All Chapters of 私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。: Chapter 31 - Chapter 40

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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:031

「誰かが夜中に家を訊ねてきても、絶対に開けるな」 さっきまで、はしゃいでいたのが嘘のような真剣な声だ。「知っている人でもですか? 叔父さんとか楓君とか……」「一人暮らしの葵依に連絡が付かない時は心配して訪ねてくるだろうけど……連絡なしに訪問するようなそんな非常識な人間じゃないだろう?」「はい」と葵依は小さく頷いた。彼らは育ちがよく非常識なことはしない。それでも葵依が電話に出なければ警察を引き連れてここへやってくるだろう……今日はその一歩手前だった。 携帯を両手で握り締めたまま親指同士をくっつけたり、引っ張ったりしていると壱から携帯を取り上げられた。 それから壱の手が重なってきて葵依は動きを止めた。壱の手は、筋肉量が多く角ばってゴツゴツしていた。指が太く関節の節や筋が目立ち、血管が浮き出ている──。(私の手と違う手と手を繋いで……歩いて帰ったんだ……) 顔を上げると、穏やかに微笑んだままの壱と目が合った。 不意に彼の指が伸びてきて、葵依の頬に触れる横髪を耳後ろへかけた。指先が耳輪に触れてゾクりとする。今度は反対の横髪も右と同じようにしてもらった。「髪、手触りが良いな」「安いリンスインシャンプーを使ってます」 クスッと笑われたが、馬鹿にしているような笑いではなく。葵依の発言全てを愛しいと思っての漏れたものだった。 でも、葵依にはその違いが分からず、呆れられたと思って傷ついてしまう。全身安物を身に纏った自分が、生まれて初めて恥ずかしいと思ってしまった。「なぁ……提案があるんだが」「ていあん?」(シャンプー、トリートメント、コンディショナーを使えって言われるのかな……) 葵依は、どれで洗っても変わらないと思っているため、リンスインシャンプーしか使っていない。それ以前に、全部揃えるとコストが掛かる。 見当違いのことを葵依は思い浮か
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:032

 「トリートメントとコンディショナーは使った方がいいですか?」  言われるよりも自分で聞いた方が痛みが少ないかもしれない、そう思って葵依は壱へ訊ねた……ものの。 「リンスインシャンプーは職場のシャワー室に備え付けられているから夜勤明けや泊まり込みの時に使うけど、その二つの必要性を感じたことはないな。自宅の風呂へ入る時はあるから使うってだけだし」「使った方がいい」とか、「ちゃんとケアした方がいい」とか言われることはなく、拍子抜けしてしまった。「俺も使う」という言葉に葵依はホッとする。 「夜勤明けや泊まり込みでお仕事するんですね」「一週間から出張で長くて一ヶ月とかあったな……」 激務で大変そうだ。身体は持つのだろうか。(そんなに激務なのに八月は会えるのかな……) 会えなかったら、寂しいな――と思っていると、不意だった。 葵依の首筋に柔らかいものが当たった。「ひゃっ!?」 葵依は驚いて声を上げてしまう。 手を握られたままの葵依は、自分の首筋に埋まった壱をどうすることも出来ずに固まってしまった。 その柔らかい唇の感触が、こそばゆい感じがして葵依は笑い声を上げた。「フッ、フフッ」 何度も啄むように唇を当てられて、それから壱の髪の毛が鼻先に掠って擽ったい。 「かわいいな……」 笑うような吐息で壱は呟いた。 葵依の細い首筋に啄むように何度もキスをしながら、「擽ったい?」と壱は訊ねる。「は、はい……フフッ」 葵依は壱が自分にじゃれているのだと思った。 優しく触れる程度の唇の感触と、いつのまにか自分の手から離れた壱の手は自分の腰のラインを撫でている。葵依の脳裏に幼い頃、母からこしょこしょと擽られてふざけ合った記憶が蘇った。 例え、執拗に腰を撫でられてゾクッと腰に震えが
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:033

「そうか」「は、はい」 さっきまでは擽ったいだけだったのに、母親との思い出の擽ったい感覚が今では消え去っていて、壱の手から伝わる弱い刺激の方が強い。優しい手つきなのに、指先は触れるか触れないか程度なのに、感じ方が妙だった。「くすぐりとは違う……?」 またも同じ質問を返してみる。どうしてか自分の息が微かに上がっているような……声が上擦っているような気がした。「…………」「えっと……壱さん……?」 無言のままの壱が気になって葵依は壱を見ようとするも、ぎゅっと抱き締められてしまう。彼の手で自分の耳を塞がられてしまって、身動きできない。仕方ないから目だけを動かすも彼の濡れたような黒髪しか映らなかった。 抱き締めたまま壱の動きが止まってしまって、肩と首筋の間に埋もれた彼の吐息を感じるだけになってしまった。「壱さん?」 もう一度名前を呼んで、そっと壱の頭に触れてみる。ピクリと彼の肩が上下したが、何も返さなかった。 葵依は壱の頭をなでなでと数回撫でてみた。 生まれつき茶髪の髪は軟毛な癖にクセが付きやすくて、毛先がクルンと巻いてしまう自分の髪とは違って、壱の髪質は艶があって直毛だ。試しに指で梳いてみる。サラサラな髪の感触が楽しくなって、葵依は彼が何も言わないのをいいことに何度もその髪を指で梳いながら彼の頭を撫でた。(楽しい。さっき、壱さんが私の髪を触っていたのって自分と髪質が違うから、私のように楽しくなったのかも) 身長差があるから、葵依がこうして壱の髪に触れられるのは壱がしゃがんだ時だけだ。こういう機会は二度とない、そう思って許されるまでは、と葵依は緩やかな笑みを口元に浮かべながら、優しい手つきで彼の頭を撫で続けた。 突然──生温かい何かから首筋を舐められ……おかしいと思った時にはもう遅かった。 「ひやっ!?」 ねっとりとした舌の
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:034

 警戒心もなく、二年間を埋めるように打ち解けた穏やかな雰囲気は、壱にとって、とても居心地が良かった。 壱は、今夜は葵依に指一本触れる気は一切なかった──ものの、そんな決意はすぐに崩れ去ってしまったが……壱が恋に堕ちた葵依の笑顔を間近で見たら抑えが効かなくなって、自分の決意なんぞ何処かへ置き忘れてしまい――唇を奪ってしまった。隙だらけだったから簡単に奪えた。一瞬、隣の部屋にある遺影と目が合ったような気がして罪悪感は生じたものの……息継ぎが出来ずにいっぱいいっぱいになっている葵依を見ていたら、後ろめたい気持ちは、いずこかに消え去ってしまう。 正直、葵依へキスをして押し倒していた頃は、キス以上のことをするつもりなんぞこれっぽっちもなかった。唇は奪ったものの、「肉体関係は結ばない」という決意は消えてはいなかった。  細くて白い薄肌の首筋へ唇を当てられても、クスクス笑う葵依を見て、自分が話した防犯講座は役に立っていないような気がしたものの邪気のない葵依に愛しさが溢れた。 と同時に、 (思っていた以上に、危機感が薄いな……)  と思いはしたが……。 葵依がバイト先の男から肩、背中に横を通る度に触われている姿を目撃したことがある。その度に腸煮えくり返っていたものの、葵依は全く気が付いておらず──当の本人は商品の陳列に夢中だった。『キスは許可制』『可愛い発言は許可制』『名前呼びは許可制』 だと自分で言っていたにも関わらず、キスされた後「可愛い」も「葵依」も許可を貰わずに何度も発言したが、葵依本人はスルーしてしまっていた。 キスされた後なんだから色々と構えるべきだし、男から髪へ触れられたら警戒すべきだ。擽られている感覚と自分の身体に起きている感覚の区別がつかない葵依に対して不安を感じてはいても、今まで聞きたかった「いらっしゃいませ」以外の言葉と、笑い声、驚きの声音、上擦った声音──予想に反して下半身へきた──これ以上の触れ合いは止めた方がいい、まだこの頃は分別出来ていた。それでも葵依
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:035

「既成事実を作る」 自分を見下ろす壱の口から聞こえたそれに葵依は微かに首を傾げて見せた。「きせいじじつ……?」「俺と結婚してくれ」 葵依は驚いて目を瞠った。 驚きの余り、凄く変な顔になっていると思いつつも、どう取り繕えば良いか分からず葵依は口を開けたまま間抜けな顔をして壱を見上げる。「壱さんは誰と結婚するんですか……?」 聞き間違いかもしれない、そう思い直して葵依は訊ねた。決して聞き取りにくい声ではないが、状況が読み込めない葵依は念の為に確認をする。 「ここには俺と葵依しか居ないだろ?」 たしかに……。「葵依が十八歳を迎えた日に俺と籍を入れよう」「どどど、どうしてそんなことに!? きょう付き合ったばかりですよ!」(まだ壱さんを好きになっていないのに、結婚なんて言われても) 「俺は末っ子で跡取りじゃないから金城の名は捨てられるし、白石になっても構わない」「白石壱……イ音便が多くなっちゃう!!」 やっと言えた言葉がそれで、ハッと口元に手を当てる。「違う……そんな事を言いたいんじゃなくて」と慌てふためいた葵依は頭の中を整理しようと思って眉間に皺を寄せながら瞼を閉じた。 そんな葵依の後頭部と腰から手を離して畳に寝かせると、壱は彼女の顔を挟むように肘をついて、両膝は腰を挟むように身体の上で四つん這いになる。これで上下と左右に逃げ出す事が出来なくなった。(ど、ぉして突然プロポーズをされたの……?) 「十二月二十四日、入籍と一緒に式も挙げよう。今年は土曜日だから学校は休みだし問題ないだろ? 俺の仕事は土日祝関係ないから土曜日に式を挙げても参列者に問題ない。お色直しは三回くらいが普通か?」(問題大あり……では……?)「葵依のウェディングドレス姿は妖精みたいで、きっと可愛いんだろうな」 異次元の言葉でも壱は発しているようで、理解が追い付かない葵依は「クリスマスの結婚式は人気だろうから早めに挙式の予約をするべきだな」という壱の言葉の意味も分からなかった。 何をどうして、「キスの延長線」の話から結婚式の話になったのか。(……キスの話はどこへいったの……? 結婚式の誓いのキスとかけてる……?) ハッ……! とピコンと閃きそうになったが、何をどうかけているのか答えが見つからず、その電球はパッと葵依の中ですぐに消える。 案の定、考えが
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:036

  語尾が段々と小さくなる。どうしてなのか胸の奥が小さく痛んだような気がしたからだ。自分の本当の気持ちを告げたのに、どうして胸が痛むんだろう。 「わ、私……結婚なんて、したくない」 恋愛とか結婚とか十七年生きてきた中で一度も考えた事がなかった。葵依はいつでも勉強一筋で、彼女の中にある目標は『大学受験合格』のみだ。それは絶対に揺るがない。壱と大学受験、どっちを取るかと言えば後者だ。 「まぁ……もちろん断られる事は分かってた」 肩を竦めながらそう呟いた壱を葵依はポカンと見上げる。彼は振られた身であるものの、気にしている様子はなくて。(……どうして、私がショック受けているんだろ……?)「葵依が好きだから俺は結婚をしたい」「す、き……!?」「今日、何回もそう言っただろう?」「好き」と言われて、落ち込んでいた気分が嘘のように晴れる。こんな自分が信じられなくて葵依はブルブルと顔を左右に振った。「俺は葵依が好きだ。好きだから、将来結婚をしたい。しかし、それまでにもし葵依に何かあって命を落とすような事が起きたらこれから先、生きていけない。結婚前に事件が起きてしまう前に保護をしたい」「な、なにも起きません」「今まで何も起きなかったのは運が良かっただけだ。俺が今日の帰り道に話しただろ? そういう危険がいつ自分の身に降りかかるか誰にも分からない、って」「分からないけど、壱さんだって分からないでしょう? あるか、ないかなんて……」「俺は分かる」「え?」「分かる」 有無を言わせない程にきっぱりと断言されて、葵依は口を閉ざした。「葵依はまだ十七だから結婚はできないが……ここで約束を取り付けたい」 『結婚をする』という事実は、どうやら壱の中で確定事項のようだ。しかし、葵依の意思を無
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:037

  葵依にしてはきっぱりと、告げた。目を閉じてではあるが。 壱は、それでもめげずに「する」と言い張る。「結婚もしません!」と負けじと叫んでみるも「する」と返ってきた。 「葵依が異を唱えても俺は既成事実をこれから作る」 頬を包んでいた手の感触が離れて、フト身体が楽になったような気がした。葵依はそろそろ目を開けるべきかと思った。「葵依を俺のモノにしたい」「一応、彼女ですよ」 フフ、と笑う──あれ……。プロポーズを断った後に「一応、彼女ですよ」発言はなんだかおかしいかな……。「モノにしたい」にその返しは合っていない気がする。「私は物じゃない」とか言い返すのが正解だったかな……。 「セックスする」 思考が別の方向へ行ってしまっている葵依を引き戻すのに充分な単語だった。 「だれとですかぁ!!!?!?!?」「葵依しかいないだろ」「そんにゃっ、あでっ」 ガジッ、と唇の裏をまたもや噛んでしまう。 噛んで口内炎になってしまった箇所をまたも噛んで、葵依は痛みと壱の発言で吃驚して目を開けると、壱の顔がどんどん近付いていて──……。「んもぉーーーーーーっ! セっ、セッ、ダメですっ! し、ません……!!」 壱の動きを止めようと葵依は両手を前に差し出すも、壱から払い除けられた。「無っ……!? んーーーーッ!?」  無理と言いかけて、葵依の唇は壱の唇に塞がれた。黒い瞳に真っ直ぐに射抜かれて、葵依は逃げるように目を閉じた。 壱から逃げようと顔を横に振っても壱の両手は葵依の頬を包んでいるせいで動けず、固く結んだ唇に彼の舌の侵入を簡単に許してしまった。身を捩ろうにも小さい身体に壱が重なるように覆い被さっていて葵依の自由は封じられてしまっている。舌は彼女の唇の裏を蠢いて、口内炎に当たった。ズクッとした痛みが走って、口を
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:038

  説得力もない反論だ。葵依を見ればキスだけで腰砕けになっているんだから。  口元だけニンマリ笑った壱が、何もかもお見通し、と言っているように見えて、憎らしく思って彼を睨みつけた。大きな目はジト目になっていても、潤んでいるせいなのか怖さは微塵も感じないし、唇を突き出してのその表情は可愛らしさしかない。「全部裏目に出てる」と心の中で壱が思っているなんぞ、やっぱり葵依は思いもしない。「さて」と呟いた壱が葵依の両脚を挟むように膝をついている壱はワイシャツを脱ぎ始める。すると葵依から悲鳴が上がった。  筋肉を一つ一つ数える事が出来る引き締まった身体を目にして、赤面した葵依は、顔を覆い隠す。   「ど、どぉして裸になるんですかぁ!?」 「脱がないと、最後まで出来ないだろ?」 「さ……いごまで!?」 「キスだけで終わると? セックスするって話しただろ」 壱から抱き起されて、ビーズクッションの上に落とされた。そのまま腰が浮いた状態で仰向けに倒され、背中と下半身が床よりも高い位置にある。身を捩ってバタバタと藻掻くとビーズクッションの音がジャリジャリと聞こえた。葵依は茂からビーズクッションをプレゼントされてから実は一度しか使った事がなかった。ジャリジャリという音を聞くと脳がむず痒いような嫌な感覚になるし、座っても位置が定まらずに不安定で、苦手なのだ。今日まで部屋の背景と化していたのだが、腰の位置を高くする為に使用されるとは思ってもいなかった。  藻掻けば藻掻くほど、苦手な音がする。それでも「最後まで」する訳には行かない。いくら恋愛から遠ざかり、男性免疫はゼロで危機感はゼロに等しくてもその言葉の意味は分かっている。「セックス」が分からない程の子供ではなかった──と言っても保健の授業で習った程度の範囲なので、基礎知識しか知らないのだが……。  壱の手が服の裾から侵入し、腹を触れられた事に驚いて葵依は動きを止めた。彼の手が若干汗ばんだ肌を這い上がって行くのを感じて、手を伸ばすも──届かない。指先が腕に掠った程度で虚しくも空を切った。背中を起こそうとしても、少し浮いただけですぐにビーズの上に舞い戻る。何度もチャレンジしたものの
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:039

  帰り道に壱が話していた事を思い出して、葵依は咄嗟に叫んで説得を試みた。それが功を成したのか、壱の手がピタリと止まる。 (考え直してくれた……?) 身を起こせない葵依は、背中を少し浮かせて目だけを動かして壱の様子を息を呑んで彼の手が服から出て行くのを見届けた。 交渉は成功したようだ。 はぁーーーーーーーっと、脱力してビーズクッションに身を沈めた。どうなる事か、と思っていたら、無事に終わったようだ。もしかしたら、自分は交渉の才能があるのかもしれない、とまで思った。遥が亡くなった後、茂の家へ引っ越さないで済んだのも説得が上手くいったからだ。 自分の貞操を守れた。 今日、告白されたばかりなのに、セ……をするなんて展開が早過ぎる。  葵依は全て終わった気である。すると、壱の顔が目の前に現われて二人はパチリと目が合った。「良く覚えていたな。エラいぞ」 壱からナデナデと頭を撫でられながら笑顔で褒められて、葵依は面食らった。褒められた事につい照れてしまって口元が綻んで慌てて口を固く結んだ。緊張感がない自分に喝を入れるも全て遅かった。 「でも、考えは変わらない」 と壱は不穏な言葉を発し、服の裾を思いっきり胸まで捲し上げた。 日に焼けていない白い肌と、ノンワイヤーの水色のブラが壱の目に晒される。ゴクリと唾を飲み込む音が葵依の耳に届いた。「ダメですっ」 羞恥に肌が赤くなって、手で胸を隠そうとしたら「隠すな」と簡単に払い除けられて、頭上で両手を片手一本で拘束される。 怯えた目をしていると、目を細めた壱から瞼にキスを落とされた。 肌に触れないよう指でブラジャーの線をなぞる様に動く。たまに指先がかほのかに膨らむ胸へ当たって、葵依は小さく震えた。 「青系の色なら、全部好き?」  壱からそう訊ねられて、葵依は小さく頷いた。 「好き……葵依って名前に入っている
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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:040

 「……あっ」 抱き起されたかと思いきや、胸元まで捲し上げられた服と、知らぬうちにホックを外されたブラが一緒に脱がされて手際の良さに声を上げた。 自由になった両手を胸の前で交差して前を隠した。元から小さいから、簡単に隠せる。「お話をしていたから何もしないの、では……」「緊張が解れるなら、ずっと喋っていても良い。俺は葵依の声、好きだし。コンビニで、いらっしゃいませ、って言われるとその日はずっと気分が良かった」 優しい笑みを見ると、やはり自分の置かれた状況が夢のように思える。バイト中に覗き見た無邪気な笑顔を見た時は、彼はこんなにも表情豊かで、自分以上に喋る人だなんて思ってもいなかった。 私も、壱さんの声、好き……かも。 テノールの低い声は落ち着いていて聞き取りやすい。葵依の近くにいる茂や楓の声を聞いても、声が好きだなんて思ったのは初めてだったし、自分の声を好きだと言われたのだって初めてだ。でもそれを言葉にして伝える事は憚れた。壱自身を好きではないのに「声は好き」とか失礼だと思う……「笑顔が好き」とか「煙草の匂いが好き」と言ってはいるから今更な気はするけど……。突然告白をされて、母の匂いと同じだからと言ってもこの状況に葵依自身の気持ちが追い付いていないのは確かだし、幼い頃から好きな物を言葉にするのが苦手な葵依には敷居が高過ぎる。今日だって帰り道に壱の笑顔を「可愛い」と言えたのも「煙草の匂いがママと同じだから好き」と言えたのは、葵依が話しやすいような空気を壱が自然と作り出し、聞き上手だったからである。 「ひゃっ!」  胸の前で交差させた腕の隙間から手が侵入してきて、現実だと思い知る。 直接胸を触られた事に驚いて手を緩めてしまえば、簡単に剝がされた。小さな双丘をフニッと両脇から掬い上げるように持ち上げられた。 見ていられずに葵依は顔を両手で覆った。「顔を見せてくれないのか?」 耳元で囁いた声は、脳が蕩け
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