「――下げろ」 冷たく放たれた言葉とともに、エリオットは湯気を立てているスープ皿を手に取った。言葉以上に冷たい視線を痛いほど感じながら、今日もまた一日かけて作った料理を拒まれ、苦労を無にされてしまった、と思いながら。 「この俺に、こんな臭いものを口にしろと言うのか? こんなもので俺の魔力が回復するだなんて嗤わせるな、愚かな人間が」 椅子に反りかえって座るその者には、黒羊に似た角があり、その目もまた闇のように深く鋭い光が宿っている。妖しく光る|双眸《そうぼう》のある顔の造りは美術品のように整い、まるで人知を逸している。何故なら彼は、人ではない――魔王だからだ。 「申し訳ございません、魔王様。ですが、このスープには魔力向上の効能があると……」「人間のくせに俺に指図するというのか?」 黒い瞳に鋭くにらみ据えられてしまうと、エリオットは何も言い返せない。事実この城に来て以来、自分がただの人間以外の何者でないことを、いやというほど彼に思い知らされてばかりなのだから。 それでも、自分がやらなくては。たとえただ人間風情がとののしられようとも、自分が彼の、魔王の魔力を回復させなくては母国に明日はないのだから。そしてそれは、自分の存在価値をなくすことにもなるのだから。 「さ、指図ではございません。ただ私は、魔王様のためを思って……」「では聞くが、実際俺の魔力は向上しているとわかるのか? 魔力も持たぬ人間風情に、魔力の何がわかる。それでよく俺の魔力を向上させて見せるなどと言ったもんだ」 魔王の隣に立ちすくむエリオットに対し、次々と冷酷な言葉を投げつけられる。向けられる視線も氷のようで、腹の底が冷えていく。魔王という存在の不興を買い、その苛立ちを一身に受ける恐怖は、これまでのどんな記憶にも属さないほど強烈だ。 でも、とエリオットは皿の縁を握りしめながら思う。でもここで、自分が魔王の許から逃げ出すわけにはいかない。そんなこと
Last Updated : 2026-06-30 Read more