とある春の日、私はパソコンの前でひたすら文章を打ち込んでいた。仕事だからというのもあるけど、好きな小説を書き続けるために向き合っている。 すると、私がいる喫茶店に同じ小説家仲間の先輩、雪菜が入ってきた。私を見つけるなり、カウンターにいる店員に「あの子と同じもの、頼むよ」と言った。その声がある程度まで大きいことは、何となく察してもらうこととして……。「理桜ちゃん、今日もやってんねえ」 私の向かい側の椅子に座ると、雪菜は嫌にニヤついている。雪菜のウザ絡みにため息をつきながら、文章を打ち込む手は止めない。「そりゃあ、仕事ですもの。書かないと生活ができないんですよ?」「それはそうか。ふふ、頑張ってね、先生」「先生って……恥ずかしいなぁ。まだ違うから。頼むからその呼び方やめて?」「はいはい」 ニヤニヤしている雪菜を置いておいて、私は気にしないふりを続けた。 私が小説を書くようになったのは、彼氏である伊都が消えてしまったことがきっかけだった。その話をひたすら書いている最中である。 当時は悲しかったけど、今は吹っ切れた……と思いたい。こうして小説にして、言葉にしないとどうにかなりそうな気持ちを発散してる。「理桜ちゃん」 雪菜の声に、私は顔を上げた。途端に雪菜は、指で涙をぬぐってくれた。「泣いてると、私、心配になっちゃうよ」「ごめん。いつもお世話になっちゃってるね」「そんなことないよ。深くは聞かないけど、今書いてる物語でどうにか発散しようとしてるんだよね?」「……うん」「分かるよ、読めば。苦労してるんだなってわかる」 雪菜らしくない真剣な表情に、私の喉がヒュッとなった。緊張が走ったという表現が正しいのかもしれない。 そういえば最近、雪菜が私専用の編集者になると、上に掛け合っているらしい。その事情も、私が今書いている小説の内容に直結しているのだ。あまりにも一人で作業をさせていると可哀想だというのだ。 ──そんなことないのに。大袈裟だなぁ。 私は周りの人たちに迷惑をかけまいと生きてきた。でも、それは不可能で。気が付いたら私を応援する人がいたり、非難する人がいたり。その言葉たちに喜んだり、泣いたりして忙しい。 いったいどうすれば迷惑をかけずに生きれるのかを考えるけど、死ぬことしか解決しないんじゃないかと思うこともしばし
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