いつから、選んでいたのか。 その問いは、声に出さずとも、私の中で反響していた。 問いというより、すでに答えを知っている人間が、自分に確認しているだけの作業に近い。 私は、町に戻ってきた日のことを思い出そうとした。 父の葬儀。 数年ぶりに帰った家。 変わらない沼。 変わらない空気。 そのときの私は、まだ「観察者」だったはずだ。 町を外側から見て、記録し、言語化する立場。 少なくとも、そう信じていた。 だが、本当にそうだったのか。 私は、最初の違和感を探した。 人を区別し始めた瞬間。 線を引いた最初の記憶。 ――思い出したのは、妹だった。 妹が大学に進学する前の年。 彼女は、町を出ることに迷っていた。 「外って、そんなに違うの?」 そう聞かれたとき、私は答えた。 「違うよ。でも、混ざると大変だ」 その言葉を、私は何の疑問もなく使った。 説明のための言葉だと思っていた。 妹は、首をかしげた。 「誰が?」 その問いに、私は即答できなかった。 答えを持っていなかったのではない。 答えが、あまりに自然すぎて、言葉にする必要を感じなかっただけだ。 「……全部だ」 そう答えたとき、妹は笑った。 「お兄ちゃん、変なの」 その笑いを、私は好意的に受け取った。 だが今思えば、あれが最初だった。 私は、妹を“内側”に入れた。 それは、選別ではなかったと、当時の私は思っていた。 家族だから。 守るべき存在だから。 だが、守るという言葉は、線を引くことと、紙一重だ。 妹が町を出てから、私は町の仕事を引き受けるようになった。 正式な職ではない。 誰かに頼まれたわけでもない。 ただ、話を聞く役。 外から来た人間に、町を説明する役。 役場の人間は、自然にそれを任せてきた。 私が、断らなかったからだ。 川村が来たときも、同じだった。 彼は、境界を越えようとしていた。 知るべきでないことを、知ろうとしていた。 私は、止めた。 暴力ではない。 脅しでもない。 言葉でだ。 線を示し、越えないように、丁寧に。 彼が去ったあと、私は安堵していた。 町が守られたからではない。 自分が、混ざらずに済んだからだ。 その理解に至ったとき、私は初めて、強い吐き気を覚えた。 私は、町を守っていたのではない。
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