Semua Bab 私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。: Bab 21 - Bab 30

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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:021

「このラグと座布団、ビーズクッションは叔父さんが買ってくれたんです」 グラスをテーブルへ置きながら、壱を座布団へ促して、彼が座るのを見届けると、誰も訊いていないのに、葵依は壱へそう教えた。 葵依は、他人を自宅に呼んだのはこれが初めてで、何か喋っていないと緊張してしまうのだ。ついつい、普段より口数が多くなってしまう。「楽に座って下さいね」 壱は正座をするつもりで片膝を突いたが、葵依からそう言われて言葉に甘えて胡坐を組むことにした。「上着、おかけましょうか?」「ありがとう」 壱のスーツの上着は、葵依の制服の隣に並んだ。二人の服が並ぶ様子を眺めて、まるで同棲しているようで壱は口元を綻ばせる。 壱の隣に葵依も腰を下ろしたが、彼女は正座だった。「楽にしてくれ」 自分の家じゃないのに、そう言うのはおかしな話だが……姿勢良く座る葵依を見て、壱は思わずそう言ってしまった。背中に定規が入ってると思わせるくらいに背筋が真っ直ぐだ。「いつもこうやって座ってます」 キョトンとした様子で答えられて壱は「ならば、大丈夫か」と答えたものの。頭の片隅に「楽な座り方を知らない可能性が……?」という疑問が生まれる。コンビニで働いている姿を思い出すが、他の学生バイトは壁に背中を預けて立っていたり、立ち仕事で疲れた足首を解す為に爪先を地面に付けてクルクルと回し、脹脛を揉んだりしていたが葵依のそう言った姿を一度も見たことがなかった。いつだって葵依の姿勢は良く、一番下の棚の商品を陳列する時だって背中は丸まっていなかった。 ──目にしていないだけかもしれない……でも、だらけた姿を見たいという欲求が壱の中で生まれた。下心はなく、純粋に肩の力を抜かせたい。 (やはりドロドロに甘やかすか……) 壱は、葵依が人へ甘えるという行為自体、得意ではないような気がした。 壱には二人の兄と姉がおり、それぞれ十四、十二、十一歳離れている。この三人にどれだけ甘や
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:022

「テレビも叔父さんが買ってくれたんです。壊れちゃったから見ないつもりでいたんですけど『それは世俗に疎い人間になるからテレビは見なさい』って買ってくれて……テレビ台は従兄からのプレゼントです。テーブルに乗せようと思っていたら叱られて」  正面にある黒い画面へ映る自分を見つめながら、『これらがなきゃもっとシンプルだったのか……』と心中で呟いた。ミニマリストと言ってもおかしくない程、必要最低限しか置いていないようだった。 「叔父さんのところへは引越そうとは思わなかった?」 疑問に思ったことを訊ねる。帰宅途中は必ず電話をするように、自転車で夜道を走らない、と言っているくらいだ。姪を心配する叔父が、母親を亡くした彼女をセキュリティが甘いアパートへどうして一人暮らしさせるのか。「叔父さんとはママが病気で入院した頃に初めて会ったんです」 隣に座る笑顔を見せる葵依へ違和感を感じる。膝に置かれた手を見れば、左手の手の甲を右手で抓っている──これは、感情を誤魔化すときの癖か。 「ママが亡くなって、ウチに来て良いって言ってくれたんですけど……知り合ったばかりでしたし、ママとずっと住んでた場所を離れるのは辛かったから残りました」 葵依は半分減ったグラスを両手で握り締めて水面に映る自分を眺めた。「でも残って良かったって……思ってます」 ぽつりと呟いた葵依が顔を上げると、壱と視線がぶつかった。「なんで?」 そう訊ねるも葵依は口籠った。「でも、叔父さんのとこへ行ってしまっていたら、その……あ、の……壱さんと出会えなかったから……残って良かったです」 語尾が段々小さくなって最後は蚊が鳴くような声だったが壱の耳にはっきりと届いた。 照れ笑いを浮かべる葵依がなんと可愛いことか。 その姿があまりにも尊くて、気が遠くなるのを奥歯を噛み締めて耐え
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:023

「やっぱり……かわいい……」「へっ?」「ほんとうに可愛い。好き」「なにをおっしゃって」「好き」 顔を近付けて、葵依の瞳を見つめながら壱は告白した。色彩の薄い栗色の瞳が大きく見開いて、己が映し出される。今、葵依の視界には自分しか映っていないという事実がこんなにも嬉しいなんて初めての感情だ。「ほんとうに可愛い。好き」「なにをおっしゃるんですかっ……まずは」「葵依」 名を呼びながらもっと顔を近付けると、間に手が入ってきて口を塞がられてしまう。小さな掌に阻まれて壱は止まった。「まずは、言う前に予告してから言わないと……」 壱と帰宅途中に思った事を葵依は壱へ告げた。いつの間にか「葵依」と名前を呼ばれる事に慣れてしまっていたものの、今の名前の呼び方はなんというか……熱っぽく感じてしまって恥ずかしいと葵依は思った。それになんだか──視線にも熱を感じる。「えっと、名前とか好きとか可愛いとかを予告してから言ってください」 頬を染めながら葵依に言われて、「分かった」と葵依の掌の中で呟いた。すると、生温かい吐息を感じて葵依はサッと手を離す。湯気が出そうに赤くなった葵依が信じられないくらい可愛い。 取り敢えず、葵依の話に乗ろうと壱は正座をする葵依の前で自分も膝を正す。すると、元から真っ直ぐな背中が余計にピシっと伸びた。「──今から名前を呼ぶぞ」「はい」「葵依」「はい」 返事をした葵依の口元がニヤついている。 それを凝視していたら葵依は耐えられなくなったのか、プッと噴き出して口元を隠しながらクスクス笑い出した。壱はポカンと口を開けたまま見つめる。「想像した通りでっ……フフッ、フッ」 何を想像していたのか分からないが……余程面白かったらしく、肩が震えている。それは2年間一度も見た事
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:024

  反射的に後ろに下がろうとしても動けない。両耳を塞ぐように手を置かれて逃げられなかった。耳を塞がれているせいで余計な音が聞こえない。 唇を唇で挟まれながら吸われる。顔の角度を変えながら、上唇と下唇を交互に喰まれてチュッチュッと水滴を交えた音や唾液が絡む音だけが響いて聞こえた。聞いた事がないような淫靡な音を聞いて葵依は恥ずかしくて耳を塞いでしまいたかった。(あっ、もう耳塞いであった……!) 両耳を塞がられて、音を遮断され、唇が一瞬だけ離れた時に漏れる自分の吐息が脳内に響く。自分の唇が熱いのか、それとも壱の唇が熱いのかも分からない。聴覚を奪われ、驚くほど柔らかい感触に脳が痺れた。 (甘い) キスの味がこんなに甘いなんて知らなかった。 煙草を吸っているから苦味があるのかと言えば、ちょっとだけ感じたものの、その後はひたすら甘い。 腰に力が入らずに、カクンと力が抜ける。後ろに倒れて後頭部への打撃を待ったが痛みはなかった。耳から離れた壱の手が後頭部へ回り、クッション代わりになったのだ。 唇は葵依が倒れたと同時に離れて、自分を上から見下ろす壱の顔がある。唇が濡れていて、さっきまであの唇に塞がられていたんだと葵依は思った。舌先でチロリと上唇を舐めると濡れている。「ど、どうして、キ、キ」「可愛過ぎて、我慢ができなかった」 あっけらかんと答えた男もまた、濡れた唇を舌で舐める。紅い舌先が、艶めかしく見えてしまった。目を逸らしたいのに逸らせず壱の唇ばかり見つめてしまった。 喰まれた唇が腫れているような気がして下唇に人差し指で押すも腫れている様子はない。 ──ファーストキスだった。 それを失った衝撃よりも恥ずかしさよりも自分の口臭は大丈夫だったのだろうか、と不安が湧いてくる。甘く感じたからそうじゃなかったかもしれない。でも、壱さんはそうじゃないかもしれない、とグルグル頭の中に湧いてくる。 「キスも予告をしてからが良かった?」 フッと口角を上げた男の色気がムアッと当てられる。下から見上げる壱の顔は相変わらず
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:025

「きょ、許可を……」「可愛い」という言葉も許可を得てから発言して下さい。 そう言うと、壱は整った顔をだらしなく崩して笑った。 キレイな顔は、どんな表情でもキレイだけど今の表情は子供みたいで可愛い。そんな事を葵依は思いながら胸がときめいてしまう。「あー、ごめんな。許可を得る時間が惜しいくらいキスしたい」『例え友人でも男は自分の部屋へ呼んではいけない。自分自身の身の安全を自分で守る為の手段。危機管理能力の一つだ』 害をなすから男を部屋に上げるな。それは壱さんも例外ではなかった。でも、私はお話をしたいから部屋へ呼んだ。やっぱり迷惑かも、と思って断ったけど「俺は葵依と喋り足りないんだ」って言われてすごく嬉しかった。 ──これは、信じてしまった私が悪いんだろうけど裏切られた気持ちがある──筈なんだけど。「葵依」 蕩けるような甘い声で名前を呼ばれると、浄化されてしまう。 裏切られた、とかそんな感情がまったくなくて……。 「許可、だして」「ダメ」と言ったところでゆっくりと顔が近寄ってくる。壱の顔を見ないように葵依はギュッと瞼を閉じた。目を閉じるのはまずいだなんて、葵依は夢にも思わない。「本当のキスはもっと濃厚なのをする、ってあれ聞こえていた?」 覚えている。信号機の前で呟いた壱の声が脳裏に思い出された。(濃厚、って手の甲にするんじゃなくて、唇にってこと──……) この発言をしたって事は、さっきのキスは本当のキスではなくて濃厚でもないって事……?(のうこう、なキスってなに……?) 瞼の裏がザワザワする。 どうして、どうして──期待しているの。 なに、を?──……。  お互いの吐息が重なって、お互いの唇が触れる寸前、その時── ピンポーン。 インターホ
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:026

 ピタっと動きが止まって、二人同時に玄関を見る。 キスをしないで助かった、という気持ちよりも何故だかしょんぼりとした気持ちが胸を渦巻いていて葵依は激しく首を横に振った。どうして残念がっているのかな。  返事がないからか、またインターホンが鳴った。それから、 ドン! ドン! ドドン!!  と尋常じゃなく玄関を叩く音が響いて葵依は驚いてビクッと肩を揺らした。 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!「葵依ちゃん!! だいじょうぶ!? 葵依ちゃん!! 葵依ちゃん!! その男は誰だ!?」 ドアを殴る音と男性の声……お隣の大学生のお兄さんだ。何をそんなに心配しているんだろう……? 葵依は壱の下から這い出て、立ち上がった。残念な気持ちに蓋をして、突然現れた大学生のお兄さんに「助かった」と胸を撫で下ろす。 自分の名前を叫びながらドアを叩く音を聞きながら玄関へ行こうと足を進めると、背後からグイっと手首を引っ張られた。足が絡んで転びそうになるも、腰を支えられて転ばないで済んだ。気付けば白い背中が目の前にあって、何かから庇ってくれているようだった。「壱さん?」「俺が出る」 壱からそう言われて葵依は面食らった。「お隣さんですから私が出ます。何だか尋常じゃないくらい焦っていらっしゃいますし……」「こんな夜中にインターホン鳴らしてドアを叩いて大声で名前を叫ぶ方が尋常じゃない」 壱の口調が重く葵依は口を閉ざした。「今まで夜中にインターホンを鳴らされたことは?」「あ、っと……二、三回くらい。寝てたので、夢現で現実かどうか分からないですけど……」「クソ」と悪態を吐かれて葵依はヒュッと息を呑んだ。頭から爪先まで冷えて行く。きっと自分は酷い顔をしている──それを肩越しに振り返った壱から見られて「葵依に言ったんじゃない」と穏やかな口調で弁解
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:027

  ──五分。  建て付けが悪い玄関が開く音と鍵を掛ける音。靴を脱ぐ音に、ぎしっと軋む足音が近付いてくる。 祈るように両手を胸に当てて玄関を見守っていると、静かにドアノブが回り、静かに開いた扉から見えたのは携帯電話を片手に握った壱だった。「壱さん!」「納得した様子で自分の部屋に戻ったよ。二度と騒がない筈だ」 言葉の節々が不穏な空気を纏っているような気がしたものの、壱からニッコリと穏やかに笑いかけられて、気のせいかと思って葵依は小さな笑みを返した。 二人とも元いた場所に戻って腰を下ろした。葵依は相変わらず正座だ。「そうだ」と壱は携帯を葵依の前に差し出した。最新機種の携帯を見下ろしたまま、葵依は首を傾げる。「連絡先を教えて欲しい」「れんらくさき?」「会えない日は声を聞きたい」「こ、え……」「俺は聞きたい……葵依は俺の声を聞きたくないか?」「き、聞きたい……です……」 ゴニョゴニョと口の中で返事をする。隣に座る壱が嬉しそうに笑ったから聞こえていたようだ。 壱の誕生日まで三ヵ月の間は会えないと思っていた葵依は、壱から「葵依の声が聞きたい」と言われ、ニヤけ過ぎて頬が痙攣しそうだ。必死に表情筋を殺そうと口を閉ざすも唇がピクピク動く。しかしそれはリュックから取り出した携帯画面を見て治まった。「あっ」と慌てたような口調を聞いて壱の片眉が上がる。そのまま葵依の携帯を覗き込むと着信履歴とLIMEの受信履歴が三桁を超えていて壱の眉間の縦皺が増えた。「忘れてました……」「どうしましょう」と青褪めながら携帯を見つめてアワアワしていると「深呼吸して落ち着け」と壱から背中を擦ってもらう。何度か擦られていると落ち着きを取り戻して、葵依の顔色は戻った。「私が電話するって言ったのに……電話がなかったから、叔父さんと楓君が
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:028

「楓君に送りました」「楓君? なんで?」「なんで、って……たまたま楓君のLIMEのアイコンを押しちゃったから……」「だから、なんたら君に送ったのか? 大学生だっけ?」「私の2個上です」「なんたら君は彼女いる?」「えっと……多分居たような」「居なかったような」と葵依は視線を彷徨わせた。間髪入れずに質問をされるから取り調べされている気分だ。 しかも、彷徨わせた視線に壱の視線が追いかけるように動いて、葵依はタジタジだった。「変なことに使われたりするんじゃないか?」「へんなこと? 私の写真をですか……?」 質問の意図を掴めずに「どう変なことに使うんですか……?」と葵依は首を傾げると、壱は口を曲げたまま押し黙った。 眉間に皺を寄せてどこか不機嫌そうだ──私、何か気に障ること言っちゃったかな……? 自分の言動を思い出しながらオロオロと壱を見つめていると、携帯を握った彼の手がゆっくりと上がった。  携帯のカメラを向けられて、葵依は腕で顔を隠す。その瞬間にカシャッ、というシャッター音と壱の不服そうな声が上がった。「な、んで撮るんですかっ」「俺も葵依の写真が欲しい」「私がちゃんとお家に帰りついているかの確認の写真ですっ」「彼女の写真が欲しいって思うのは当然だろ?」「か、かのじょ……」 ポッと顔が熱くなって、腕を少しだけ下げて壱を見ると……眉間の皺はなくなっていて、頼りなさげに八の字に眉が下がっている様子は捨てられた子犬のようで。「大好きな葵依の写真が欲しいなぁ」 首をちょっとだけ曲げてジッと目を見つめられ、下げていた腕を咄嗟に上げて視界を遮断した。悲しそうな表情もキレイで……というより可愛い。「世間一般的に、彼女の写真を待ち受け
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:029

「へっ!? 今のはちゃんと撮れてませんよ!」 目線を送った瞬間にシャッターが切られたのだ。変なタイミングで撮られたに違いない――葵依は壱のスマホを覗き込む。先程の写真を待ち受けにしようとしているところだ。「これ、すごく不細工です! 間抜けな顔をしてます!」 壱から携帯を取り上げようとしたら、サラりと躱されて背中を向けられてしまう。今度は背中越しに手を伸ばして取ろうとしたら、それも華麗に躱されてしまった。「目が覚めたら、この写真を一番最初に眺めるよ」「な、なにをおっしゃってるんですか」と葵依はつい呆れたような声を出してしまう。壱は気にした様子はなく、ニッコニコでご機嫌な様子でスマホの画面を嬉しそうに眺めている。「せ、せめて加工とかして下さい……」「今のままが一番可愛い」 満足している壱の姿を見て、恥ずかしくて葵依は目を逸らした。ふと、自分も壱さんの写真を撮って待ち受けにしたい、と思ってしまう。(私も、写真を眺めていたいな……。きっと、お願いしたら撮ってくれるような気がする) しかし、それを口にするのは憚られた。(これは凄い我儘かもしれない……。写真を撮られるの嫌いな人かもしれないし) そう思った瞬間── 彼の携帯の待ち受け画面は歴代の彼女を飾っていたんだ、と思うと、どうしてかモヤっとする。 自分よりも年上で、顔立ちが整っている壱が今まで彼女がいないなんてあり得ない、と葵依は思った。 葵依は壱からクレーマーを撃退してもらった日から、壱が店へ入ってくる姿を見る度に髪の毛を手櫛で整えたり、壱を目で追って、レジ台から商品が陳列した台を眺めている横顔を覗いたり。レジへ立たれるとドキッとして「113番」という声を聞いて心臓がキュッと締め付けられたり……。 レジが『お会計セルフ』に変わる前は、お金は手渡しで指が触れ合う度にドキドキしていたし綺麗に整えられた爪を持つ指先に触れられて、頬を染めて──それらは全て無意識だった。母親と同じ
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:030

(そ、そうなんだ……初めて知った。彼氏なんて今までいなかったから知らないのも当然だよね……) 流行りに疎い葵依は壱の言葉を信じた。親友の万里も彼氏の写真を待ち受けにしていたのを思い出して、それが常識だと信じてしまう。 写真を撮ると意識した葵依は前髪を手櫛で整えながら、「わ、かりました……」 と葵依は言った。 悲しげな顔が嘘のように満面の笑みになった壱から携帯を向けられる。 ウキウキな壱を見ていたら騙されたような気分に陥った。でもそれは、彼の笑窪付きの笑顔を見て、浄化されてしまう。 楓に送った写真と同じウサギのポーズをしたら「他のポーズが良い」と却下されてしまった。 何故ウサギにしたかと言うと「今年の干支が兎だから」という単純な理由からだ。何でも良いと思ったものの壱が頑なに「嫌だ」と言い張るので、葵依は腕を組んで目を閉じた。そうして、考えあぐねた結果──顔の横にピースを作る。 至って普通……のポーズになってしまったことが恥ずかしくて、おまけにピース姿で目線を送るのが恥ずかしい。 葵依は携帯ではなく畳の目に目線を送った──案の定、目線をくれ、と言われておずおずとカメラへ目線を上げた瞬間、カシャッという音とフラッシュのライトが点滅する。「ありがとう。すげー良く撮れた」「へっ!? 今のはちゃんと撮れてませんよ!」 目線を送った瞬間にシャッターが切られたのだ。変なタイミングで撮られたに違いない――葵依は壱のスマホを覗き込む。先程の写真を待ち受けにしようとしているところだ。「これ、すごく不細工です! 間抜けな顔をしてます!」 壱から携帯を取り上げようとしたら、サラりと躱されて背中を向けられてしまう。今度は背中越しに手を伸ばして取ろうとしたら、それも華麗に躱されてしまった。「目が覚めたら、この写真を一番最初に眺めるよ」「な、なにをおっしゃってるんですか」と葵依はつい呆れたような声を出してしまう。壱は気にした様子はなく、ニッコニコ
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