「海亜!」「昴さん!?」 突然襲われる浮遊感。背中越しに伝わる温もりに慌てて振り返ると、直ぐ傍に迫る昴の拗ねた顔に思考が止まってしまった。「僕から海亜を奪おうだなんて、許さないからな! 星奈!」 一瞬、何を言われているのか分からなくて頭が混乱してしまう。耳が捕らえた言葉を反芻し、漸くそれを理解したと同時に真っ赤に染まる頬。「奪おうって、別に海亜さんはお兄ちゃんだけのものじゃないでしょ?」 海亜を無視して繰り広げられる不毛な争いからは、予想外の独占欲が垣間見える。星奈の方は単純に、兄嫁のことが気に入って構って欲しいという程度のものではあったが、昴の方は完全に、伴侶を誰にも渡したくないと牙を剥く程の熱量だ。「随分と愛されてるんだな」 その争いに加わること無く外野からこのやり取りを眺めているのは、二人の兄の昇だ。「モテモテで羨ましいねぇ」 からかいを含んだ意地悪な台詞と、陽気な笑い声が廊下に響く。「昇お兄様!!」 恥ずかしさに耐えられず大きな声で叫べば、脱兎の如く駆けだした昇がそそくさとその場から姿を消してしまう。後に残された下の兄妹はというと、相変わらず睨み合いを続けている状態で。「お兄ちゃんは毎日海亜さんと会ってるじゃない! 偶には私が一緒に居たっていいでしょ!?」「ダメだダメだ! お前と会うことを許可したら、海亜が帰ってこれなくなるだろうが! それは困る!!」 背後から腰に回された腕に僅かに力が込められ、さらに密着する互いの身体。首元に掛かる息が髪を揺らしくすぐったい。「偶には女同士で過ごす時間も必要なんですー」 お兄ちゃんの意地悪! 海亜の形の良い手を握ったまま星奈が舌を出して昴を煽る。「それに、束縛が強い男は嫌われるんだよ!」「なっ……」 その言葉に動揺したのだろうか。一瞬緩んだ拘束に海亜の身体はバランスを崩し前に傾く。「行こう! 海亜さん!」 その隙を見逃さない、と。軽く手を引っ張り昴の拘束から海亜を救い出すと、星奈は繋いだ手に力を込めて海亜を引っ張り歩き出した。「星奈!!」 着かず離れずの距離で続け追いかけっこは、目的の部屋に辿りつくまで続く。無理に距離を詰めず距離を保って後に続く昴の方を何度も振り返りながらも、海亜は素直に星奈の後に着いて歩いたまま。束縛が強いと思ったことはないが、今日は色々予想もしなかった
Last Updated : 2026-07-11 Read more