LOGIN儀式の支度としてエリオットを待ち受けていたのは、丁寧な入浴と着替えだった。着替えとして差し出されたのは薄絹のガウン。それを手にしてようやく、エリオットは儀式が何を指しているのかを理解し始めていた。
魔王とこれから臨む儀式――それは、新婚の二人が過ごす初夜、つまり性交を行えというのだろう。
「え、じゃあ私……魔王様と睦み合うのか?」
呟いて思い至るのは、自分が生贄嫁と言う立場であることだ。生贄と言うからには、命がけで初夜に臨まなくてはならないということだろうか、と。
エリオットにこれまで懇意にしたような相手はおらず、そういった経験など皆無だ。最低限の知識として、夜伽の話を聞いたことはなくはないが、それは人間同士のそれである。ましてや、自分が生贄嫁として臨む行為など、知る由もない。そんな何の経験もない自分が、人知の及ばない相手である魔王を満足させられるのだろうか? 不安でじんわりと冷や汗がにじむ。
「でも、もし今からの儀式が上手くいかなかったら……ヴェルクレイン国はどうなってしまうんだ?」
傾く国を立て直すために生贄とされた自分が、儀式を失敗してしまったら。その末路は想像するに恐ろしい。エリオット自身が取って喰われるだけならまだしも、その
命じられるまま、流されるままにここまで来てしまったが、これは想像以上に重い役割を課せられているのではないだろうか。
にじむ不安と恐怖に血の気が引く思いで再びゼフに案内されたのは豪奢な造りの天蓋付きの寝台がある広い寝室だった。恐らくここは魔王の寝室なのだろう。
数本の
どれほど待たされていただろう。満月の光が部屋いっぱいに射し込むころ、ようやく魔王が現れた。
「ほう、逃げ出さずにいたか」
「は、はい……」
「これから魔王たる俺の魔力を復活させる儀式を行う」
「魔王様の魔力を……? 私が、ですか?」
互いの姿も部屋の様子も、どう見ても新婚の初夜であるのに、魔王の魔力の復活を図る儀式を行うという。
ヴェルクレイン国の情勢と魔王の魔力が関係しているとは聞いていたが、それといまから行う儀式がどう関連するというのだろうか。
瞬きも忘れて魔王を見つめるエリオットの問いに、魔王は鷹揚に肯き、そっと顎に手を宛がって上向かせこうも告げる。
「そうだ。お前はこれより俺のために子を孕め。そうして俺の魔力を最大化させるようその身を捧げるのだ」
男性であるエリオットに、子を孕めと命じる魔王の言葉に、どう答えれば良いのか。エリオットは衝撃のあまりに言葉を失っていると、月光を背負うようにして立つ魔王がエリオットに一層近付いてくる。
エリオットと揃いの薄絹のガウンをまとう体は大きく、少なくとも華奢なエリオットよりも頑強そうだ。
「案ずるな、お前が余計なことなど考える間もないほど善くしてやる」
そう片頬を上げて囁く魔王の微笑みに、背筋が凍り付いていく。逃げられない恐怖に、観念するように目をつぶるしかない。
硬く目をつぶるエリオットに、魔王は身を屈めて口付けをしてくる。初めての口付けが人ではないものになったエリオットであったが、その感触が人間のそれと同じなのかはわからなかった。
「ッは、ッふ……ン、ンぅ……」
触れた途端に舌が口中に割り入れられ、乱暴にまさぐっていく。口付けそのものが初めてであるエリオットは、その早急さにただただ乱されるばかりで嫌悪感を覚える。
「ッは、ッはぁ……ッく……ッはぁ……」
「ッあ、うッ……ッふ、ン」
その内に肩をつかまれ、ぐっとそのまま押し倒される。組み敷かれる形のまま口付け合っていると、魔王の手がガウンの布地の上を這うように滑っていく。しかしその仕草は乱雑で押しが強く、エリオットの体は一層強張っていく。まるで鷲づかみにされて握りつぶされそうな気迫さえ感じ、恐ろしくてならないからだ。
それは単純に魔王がまとう気配に恐怖を感じるというだけではなく、魔王の様子がどうにもおかしいのだ。
口付けた辺りまではまだ丁重さを感じたのだが、寝台に押し倒した途端に呼吸がやけに荒々しい。
「ッふー……ッふー……っはぁ、っはぁ、っはぁ……」
気のせいかと思っていたが、そっと目を開けて窺うと、暗がりでもわかるほど魔王の頬が上気しているではないか。
正直、エリオットは自分にそんな相手を性的な興奮を呼び起こすような魅力があるとは思っていない。相手を誘うような言葉も仕草も知らないし、経験すらない。それなのに、魔王はどう見てもいま常軌を逸した様子でエリオットを組み敷いている。
「……魔王、様? いかがされましたか? 具合でも悪く……」
「……だま、れ……いま、お前と、儀式を……す……ッは、あぁ、ッはぁッはぁ」
「魔王様、苦しいのではないですか? 水をお持ちいたしましょうか?」
「よ……余計、気づか、い……など、無用……あ、ッはぁ、ッはぁ」
エリオットの言葉を振り切るように愛撫を続けようとするも、押し付けてくる唇の感触は異様に熱く、尋常ではない。
何かがおかしい。先程までの様子とは一変し、言葉を発するのも苦し気で常軌を逸した表情をしている。目の焦点が合わず、心ここにあらずな顔なのだ。そんな魔王の様子に、エリオットは違った恐怖を覚えた。
「魔王様、一度おやめになりませんか。お熱があるのではな……」
それでもなお努めて冷静にエリオットがそう魔王に手を差し出そうとしたその時、それまで肩で呼吸をしていた魔王が一気に食いつくようにエリオットにとびかかって来た。元より組み敷かれて横たわった体勢ではあったが、覆い被さられて身動きが取れない状態だ。
「ッあぁ! ま、魔王様ッ! ッや、あぁ!」
「ぐるぅ……がぅ……ッがぁ……ッはぁ、ッはぁ」
「ま、魔王様……あの……ッ」
べろりと魔王の舌がエリオットの首筋を舐める感触が気色歩く、肌が泡立つ。このまま食いつかれてしまいそうな恐怖を覚え、魔王に釣られるようにエリオットの呼吸も速くなっていく。視界いっぱいに映し出される半裸の魔王の姿は、すでに人型でありながら獣のようにうなり声をあげている。これはどう考えても先程までの魔王とは別人で、理性の欠片も感じられない。
「ま、魔王……様ぁ……放し……放して!! 誰かぁ!!」
叫ぶエリオットに魔王の体が覆い被さり、圧し掛かる重みで逃れることさえできず、一瞬死さえ覚悟した。
(ああ、このまま私は魔王様に喰い殺されて死ぬのかもしれない――)
性交というものがどのようなもので、どう行われるのかエリオットは知識としてしか知らない。性器と性器を繋げ合い、精を注ぐ行為とだけの知識はあるが、その詳細はわからなかった。でも明らかに、いまの状況はそれを行うものではないことはわかっている。
だから魔王が覆い被さってきた時、いよいよ喰い殺されるのであろうと覚悟を決めた。どういう過程を経て行為が行われるのかを想像するのをやめ、目をつぶっていたのだが――一向に、魔王がエリオットの上で動く気配がない。ただじっと覆い被さったままピクリとも動かず、圧し掛かられたまま段々と重みが増していく。
「……魔王、さま?」
「……ッは、ああ……ッはぁ、ッはぁ……」
そっと名を呼んでも返事がなく、それどころか苦し気な呼吸が聞こえてくる。まるで耐えるように喘ぐような声が漏れ聞こえるが、エリオットの上の魔王はやはり動かぬまま。肘をついて踏ん張るようにエリオットの上でうずくまっていた魔王であったが、やがて崩れるようにエリオットの上に倒れ込み、動かなくなってしまった。
これはただ事ではない。エリオットは自分が今しがたまで捕食されんばかりの勢いで魔王から迫られていたことも忘れ、大声で助けを求めた。
「魔王様!? 誰か! 魔王様が!」
「いかがされまし……ああ、魔王様!!」
エリオットの声をどこで聴きつけたのか、大声を出した瞬間にゼフが現われ、動く気配のない魔王を目にするなり、瞬時に指をはじいた。
するとどうだろう。あんなにびくともしなかった魔王の体はふわりと宙に浮かび、そのままゆりかごに揺られているかのように、浮かんだまま丁重に運ばれていく。どうやら魔王は意識を失っているようだ。
「あ、あの、魔王様は……」
「ああ、えーっと……今宵はもうお休みくださいませ、エリオットさま」
にこやかにゼフにそう促されるも、先程までの魔王の気迫などを思い返せば中断していいものとは思えない。でも、ゼフは魔王を隠すように連れて行こうとしている。
「で、でも儀式が途中では……」
ゼフに中断された儀式のことを尋ねると、ゼフは気まずそうな顔をしてうつむき、やがてため息交じりに答えた。
「今宵の儀式は、たしかに魔王様の魔力の復活を図ってのものでした。そのために、エリオットさまにはお越しいただいたのですから。でも……」
ちらりとゼフは眠る魔王を見やり、小さくため息をついてエリオットを気の毒そうに見つめた。
「でも、それすらもいまの魔王様の魔力では難しいようですね……」
「難しいって……そんな、じゃあ、ヴェルクレイン国はどうなってしまうんだ? だって、魔王様の魔力と我が国は繋がっていて……」
震える声で言葉を重ねて尋ねるエリオットに、ゼフは一層気の毒そうに眉を下げて見つめたかと思うと、深々と頭を下げて部屋を出て行ってしまった。意識を失ったままの、魔力がないと言う魔王を連れて。
残された半裸の状態のエリオットは、愕然としたままいま突き付けられている現状を整理する。
「魔王様が、魔力回復の儀式をするほどの魔力がない……ってことは……このままじゃ、ヴェルクレイン国は、衰退して……いずれ滅んでしまうかもしれないということ?」
言葉にした可能性に背筋が凍り付く。何のために自分がここに嫁がされ、命を懸けているのかまで無にされてしまいかねない現実を突きつけられたからだ。
「そんな……そんなのダメだ……でもどうしたら……」
魔力回復の儀式をさせるほどの魔力がないというのであれば、何をすればよいのか。何か手を打たねば、母国も自分も命がないと言える。それだけは、避けねばならない。
なんとかして魔王の魔力を回復させれば、きっと国は立て直すことができるのではないか。それが、自分に課せられた使命ではないだろうか。そう考えが至ったエリオットは、月明かりを見上げ、震える声で呟く。
「……そうだ、私が魔王様を元気にして、魔力を回復して差し上げるんだ。私は、魔王様に捧げられた生贄とは言え嫁なのだから」
そうしてエリオットは、ひとり月明かりの下で、魔王の魔力回復の意思を固めていた。
ようやく機嫌が良くなった所で、散歩をさせるついでにゼフがネヴィを連れ出してくれることになった。つかの間の二人きりの時間となり、途端に恥ずかしさが増してしまうのは何故なのか。 部屋の応接セットのところにはゼフが用意してくれたお茶やお茶菓子があり、二人はソファーに並んで座ってそれを味わっている。「ネヴィといると一日があっという間なんです。朝起きてから日暮れ寝てしまうまで、ずっとあの子に合わせて動いていると本当に一日が早いんですよ」 そう微笑みながらお茶を飲むエリオットは、出産前と変わらず愛らしい姿をしている。少し伸びた栗色の髪も、緑の大きな瞳も、アズラディーンには愛しさの象徴だ。 だから余計に会えなかった日々の切なさが胸に募り、反論してしまう。「俺にとっては、一日千秋よりも長い日々だったぞ。お前のいない日々は空虚でただただ長く……寂しかった」 小さくなっていく語尾に合わせるようにアズラディーンがうつむいていくと、その頭をエリオットがそっと抱き留めてくれる。久方ぶりに触れ合う彼はほんのりと甘い匂いがし、それが一層愛しさを煽っていく。「私も、寂しかったです……ずっと、こうしてアズラディーン様に触れたかった」「エリオット……」 名を呼び見つめ合うとそこには互いの唇があり、自然と惹かれ合っていく。数カ月ぶりに触れる唇は変わらずに熱く甘く、味わうごとに深く絡まっていく。「ッふ、ン……っは、っふぅ……アズ、ラディ……あ、ンぅ」 ソファーに組み敷くように横たえるエリオットの体に影を成しながら、そっとその首元に鼻先を押し付ける。やはり、エリオットからは甘い匂いがする。比喩でも気のせいでもなく、とろけるような懐かしいような匂いだ。これをできることなら、独り占めして味わってしまいたい。そんな欲望がむくむくと湧き上がってくる。「エリオット……その…
ゼフの計らいで実に四カ月ぶりにエリオットに会えることになったアズラディーンは、手持ちの中でも特にエリオットが好んでくれる服を選んだ。もちろん手土産も忘れていない。産後の体調を考えて新鮮な果物にしてみた。「アズラディーン様!」 エリオットの部屋は夫夫となる前に過ごしていた塔の中の部屋で、当時よりもより赤ん坊が過ごしやすい環境に整えてある。いずれここは成長したネヴィの個室にする予定だからだ。「ああ、エリオット。元気そうだな。なによりだ」 四カ月ぶりの対面で、エリオットも嬉しそうに駆け寄ってくれたと言うのに、アズラディーンはすました顔をしてしまう。寂しがってなどいないぞ、とアピールするかのような態度に、ネヴィを預かりに一緒に訪ねてきたゼフが呆れた顔をしている。「アズラディーン様が毎日お花を届けて下さっていたので寂しくありませんでした」 直接の対面ができない間、アズラディーンは毎日のように部屋の前に花束を届けていたのだ。特に置手紙などはつけていなかったはずなのに、エリオットにはわかっていたらしく嬉しそうに微笑んでいる。その笑顔に、アズラディーンの頬も緩んでいく。「そうか、それはなによりだ」「ネヴィもお父様のお花を見せるとすごくご機嫌になるんですよ」 ねー、と揺り籠の中にいる我が子に語り掛けるエリオットの姿に、アズラディーンの表情はこの上なくとろけていく。魔王の矜持はどこへやら……と、ゼフは苦笑気味に見守っているが、アズラディーンに構う様子はない。「ネヴィ、父が来たぞ。どれ、抱っこをしてやろう」 そう、アズラディーンが揺り籠の中を覗き込んだのだが、それまでニコニコとエリオットの顔を見つめていたネヴィの顔がたちまち泣き崩れていく。まるで化け物にでも遭遇したかのような泣き叫び様に、アズラディーンは慌てて顔をひっこ
「……もうよい、下げろ」 不機嫌さを隠さない声色で命じられた使い魔のゼフは、やれやれと言いたげにため息をついて皿を下げていく。主人である魔王アズラディーンに対して不遜に思われる態度かもしれないが、詳細を知れば使い魔にため息をつかれるのも無理はないと言える。「ゼフ、今日は何日だ」「ええっと、十九日でございますよ」 それが何か? と首を傾げるゼフに、アズラディーンは何でもないというように手を払う。 そうして残されたのは赤ワインの入ったグラスと呑みかけのボトル、それからいつもと変わりない赤身肉のステーキだ。 しかしアズラディーンは、好物であるはずのそれにほとんど手を付けていない。ナイフとフォークでひと口大に切り分けはするものの、ただもてあそぶようにそうするばかりだ。 先程ゼフに下げさせたのは、ゼフが作ってくれたミルクのシチューだ。野菜とたっぷりの月光草が入った料理で、これもアズラディーンの好物であるはずなのだが――美味しいと感じられなかった。「……ああ、ようやく四ヶ月になるのか」 一人きりになった食堂でそう呟き、テーブルを挟んで向かいの席を見やる。そこには誰もいない。いや、本来はいるはずなのだが……いまは席を同じうに出来ないでいると言うべきだろう。 アズラディーンの向かいに座るのは彼の伴侶であるエリオットなのだが、エリオットはいま四カ月前に生まれたばかりの我が子ネヴィに掛かりきりになっている。それは仕方がないことだ。 エリオットは元が人間の男性であったため、子どもを産むこと自体が異例である。そのため心身の回復に時間がかかっているため、魔力が強いアズラディーンの魔力にあてられすぎないためにも別室で過ごすことになっている。 それは致し方ない。愛しいエリオットに万一でも何かあってはならないのだから、背に腹は代えられぬ。 エリオットの手伝いも請け負ってくれているゼフによれば、産後の心身の回復には少なくとも三カ月は要するという話だ。
山々に囲まれた大陸の小国ヴェルクレイン国は、古来より魔王と関わりがある国として有名だ。その理由は、魔王の魔力と国の情勢が関係しているからだというが、最も信憑性が高い噂はとある生贄嫁の話だ。 とある時代、魔王の魔力が尽きかけ、ヴェルクレイン国の危機に陥ったことがあった。それは魔王に次ぐ上級魔物モルという者と、ハイランド伯爵家の結託による企みで引き起こされた人災であったのだ。 困窮した王はハイランド家で母親殺しと呼ばれていた令息を生贄嫁として差し出し、ヴェルクレイン国を救ったとされている。その仔細はその生贄嫁が魔王に愛を教え、真の意味で魔力を回復させたことによるとされているが、定かではない。 そうして魔物のモルは北の氷山に永久に封じられ、それと結託していたハイランド家は爵位はく奪の上追放となったという。「アズラディーンさま、バラの花が見事に咲きましたよ」「おお、随分と美しいな」 エリオットが大輪のバラを束にして抱えて入った先は魔王の書斎。ロイドメガネをかけて書物に目を通していた魔王にバラを見せると、エリオットはそれをひょいと放り投げてしまう。するとそれらは意思を持ったかのように動き出し、あっという間に書斎の机の大きな花瓶に活けられていく。 美しく飾られたバラに、魔王が感心したように目を丸くして微笑む。「だいぶ魔術も上手く操れるようになったようだな、エリオット」「はい。毎日ゼフに鍛えられておりますので」 そう苦笑するエリオットは照れたように頭に手をやり、そこに生える象牙色の羊に似た角に触れる。角の先端には耳飾りのような鈴が付いており、それは魔王の角の先端にも揺れている。 ささやかな二つの音が重なり、二人の距離がそっと縮まろうとしていた、その時だった。「|母様《かあさま》! |父様《とうさま》! ネヴィもお花をつんでまいりました!」 勢いよく書斎の扉が開き、小さな人影が
「ああ、愛らしいぞ、エリオット……」「アズラディーンさま……申し訳ありません……お手を汚してしまい……」「これのことか? 構わぬ。お前から溢れ出るものは一滴残らず俺のものなのだからな」 そう片頬をあげて笑ったかと思うと、魔王は白く汚れた右手に舌を這わせ、指先を咥えこむ。エリオットが吐き出した精液を味わい始め、しかも音まで立てるのだから、エリオットはまた羞恥心を煽られて悲鳴を上げる。「あ、アズラディーンさま! いけません! そんな、汚いです!」「汚いものか。これは愛しいお前が俺を感じてあふれさせた愛の証しだ。味わわずしてなんとするか」 そう恍惚とした表情でエリオットの精液を味わう魔王の姿を見つめていると、エリオットもまた欲情を煽り立てられていくのを感じた。まるで小さな種火だったそれが風を受けて勢いをつけ炎となるように。「エリオット? どうした?」 それまで寝台の上に組み敷かれていたエリオットが、ゆらりと身を起こし、魔王の許ににじり寄って来る。そうしてむき出しで露わになっている魔王のそそり立つ雄芯を前にして、ごくりと喉を鳴らした。 エリオットのものよりも何倍も長く太く大きなそれは、美しい造形をしている魔王の顔立ちからは想像もつかぬほど雄々しい姿をしている。 脈打ちつつ鈴口から先走りの蜜をあふれさせているそれを手に取り、エリオットは呟く。「……私も、アズラディーンさまを気持ちよくして差し上げたい……」 |性技《せいぎ》に関する知識は皆無と言えたが、それでもエリオットは自分からも魔王に愛を示す何かをしたくてたまらなかった。自分がされた以上の快感を魔王に施せるかはわからなかったが、それでも、疼く体と想いを止められない。 その想いが魔王にも伝わったのか、魔王はうっとりとした目でエリオットを見つめ、やわらかく髪を撫でながらうなずく。「
「最大の魔力を有する魔王がその力を維持し続けるには、心から愛する者と交わり、その証しである子を成さなければならない。それが儀式を行う最大の目的だ。いまお前となら、それも叶うかもしれぬ」 寝台に改めてそっと組み敷きながら、魔王がやさしくエリオットの体や頬、髪を撫でてくる。まるで宝物を扱うかのような手つきに、儀式という改まった名称の行為を前にして緊張を覚えていたエリオットの体の力が徐々に抜けていく。後頭部に手を宛がわれて横たわらせられると、ほうっと熱を持った吐息が漏れた。「本来であれば、儀式は婚姻を結んだ最初の夜に行うのだが……お前も知っているように、俺は大失態を犯しておるからな……」 出会って最初のあの獰猛な姿を見せられた夜のことを思い返すと、エリオットは思わず苦笑してしまう。いまでこそこうして笑えはするが、当時は死を覚悟するほど恐ろしかった。「そうでしたね。私、すごく怖かったんですよ、アズラディーンさま」「……悪かったと思うておる。だが許せとは言わぬ。俺は許されぬことをお前にしてきたのだから」「でも先日魔王様が私に触れて下さったとき、過剰に怖がらなければ、こんな事には……」「それこそ俺の責任だ。お前は何も悪くない」「ですが……」「お互い様だ、エリオット。俺たちはいまこそ互いを愛し合う伴侶となるのだ」 そう囁きながらエリオットを見下ろしつつ優しく頬に触れ、撫でてくる。注がれる眼差しはとても甘く、心から魔王に愛されていることを感じた。 だからもうエリオットは、以前された仕打ちのことを恨んではいない。傷ついたり怖かったりした気持ちをなかったことにはできないが、それをいつまでも憎しみとして燃やし続ける気はなかったからだ。それ以上にいまは、ただ一人の愛しい存在として想いを確かめ合いたいだけだった。その想いを示すようにエリオットは腕を伸ばし、魔王を抱き寄せて答える。「ええ、そうですね……だからアズラディ