「あ……ぅ」 口をパクパクさせながら葵依の頬が染まっていくのを見届けて、壱は葵依の掴んだ指先に自分の指を絡める。白い箇所が1ミリも残らない程、葵依は赤く染まった。 「これからよろしく頼む」 「こ、ちらこそよろしくお願いします。つまらない者ですが……」 ペコッと頭を下げる葵依の動作がいちいち可愛くて困る。 頭を下げたまま動かなくなった葵依の旋毛を見て、旋毛にまで愛しさを感じてしまう。自分ながらに気持ち悪いなと思うも、そんな自分を不思議と嫌いになれない。恋とはここまで人を変えてしまうのか。恐ろしいと思うも嬉しくも思う。矛盾した気持ちに壱は人知れず苦笑を浮かべた。 それから、変わらず頭を下げた葵依に背を屈めて顔を近付ける。下から覗き込むと、唇をむにゃむにゃと動かしている葵依がいた。突然覗き込まれて、動きは止まったが。 「一つだけ訊いて良いか?」 葵依はコクンと顎を動かす。 「どうして、俺と付き合う気になった?」 年上の、顔見知り程度の男に告白されれば、いくらなんでも怖いだろう。それが例え、顔が良い男でも。 大の大人が精神的に未熟な17歳に面と向かって告白をするような男にろくなのは居ない──自分にブーメランが返ってくるが、そういう認識は間違いではない。お互いの接点を失う前に、何かしらの繋がりを持ちたかった。それは告白をする、という今日の行動に結び付く。 逃げるチャンスはあった。 これでも、逃げ道は用意してあげていた。 腰を引き寄せた時だって、肩を抱いた時も脈を測る時も力の半分も出してはいなかった。簡単に解けるものを彼女は抵抗せず、距離を取った時でさえ信号を渡らず、俺の目の前に居た。もしも、大声で叫んで誰かが駆け付けたとしても俺は捕まる覚悟でいたし、信号を渡って逃げ去ったとしても追いかける気はなかった。今日、手酷く振られたとしても失恋した心と共に二度と彼女に交わらないように人生を過ごす心持ちだったのだ。 『こんな私で良ければ……宜しくお願いします』 (これでもう──逃がしてあげられない) 一度、自分の腕の中に入ってきたのだから離すつもりはない。逃げたい、別れたいなんて思わせないように幸福という檻の中で囲む。 例え、俺の押しに負けたとしても。もし俺の前にしつこく迫る男が現れていたとしたら、そいつを受け入れていたのかも
Last Updated : 2026-06-15 Read more