私は窓辺へ行き、階下を見下ろした。郵便受けはエントランスの脇にある、目立たない緑色の箱だった。階段を下りて、郵便受けを開ける。中には封筒が一通入っていた。とても薄く、手に取ると頼りないほど軽かった。入っていたのは、一枚の紙と車のキーだけだった。紙には、彼の字が並んでいた。車は私に残す、と書かれていた。君には、もっといいものがふさわしいから、と。その下には、三本のマフラーを編んでいたときの気持ちが綴られていた。私がそれを巻いている姿を想像したこと。驚かせたかったこと。最後の一文だけ、筆圧がやけに強かった。【幸せになってほしい】私はその紙を、長いあいだ見つめていた。それから丁寧に折りたたみ、封筒に戻した。そして、そのまま郵便受けの中へ押し戻した。車のキーだけが、手のひらに残った。ひどく冷たかった。私は身を翻し、階段を上がった。三階まで来たところで、ふと足が止まった。その角度からは、階下の街灯が見えた。淡い光の輪の中に、見慣れた人影が立っていた。彼は私の住む建物を、長いこと見上げていた。やがて背を向け、ゆっくりと通りの角へ歩いていった。その姿は、夜の中へ消えていった。私はしばらく、その場に立っていた。彼の姿が完全に見えなくなるまで。それからまた階段を上がり、部屋に戻った。鍵をかけ、ドアに背中を預けて目を閉じる。胸の中には、想像していたような痛みはなかった。ただ、ぽっかりと穴が空いたような感覚だけがあった。テーブルの上にはコップが置かれたままだった。けれど中の水は、もう一滴も残っていなかった。私は窓辺へ行き、カーテンを開けた。窓の外には澄んだ夜空が広がり、星がいくつか浮かんでいた。遠くから、かすかな車の音が聞こえる。この街は、いつもどおり動いていた。これまでの、数えきれない夜と同じように。それでも、確かに変わったものがあった。私はスマホを手に取り、瑶子にメッセージを送った。【瑶子、明日空いてる?家探しに付き合ってくれない?】すぐに返事が来た。【いいよ。どんな家を見るの?】【本当に私のものになる家】【分かった】私はスマホを置き、リビングへ行ってスピーカーの電源を入れた。長いこと聴いていなかった曲
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