓につくと、ホットプレートはすでに適温に温められていた。陽介はまず、和牛のパックを開ける。「飛騨牛だってさ、見た目からして、もう違うよな、見ろよ、このサシ!」彼は大興奮で肉をホットプレートに置く。溶け出した油がじゅうじゅうと音を立て、鼻腔の奥まで満たす香ばしい匂いに、沙月の胃が図らずもグウと鳴った。「ははっ、すげえ音、そんなに腹減ってるのか」陽介は最初に焼き上がった一枚を、沙月の皿に入れてくれた。それは表面をしっかりと炙って中はほんのりと赤みを残した、最高の焼き加減だった。口に入れれば良い肉特有の、とろりととろける脂の旨みが心地よい。「美味しい!」思わず声を上げた沙月を見て、陽介はにっこりと笑った。「うまいもの食うと、元気出るだろ?」陽介は自分の皿にも一枚、そして沙月の皿にももう一枚、肉を置いた。こうした愛情は、金額に換算できるものではない。「そうね」沙月は野菜の皿を手に取り、キャベツをごそっとホットプレートに置いた。「野菜も食べて、体にいいから」「お前もちゃんと野菜食えよ、ほら、玉ねぎも焼こう」野菜を押し付けあったり、肉を分け合ったり。楽しく焼肉を済ませた後で、陽介は箸を置きながら言った。「片付けはさ、明日の朝、俺がやるから置いといて」これだけを聞くと、確かにいい夫だ。だが沙月は、虫が来ないように食べたものはすぐに片付けてしまいたい主義だ。「いいわよ、片付けくらい、私がやるから」「いいからいいから、今日は座っててよ」「でも……朝、そんな片付けなんかする時間があるの
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