Masuk「毎日毎時間毎分毎秒幸せにする。死んでも」 大学受験を控え、アルバイトを辞めた帰り道。葵依は常連客・金城壱から告白される。 二年前、クレーマーから自分を助けてくれた人。亡き母と同じ煙草の香りがする人。 その優しさに惹かれ、葵依は壱の想いを受け入れた。 しかし彼は、二年間の片想いを拗らせた超が付くほど愛が重い男だった。 交際初日から結婚計画。 将来設計は完璧。 逃げ道は存在しない。 けれど壱は誰よりも優しく、誰よりも甘く、誰よりも葵依の幸せを願っている。 愛されることに慣れていなかった少女が、本当の幸せを知っていく長い恋の物語。
Lihat lebih banyak 高校一年生から二年間勤めたコンビニのバイトを
髪を洗ってもらうはずだったのにどうして背後から壱が自分のそれを擦りつけているのか……この状況が理解できない。「わ、わたしのこと、からってますかっ……?」 変な顔してる、って言ったり情けない姿を面白がったりしているから、面白いと思っているのかも……。 「からかってない。ただ……俺が盛ってるだけ」「分かるだろ?」と壱のソレに割れ目をなぞられて葵依は息を飲んだ。「昨日、これが入ってきたの覚えてる?」 葵依は首を横に振って否定した──ものの、本当は覚えている。 昨夜よりも頭はハッキリしているから、割れ目をなぞられる度に、挿入時の痛かった記憶が脳裏に映し出される。ただ、痛みが快感に変わってからの方が実はあやふやだった。でも、壱に腕を離してと言われて、強く拒否した記憶は残っているし、膣に射精された時の熱い記憶と満足感は覚えていて……。 固い切っ先に、柔らかい媚肉の間を擦られて葵依は目を瞠った。壱の腰が前後に揺れる度に切っ先が、蜜口へ侵入しようとする。ただ、切っ先だけで肉茎までは入らないものの、壱が少しでも位置を間違えれば全部埋まってしまいそうだ。「いれちゃ、やだっ……」 昨夜のように、全部入れるつもりじゃないのかと葵依は考える。葵依の腰を掴んで自由を奪い、決定権を持つのは壱だ。その決定を下されてしまったら……夜よりも頭がハッキリしているんだから、全部憶えていてしまう。そんな中可笑しな事を口走ってしまったら人前に出れないかもしれないし、自分がどうにかなってしまいそうで怖かった。 「挿れない。擦るだけだから」「いたいのは、いやぁ」と首を横に振ると、困ったような声が降ってきた。「痛くしない。気持ちよくしてあげるから」 この言い方は……止めるつもりはない。
「シャワー浴びる?」 浴びたい、そう思って葵依はコクリと小さく頷くと「よし」と壱に抱えられて廊下に出た。 壱にの肩に顎を乗せてぼんやりしていたら、浴室の前で止まった。 視界に見慣れない物が入って、葵依はその一点を見つめる。ドアポストを隠すように縦縞模様のハンカチが玄関ドアに貼ってあった。首を傾げていたら、床にそっと下ろされる。「ドアポストにハンカチが貼ってあるんですけど……」「万歳できる?」 被さるように訊ねられて、壱を見上げた。葵依はきょとん、として、「できますよ?」「して」と目配せされて、葵依は両手を上げた。「ありがとう」とにニッコリとした微笑みを見てすぐ、腹が涼しくなる──それから視界が布で遮断され、明るさを取り戻した時はシャツを脱がされて素っ裸にされた。 「裸になっちゃいました!???!」 真っ赤になって、小さな胸を両腕で隠しながら壱に背中を向けた。(どうして、脱がされたの!?) 「まぁ、今脱がしたからな」 パサッと音がして床を見ると、さっきまで着ていた服が床に投げ捨てられていた。「一緒にシャワー浴びるって言ったじゃん。それに髪も洗ってあげるって」 言ってた。 ──って、あれ? そう言えば、私、断ってない。「だだだ、だめですよ! シャワーは一人で入りますっ」「なんで?」「一人で入るものです!」「小さい頃は、母親と入ってただろ?」「それは子供の時だけですっ」「髪洗って欲しくない?」「恥ずかしいですっ!」と叫ぶと「もっと恥ずかしいことしただろ?」としれっと言われて、昨晩のことを思い出してしまう。 「昨日の昨日で、腰も痛いだろうし……葵依を労ってあげたいんだ」「い、労ってあげたいなんて、そんなっ」 首を振って拒否を示すと、背後から声が聞こえなくなる。代わりに布擦れの音がした。
「っ!?」 不意に血管が浮いた手が自分の右手に重なってくる。 艶めいた低い声が右頬の近くで聞こえた。 「いっ、壱さん!?」 掴まれた右手はそのまま、壱の掌が重なってきて指の間に彼の骨ばった指が絡んできた。「あ、あのっ」「ん?」 首筋に顔を埋められて、頬に壱の前髪が掠って、なんだか擽ったい。「わたし、汗臭いから」「……全然」 クン、と鼻先を動かされて葵依は青褪めながら変な声を出してしまう。距離を取ろうと首を右に傾けるも壱の顔が跡を追ってくる。 暫く続いた攻防戦に根を上げたのは葵依だった。大した動きじゃないのに疲れてしまう。「一緒にシャワー浴びる?」「いっしょにシャワーを浴びる……?」 壱の言葉を復唱して、理解が追い付いて葵依はみるみる顔を真っ赤にする。 何を言い出すの……と言い返したかったが、昨晩の壱の胸板とか腹筋を思い出してしまって、上手く喋れなかった。 「髪を洗ってあげようか?」「髪……」「ヘッドマッサージもしてあげる。俺、マッサージは得意なんだ」 葵依は美容院には行かずに1000円カットで済ませている。髪は洗わずにカットオンリーの店だ。髪は切るだけだし、洗うのは家でも出来る、と葵依はそれで満足していた。そんな彼女が一度だけ晶子に連れられて、高級美容室という未開の地へ足を踏み入れた。そこは数多くの芸能人が訪れる美容室で、個室スパルームでの施術やVIPルームを併設までされているような会員制の美容院だ。葵依が行く場所とは違い、静かで温かみがある洗練された空間だった──が、葵依には居心地が悪かった。借りてきた猫のようで終始緊張していたのだが……他人から髪を洗ってもらうのはとても気持ちが良かった。髪をカットするだけなのにヘッドマッサージに、フェイスマッサージ、終いには肩までマッサージをして
※ ※ ※ ブーっ、ブーっというバイブ音が遠くで聞こえて、葵依は重い瞼を開いた。 瞼と身体が重い。 ぼんやりと覆っていた膜が薄らと広がるように視界が開けていく。 ぼやけた視界に、見慣れた丸型蛍光灯が見える。 カーテンの隙間から青白い夜明けの光が入っていて、いつも自分が起きる時間よりもほんのり明るい気がした。 バイブ音がずっと頭に響いていて、スマホを手に取ろうと思い重い瞼を擦って、身を起こそうとしたら下半身が鈍い痛みに襲われて、動きを止めた。(身体が怠い……腰が痛い……) 寝ぼけたままよろよろと半身を曲げて、テーブルに視線を向けたら、このタイミングでバイブ音が止まった。「アラームかな」 葵依は6時にアラームを設定している。と、言ってもアラームが鳴る前にいつも目が覚めてしまうのだが。 今日は、アラームが鳴ってから起きてしまった。珍しいなぁ……。 背伸びの為に両腕を上げようとしたら、腰と下半身に鈍痛が走って葵依は表情を歪めた。 それに……シャツを着ていて、布団の上で寝ている……昨日の私は確か裸のまま気を失った……。 それから誰かの気配がする。 恐る恐る、葵依は視線を右下へ──。 「ひぃえっ」 視界に飛び込んできた人物を見て変な声が出てしまった葵依は慌てて自分の口を塞いだ。 昨夜の一部始終が甦って、みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていく。 寝顔も作り物みたいにキレイな顔の壱さんと……。 すごくイヤラしいことをした……。 夢かと思って、口内炎を舌先で突いたら、痛い。 夢じゃない。身体に残った痛みと違和感も、現実で最終的には私が許可を出した事によって生じたものだ。 即ち、隣に居る人は本物。 きっと、彼が
「……照れ隠し?」 目をパチパチさせる葵依に113番は「あぁ」と短く答えた。 「下田さんのバイトは今日が最後だから声を掛けようと思ったんだ」 「あれ? 名前?」 どうして名前を知ってるんだろ? と首を傾げると 「バイト中、名札を見てたから」 と男は自分の右胸を指した。バイト中はその場所にネームプレートを差すのだ。 「そうなんですね」 納得して頷く。 名前を知られていたなんて、と思うとどうしてか嬉しい気持ちが沸いてきて口元が緩んでしまう。 「俺は壱だ」 「いちさん?」 「あぁ」と113番──金城 壱は頷いた。名前を呼ばれただけで
俺は──この子に今まで話しかけた事なんぞ一度もない。 ただ一度だけクレーマーに絡まれている所を助けたが……その後も声をかける事はしなかった。 『昨日は助けてくれてありがとうございました!』 と頭を下げられ。 俺はなんと答えたか。 『あぁ』 だけである。それで会話は終了した。それ以来会話をした事がない。クレーマーの男に掴まれていた右手首はあれから一カ月も経つのに薄らと跡が残っていた。『大丈夫か?』という言葉さえかける事が出来なかった。 それから数日後。コンビニへ行くと、お礼だと言ってプレゼントを渡された時は、飛び回ってその辺を歩く赤の他人にも自慢をしたいくらい嬉しか
(本当は続けたかったけど──…) 葵依は特待生だ。常に学年十位以内を保っていて、一度でも十一位に下がると奨学金が打ち切られてしまう。今まではバイトと学校を両立して上位を保てていたが、葵依には将来の夢を叶える為にどうしても進学したい大学があった。その為、今の勉強量では足りないと思い泣く泣くバイトを夏休み前に退職する事にした。幸い、バイトをしたお金は貯金をしているから生活費には困らないし勉強に専念する事が出来る。 「あれ……? 私が煙草の銘柄を間違えて渡したからじゃないんですか?」 「ん?」 男は首を傾げるのを見て、葵依も男と同じ向きに首を傾げた。 「私、113番さんに違
113番というのはコンビニで売られているタバコの番号だ。葵依を呼び止めた男は113番の銘柄をいつも買う常連の男で、葵依は彼がいつも買う銘柄の番号で呼んだ。番号で呼ばれた男は目を見開いた後不機嫌そうに口を曲げた事に葵依は気付かない。ぺこりと頭を下げたからだ。頭を上げると、そこには女のような成り立ちの甘い顔があった。 「どうされましたか? もしかして、私……違う煙草を渡しちゃいました?」 葵依の問いが聞こえているのかいないのか……113番は無言のまま葵依を見下ろした。 葵依がバイトを始めた頃、この113番は葵依がレジでクレーマーに絡まれている所を助けている。 それは二年前に遡る。