二人は車で、郊外に向かって走っていた。「何をしに行くつもりなんです?」ハンドルを握る沙月が聞くと、助手席で缶コーヒー片手に美沙が答える。「プチ身上調査、まあ、水口さんの旦那さんってどんな人なのかを、一度見に行ってみようってところね」「それって違法じゃないんですか」「プチだからね、違法になるほどのことはしないから。たまたま行った釣り堀で、たまたま見かけた人に、たまたま世間話に付き合ってもらうだけだもの」「随分と仕組まれた“たまたま”ですこと」「そこは、ね、気づかないふり〜」やがて二人は、町場を少し離れた河原にある小さな釣り堀に着いた。四角いコンクリ池にトタン屋根で日陰を作っただけの、古びた釣り堀だ。ペンキ塗りの看板の文字は日に焼けて剥がれ落ち、かろうじて“堀”の文字だけが読み取れた。目的の人物は、池のほとりに置かれたビールケースに座って、釣り糸を垂れながらコンビニのおにぎりを食べている最中だった。中肉中背、顔立ちは派手ではないが太めの眉が誠実そうに見える、普通の好青年。それが水口大吾である。彼の姿を見つけた美沙は、口の中で小さく「チッ」と舌打ちした。「マジで釣りに来てんじゃん、暇人か!」沙月はそんな美沙を宥めようとする。「まあまあ、釣りに行くって家を出たんだから、それは釣りに来て当然でしょう」「わかってないなあ、釣りとか、パチンコとか、図書館とか、一日中ヒマがつぶれてソロで出かけるような趣味って、浮気の言い訳に使われがちなのよ」「まるで、浮気を期待していたみたいに聞こえますけど?」「期待はね、してたわよ、だって不貞って離婚訴訟のとき手っ取り早くカタがつくからね」「美沙さんは、水口さんご夫妻を離婚させたいんですか?」「いや、実を言うと、そこまで“離婚”という結果にこだわってるわけじゃなくってね、ただね、“離婚も選択肢の一つ”くらいの覚悟を持ってほしいんだよね、だって……」美沙が沙月をじっと見つめる。「離婚したくない……つまり嫌われたり相手を怒らせたくないから、言葉を飲み込んじゃうんでしょ」その鋭い目線は、まるで心の奥底まで見透かそうとしているかのよう。沙月は、ちょっと居心地の悪い気分になる。「み、水口さんの話、ですよね?」「さあね」ちょっと首をすくめて、美沙は話を切り上げた。傍の釣り竿たてから適当な2本を取り
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