ある春の日、それは突然に起きた。今年高校に入ったばかりの白石圭太はまだ新しい制服を着て初々しい雰囲気を出していた。最初は戸惑うばかりだった学校生活にも次第に慣れ、友人もでき始めた。「さて、そろそろ部活も決めないとなぁ……」などと考えながら保健室へと歩く。これは別に体の調子が悪いからではなく、そこにいる保険医の赤崎沙由美に会うためだった。物腰柔らかなその保険医はケガや病気の手当だけでなく、生徒の悩み相談にも乗ってくれている。まだ若く美人ということで憧れを抱く男子生徒も少なくない。当然圭太もその一人であり、相談を口実に会いにやってきた次第だった。(まあ、会えるかどうかは運しだいだけどね)そんなことを考えつつ歩いていると目的の場所にたどり着く。ノックをして扉を開けるとそこには一人の女性がいた。綺麗に切りそろえられた髪に白衣がとてもよく似合うその女性は彼のあこがれの人、赤崎沙由美本人であった。(やっぱり美人だよなぁ……)圭太は年頃の少年らしい反応を見せる。「あら、いらっしゃい。今日は何の御用?」「その、先生に悩みを聞いてほしいというか……」「あら、悩み相談?」赤面する圭太に沙由美は朗らかな笑顔で答える。「いや……その僕もそろそろ部活に……入ろうかなどとですね。」その雰囲気に圧倒されながらもしどろもどろに答える。(「僕」なんて沙由美先生の前でしか使わないよなぁ)そんなことを思いつつも緊張で体がうまく動かない。しかし彼女は特に気にする様子もなく話を続ける。「そういえば君とは前に一度会ったことがあったわよね?確か入学式の日だったかしら?」「えっ!?そうでしたっけ?」確かに言われてみるとあった覚えがあるような気もするがどうしても思い出せない。すると彼女は少し残念そうな顔をして言った。「やっぱり忘れちゃったかな?ほら、入学式での教員紹介の時。」「あっ!思い出しました!」彼女の言葉でようやく思い出すことができた。「ふふ、君はクラス列の一番前だったもの」「一番前……ですか、ハハハ……」何気ない会話だが圭太にとってちょっと刺さるものがあった。なぜなら圭太にとって身長のことはちょっとしたコンプレックスだったからだ。集会のクラス列で一番前、それは即ちクラスの男子の中で一番背が低いという何よりの証明だった。
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