LOGIN久しぶりに付き合った彼氏が、突然消えてしまう。SNSだけでなく、存在ごと消えてしまった。連絡先はネット上のみ。遠距離恋愛をしていた理桜(りお)と彼氏の伊都(いと)の間にはいったい何があったのか。 そのことをひたすら小説として書いていく。頭を整理したくて、今までの行動や言動を振り返っていく。散々迷惑をかけておいて彼氏を見つけるとか……あまりにも自分勝手なんじゃないか、と考えてしまうが、もう既に書く手は止まらない。
View More印象的に残っているのは、この時だ。 付き合って三カ月経つ頃に、私たちは再会した。久しぶりの胸の高鳴りに、私の恋心は加速していった。 ──────……「俺の事、どう思ってる?」 最初に聞かれた質問は、伊都《いと》自身のことだった。 付き合い始めて、まだ半年。お互いに社会人だからか、会える時間は限られている。数時間だけ、ちょっとだけっていうのもある。 電車で何時間もかけて会うことは、いつもの日課だった。 そんな時、彼からの突然の質問に、私は少し首を傾げて、えーっとねと一言加えながら返事をする。「大好きだよ」「そうじゃなくて」「え?」 真剣な眼差しを向けられると、伊都になんていう言葉をかければいいか分からなくなった。「俺の事、本当の意味でどう思ってる?」「本当の意味で?」「うん」 難しい質問をするなぁ。うーん、どうだろ。 考え込むのも変だけど、ちゃんとした答えを出したくて、首を傾げて考え込んだ。「別に考え込むほどじゃないのに」「だって、不真面目な返事はしたくないじゃん」「そりゃそうだけど」 伊都は少しだけ眉間にしわを寄せながらも、私の話を聞こうと体を向けた。 その姿を見た私も、体を伊都のほうへ向ける。「私はね、伊都のね、真剣に物事に取り組む姿が好き。上手くいかない時、私に話を聞いてってしてくるとこも好き。元気になったらニコニコしてピースするのも好き。でも、なんやかんやで私との時間も大事にしてくれるとこも好き」「当たり前だろ。俺は理桜の彼氏だぞ」「ふふ、そうね」 ふんすっと得意げにする伊都が可愛くて、思わず微笑んでしまう。 不安だったのかな。たまにそういうとこもあるよね。不安がって質問攻めしてくるとこもある。でも、悪い気はしない。だってそれが必要な事だと分かっているから。 すると、伊都はなにも言わずに手を広げてきた。何をしてるんだろうと考えていると、不機嫌になって「ぎゅーってしねえの?」って聞いてきた。 か、可愛い……。いいんですかぁ、私で? なんて思いながら、私は「し、失礼しまぁす」と言いながら、彼の腕の中に包まれた。「捕まえたっ」「ズルくない? 伊都からおいでってしたじゃん」「引っかかるほうが悪いじゃん?」「うわぁ、性格わるぅ」 そう言いながら、二人で「わははっ」と笑いあった。 ある程度、笑いあう
バラバラの記憶を、パズルのピースを合わせていくように、私は小説に書き残していくことにした。机に着席して、新しく買ったパソコンの前で文字を打ち始める。 まずは、そうだなぁ。私たちが告白した時の話を──。 ────── 付き合う半年前。「今日もカラオケ行かねぇ?」「ええ? またぁ?」 キャッキャッと騒いでいる若者をかき分けるように、私はとある人を探していた。 ネットで知り合った人の──伊都だ。彼とは同じ界隈の、オタ活アカウントで知り合った。話していくうちに打ち解けていって、どこかで会いませんかという話まで飛躍したのだ。 そんなこんなで、伊都が『一緒に夏祭りで花火が見たい』と言ってくれた。嬉しかったので、即了解を出した。 別に付き合っていない。付き合う予定もない。なのに、周りからは『お似合い』の言葉が飛び交ってしまった。特に親とか友達とか。 とても迷惑だと言ったけど、私はなぜか悪い気はしなかった。その意味は分かっていなかった。だって今は、伊都に夢中だから。「あの、伊都さん、ですよね?」「は、はいっ」 聞き慣れた低い声。敬語が取れない感じ。伊都本人だと直感した。「えっと、理桜さん、ですよね。俺の我儘を聞いてくれて、ありがとうございます」「もう、堅苦しいなぁ。大丈夫だよ、タメ口で」「悪いです。俺はこのままでいいので……」「うん、そっか。君がそれでいいなら、いいよ。行こっか」 私は伊都の手を引くような形で、夏祭りへ飛び入り参加をした。 こうやって誰かと遊びに行くなんて、私の人生の中では全くなかったから、嬉しかった。その分、自分なんかで楽しいのかなって考えちゃうこともあった。 ちらりと後ろを見ると、伊都は申し訳なさそうに手を引っ張られながら、顔を赤くしていた。(なんだ、可愛いとこもあるじゃん?) ふふっと笑みがこぼれてしまった私は、調子に乗って、いろんな出店《でみせ》をまわった。 これはどう?とか、美味しい?とか聞いてみた。そしたら、緊張が解れてきたのか、少しずつ笑顔が増えていった伊都。 じゃがバターを買った私たちは、近くにあったベンチに並んで座る。箸で簡単にほぐれてしまうジャガイモと熱さで少し溶けているバターに、見るだけでおいしさが伝わってきた。 ジャガイモに箸を通すと、ほろほろと零れていく。そのタイミングで口に運ぶと、優し
私たちが出会ったのは、そう──SNS上だった。私たちが同じアニメ界隈を好きになっていなければ、出会っていないともいえる。それだけ貴重な出会いだったと、今も思う。 気が付いたら彼を追ってて、一緒に通話をする仲になって、楽しくて──。 また話したいなっていう気持ちが溢れては消えていった。それを伝えるのはなかなか難しかったけど、通話に誘うと来てくれるのが嬉しかった。 だからSNSは、私たちにとって出会いの場だった。私は消したくなかったから残してたけど、彼は消えてしまった。遠くに行ってしまった。話せない。もう話せないんだ。 それがどれだけ悲しくたって我慢しなきゃ。だって、彼を見つけても本アカじゃなくて、息抜きの為のアカウントであれば見れるかもしれない。って思ったんだけど、全然見つからない。 本当に消えてしまったんだ。どうしよう。 雪菜さんに連絡して、そして、そして……。ええっと、どうすれば? 息をするのも苦しくなってきた。何度も何度も呼吸を整えながら、私は雪菜さんにメッセージを送る。『いないです。全部消えてました』『本当に? あの子が使いそうなアカウントも?』『無かったです』『マジかぁ』 残念そうな言葉に、私も胸の中にぽかんと穴が開いているような感じがした。本当にいなくなってしまったんだと、私は強く後悔した。 もっと楽しく会話していたらよかったのかな。でも、喧嘩ばっかしていたから、仲直りどころじゃなかったんだもん。どうすればいいんだろう。本当に。『じゃあ、携帯会社に連絡してみるとか……』『でも、営業時間は過ぎてたし』『営業時間が過ぎてるタイミングで出ていったんですか?』『そういうこと』『ええ……? じゃあ、本当にどこに行ったのか分からないじゃないですか』『そうなんだよねぇ。困った弟だよ』 本当に困っているようなのか、即座に連絡が入る。それが心地いい。 伊都とは違う。でも、伊都がいなくなったから雪菜さんと連絡が取れるんだ。複雑だなぁ。 すると、突然、着信音が鳴った。相手は雪菜さんからだ。『もしもし、理桜ちゃん?』「雪菜さん、その、そちらのお母さんとお父さんは……?」『ああ、こっちは全然だよ。それより、理桜ちゃんと一緒に来てほしいところがあったのよ』「来てほしいところ?」『そう』 雪菜さんは一息ついてから、話を続ける。
【理桜Side】 新幹線に乗ると、涙をこらえていた。ひたすら窓の外を眺めながら、意識を風景へと移そうとするが、どうしても伊都のことが頭から離れない。『なんでいるんだよ』 その言葉に、胸がチクリと痛む。どうして……伊都はあんなことを言ったんだろう……? 嫌いになったのかな、好きって言ったのも嘘なのかな……って何度も考えてしまう。恋愛に向いてないなぁ、私。 悲しくなっていると、通知がピコンッと鳴った。 慌ててLINEを開くと、メッセージの相手は伊都だった。何の用だろうか。『理桜に酷いことを言った』『謝らせてほしい。本当にごめん』 伊都が本気で謝ろうとしてる? でも、信用できるだろうか。さっき言った言葉が嘘になると、私はいったい何を信じればいいか分からない。 正直な言葉をそのまま綴ることにした。そして、送信ボタンを押す。『怒るかどうかも心配だったけど、あわよくば喜んでくれると思ってた。でも、なんでいるんだよっていう言葉は傷ついた』『でも、何で伊都も駅にいたの?』 すると、すぐに既読が付いて、返事が返ってきた。『俺も会いに行こうと思ってた。毎日通っていたんだよ、駅に』『たまたま時間が合ったんだよ』 そう言ってくれたから、ほっとした自分がいた。 自分に会いに来てくれると思ってくれているだけでも、だいぶ嬉しいのに。なのに、あんな言い方……。喜んでくれると思ってたのに、ショックだった。 まあ、何も言わずに会いに来た私も悪いけど、なんか、ごめんね?って感じちゃうのが罪悪感に苛《さいな》まれてしまう。『そっか。でも、言い方には気を付けて。私だって傷ついたから』 正直な言葉を、あなたに──。 そしたら、伊都から素直な言葉が返ってきた。『うん、ごめん。分かった、気を付ける』 伊都の言葉に、私は胸を撫でおろした。気を付けるだけでも、私は満足である。 スマホの画面を閉じて、高速で流れていく外の景色を眺める。会いに行くときとは気分は変わっていた。とても穏やかな気持ちになっている。 私はもう伊都から逃れられない。囚われているとも言えるかもしれない。 それでも彼の──元気そうに過ごしている姿を見れただけでも嬉しい。単純な女で本当に申し訳ないんだけどね。これも本音だもの。 嫌なことを言われても、私は強く生きる。そう決めた。 その時だった。「
会う約束をしようと思い、自分から連絡を入れる。 連絡してねと言っても、彼から連絡が来ることは殆どないからだ。 忙しいからっていう理由もあるんだろうけど、少しくらいは連絡をよこしたっていいじゃん、なんて考えてしまう。 すると、彼から連絡が入った。今度、会う予定のものだ。『ごめん、その日は忙しくて』 ワクワクしていた気持ちが一気に崩れた音がした。『じゃあ、休みの日は? 合わせるよ』『それは分からなくて……ごめん』『大丈夫だよ。分からないなら、しょうがないね』 どういう事なのかと、考え込んだ。 私が悪いことでもしたのかなって思った。それとも浮気? 早くない? だってねぇ、伊
目が覚めて、一度鏡を見る。目の下には隈ができていて、髪はボサボサ。人前に見せられるようなものではないことは確かである。 仕方なく化粧用品を広げて、メイクをする。できるだけナチュラルに、隈がバレないように。その為にも、人気なメイク動画はよく見るし、参考にするようにしている。 まあ、実際に参考にできているかは、さておいて。 メイクが終わると、今度は朝食の準備。一人暮らしだから誰かに作ってもらうこともなければ、誰かが待ってることもない。だからか、適当なものになる。今日は目玉焼きとベーコンで十分か、と思い、朝食を完成させる。「いいねぇ、十分美味しそう」 誰にも届かない言葉。ニコニコして作
遠距離恋愛を覚悟してからというもの、通話できない日はひたすら我慢することが増えた。 何もできない自分が嫌になることもある。でも、甘えられるほど伊都だって暇じゃない。それも承知の上で付き合っている。 そんな私は仕事から帰ると、とにかく問題視している『寂しさ』に視点を置くことにした。寂しいっていう感情は、非常に面倒なものだ。相手にとっても、自分にとっても、悪影響しか与えない。 だから私は、我慢をすることにした。泣きたくても泣かないでやろう。そんな風に考えた。どうせ、遠距離なんだから、誰も見ていないんだから、と思った。 自分勝手だなぁ……と何度も思う。 それでも真面目に生きていかなきゃ
付き合って三日目。 不安が一気に押し寄せてきた。私なんかでいいのかと頭の中が支配されてしまって、どうしようもない。 伊都、伊都、伊都。と、頭の中が好きな人のことばかりになっていた。 声聞きたいという口実で、自分の寂しさを他人で埋めようとしていたのかもしれない。 今思えば、ここから全てが始まっていたのかもしれない。「ごめんね、時間を作らせちゃって」『うん、いいよ。俺もちょうど声聞きたいなって思ってたから』「よかった」 こんな些細な会話。私たちの会話は小さなもので終わってしまう。 会話を広げる努力すらしてこなかったから、どうすればいいかわからなくて。伊都が本当に私なんかを好き